『 ビジター Z 』
ピンポーン。
長閑な午後の昼下がり。
食事を終え、のんびりと過ごしている、休日。
ソファで、ふたりして寛いでいた、アスランとカガリは顔を見合わせた。
「・・・誰だろう?」
来訪者の予定はなかった筈だ。
面倒くさそうに、アスランはソファから立ち上がり、玄関へと向った。
が、その間も、五月蝿いくらいに鳴らされる、呼び鈴の音に彼は眉根を寄せた。
こんな鳴らし方、するのは、決まった人間だけ。
不愉快そうな表情を浮べ、アスランは玄関扉を開ける。
「・・・もう少し、辛抱というものは出来ないのか? イザーク。」
「客を一分以上待たせるのは、『失礼』だとは思わないか? アスラン。」
・・・なんで、顔を合わせる早々で、こんな喧嘩越しにならなくちゃならないんだ?
妙な言い掛かりに、アスランはきつく眉を寄せ、イザークを睨んだ。
間を計ったかのように、アスランの横から、カガリがひょっこり顔を覗かせる。
「あ! やっぱり、お前かっ!」
カラカラと笑い、彼女はイザークを見やった。
ふと、イザークの後ろに佇む、女性の姿にカガリは瞳を開く。
「・・・珍しいなぁ〜 女連れなんて。」
「女? ・・・女、って? コレのことか?」
あまりにも失礼な物云いだが、イザークは自分の後方に控えていた、女性を指差した。
「他に女は居ないじゃないか?」
きょとん、とし、カガリはイザークと女性を交互に見る。
漸く、カガリの云った内容が、正確に脳に伝達されると、イザークはみるみる顔を紅に染めた。
カガリ、云う処の、特定の付き合いでもしてるのか? という、意に。
「ば、馬鹿者ッ! これの、何処がッ!! コイツはれっきとした俺の『部下』だッ!」
イザークの怒鳴り声にも、堪えた様子を見せず、カガリはほよん、とした顔つき。
「貴様には、この『赤服』が眼に入らんのかッ!」
どこぞの時代劇にでもでてきた、偉いお人の付き人が吐く台詞もどき。
イザークは、こめかみに怒りマークを浮べ、口からは炎が噴出しそうな勢い。
「・・・。 あ、ホントだ。」
ようやっと、気が着いた、というような、カガリの反応を見て、アスランは額を抑えた。
なんで、そんな詰まんないことで、一々、イザークを怒らせるんだ?
というような、彼の呆れた顔。
それでなくても、イザークの怒鳴り声を聞いているだけで、頭痛がしてくるというのに・・・
のんびり過ごしてる時間帯に、態々、予告もなしに、尋ねてくる方も、来る方だが、
なにも、そんな状態の人間に対して、また煽るようなこと、云うなよ・・・
と、心のなかで思い、アスランは小さく息をつく。
「ま、玄関で立ち話もなんだから、入れ、入れ!」
当主のアスランを無視し、カガリはふたりを家に招く言葉を紡いだ。
「いや、今日は急ぎでこれを届けねばいかんのでな。」
真摯な態度に切り替え、イザークは右手に持った、アタッシュケースを翳した。
「・・・また、宅急便屋か?」
カガリは呆れ、肩をあげる。
「宅急便屋、云うなッ!! 誰も好き好んで、引き受けているわけじゃないッ!!」
毎度のこと、彼が地球に降り立つ用、というのは、プラントの技術部から託される、
エリカ・シモンズ宛の、書類。
だが、ケースの中身が、地球の運命すらも左右するかも知れない、機密事項に類する
ものなら、技術部の所員が、イザークを頼るのも頷けることだ。
体術や、銃の扱いは勿論、スペシャリストの域に達観している、イザークだからこそ。
そこいらに居る、下手なSPに依頼するくらいなら、彼に一任する方が、どんなに安全が保障されるか。
100%のものを求めるなら、彼こそ適任。
もっとも、当の本人は、甚く、ご立腹なのは、毎度のパターンなのは、否めないが・・・。
「アスラン。」
「ん?」
「済まないが、車を貸してもらえないだろうか?」
イザークは、素直な要求を、目の前のアスランにしてきた。
「それは、構わないけど・・・」
「それと! 済まない、もうふたつ程、頼みたい。」
ずい、とおもむろに、アスランの面前に差し出されたのは・・・
例によって、例のもの。
猫を入れた、キャリーケース。
ちらりと、イザークは、背後にも視線を配る。
「俺が、モルゲンレーテに行ってる間、“コレ”と“彼女”を頼みたい。」
「・・・ああ。それは、構わないけど。」
男、ふたりの会話を割って、カガリは透かさず、イザークから、キャリーケースを奪う。
「久し振りだな!お前たちッ!」
彼女が、ケースのなかに話し掛ければ・・・
にゃう〜〜〜ん!
甘えた、猫1。 翠の瞳を持つ、アメリカンショートの声。
にゃおぉ〜ん。
相槌を打つような、猫2。 金の瞳を持つ、碧眼の眼の愛妻が返事を返す。
それを掻き分ける仕草で、子猫たちが首を突き出している。
ケースのなかでは、まるで、「こんにちわ」とでも挨拶するような、猫たちの声が響く。
「用件はわかったから、早く行ってこい、イザーク!」
カガリは、言放ち、キャリーケースを抱えると、女性の手を掴み、家の中にさっさと
戻っていってしまう。
呆然として、それを見送る、アスランとイザークは、カガリの即決さに、呆気にとられ、
暫く玄関先で立ち尽くしていた。
我に返り、アスランは玄関内に備え置いてある、キーケースを開け、鍵の束を手にする。
その足で、イザークを車庫に導き、彼は、どの車でも好きなのを・・・ と云い告げた。
「・・・“BMW”、“リムジン”に、“ベンツ”? ・・・それに、“RX−7” と、・・・なんだ?この派手な
形のスポーツカーは?」
彼は、訝しげに眉を寄せ、黒塗りのアスランの愛車を見下した。
その視線に、アスランは苦笑を零す。
「慣れたら、こっちの方が良くなっちゃってね。」
「ふん! 今時、マニュアル車など、環境破壊の手伝いしてどうするんだ?」
鼻を鳴らし、イザークはアスランを一瞥する。
「エレカは、静か過ぎて、面白くないんだよ。」
「貴様の趣味も随分変ったものだな? アスラン・ザラ。」
嫌味の嵐。
それでも、オーブに移住してからは、この車が自分の手足も同然。
長く乗っていれば、それだけ愛着も沸くというもの。
「こっちの、“RX”は、やけに傷だらけじゃないか?」
アスランの車の横に並んだ、赤くカラーリーングされた、スポーツカーに、イザークは視線を移す。
「そっちは、カガリの。」
「運転、ヘタクソだな? なんだ?この傷。 あっちこっちへこんでボコボコじゃないか。」
「免許、取ったばっかだから。」
苦笑いし、アスランは、イザークを見る。
※すみません、文が長いということで、変更する
のに蹴られてしまったので、内容ふたつに分けます。
↑の続きは、「[」に続きます。;;
※この壁紙イラストは「M/Y/D/S動物のイラスト集」よりお借りしています。
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