「艦長、スカンジナビア王国軍のヘリが、こちらに着艦したい、とのことで
許可を求めていますが。」
一休みを終え、軍港に帰投する途中、新たな通信に、『アマテラス』の艦長、
ソガは瞳を開いた。
許諾を求めるように、カガリに視線を向けると、彼女は一度頷く。
「着陸を許可する。スカンジナビアのヘリに、通信を。」
「了解。」
通信官の女性士官は、手順に従い、着艦許可を通達する。
大型ヘリの、風を巻き上げるローター音に、フライトデッキで、掃除に励んでいた
クルーたちが、視線を向ける。
一様に、『なんだ?』という、訝しむ目線が注目した。
ヘリが到着するや否や、カガリとアスランは、出迎えにフライトデッキに姿を現した。
アラビア風の衣装を纏い、頭には、布頭巾を被っている。
輪止め押さえで頭巾を纏めた長衣姿の男性がひとり、ヘリから降りてきた。
「お久し振りです、アスハ代表、ザラ補佐官殿。」
握手を交わし、蜂蜜色の肌、今風の短髪の眩しい金髪を風に揺らし、アイスブルーの
瞳を持つ青年は、微笑む。
「ああ、本当に、久し振りだな、イズミ王子。 国王様は元気でおられるか?」
カガリは笑んで、王子と呼んだ青年を見た。
「父は相変わらずですよ? 元気なんて、可愛いもんじゃありません。毎日、
欠かさず、カガリ様の組み立てた、筋トレに励んでいますんで。」
「それは結構なことだ。また機会を見計らって、ぜひ、親睦会でも催さねばな。」
「ええ、伝えておきます。 ところで、先ほど、模擬戦闘で、私と撃ち合ったパイロットに、
ぜひ一目会いたく、非礼と思いながら、こちらに馳せ参じたのですが。」
「ほう。」
カガリは、眼を細め、イズミと呼んだ、青年王族の若者を見た。
「モビルスーツ形態に変形した時に、左肩口の部分に、『波を従えた白獅子』の
エンブレムを刻んだ、“ムラサメ”なのですが。」
「私の機体よ、それ。 なにか用かしら?」
話を聞き齧っていたミューズが、パイロットスーツの上半身を脱ぎ、ウェストの部分で
スーツの両手を縛り、デッキブラシを肩に担いだ恰好で、声をあげる。
「・・・君が、あの“ムラサメ”のパイロット?」
ミューズは、胡散臭そうな視線で、まじまじと、青年を下から上へと見上げた。
「失礼、娘です。 紹介が遅れましたが、名前はミューズと言います。」
カガリは、愛娘をイズミに合わせる仕草で手を差し伸ばす。
「・・・ミューズ? 良い名前だ。 俺は、スカンジナビア王国、第6王子、イズミ。
イズミ・ドゥジャイル。 よろしくお見知りおきを。」
眼を細め、イズミはミューズに視線を向けた。
その彼の視線を見て、アスランは眉根を寄せる。



イズミの視線のなかに見た、まるでミューズを値踏みするような、『男』の目線を
感じ取ったからだ。
男親だけが持ち得る、勘のようなものが、アスランの身体に不快感を齎す。
「アスハ代表、もしお許しが頂けるなら、ご息女とふたりだけでお話できる機会を
いただきたいのですが。」
イズミは、カガリに向き直り、緩やかに笑んだ。
ちらり、とカガリはアスランに視線を配る。
彼の表情を伺えば、視線は思いっきり、『断れ!』と言っている。
「あ〜 ・・・え〜と、だな・・・。」
迷ってるカガリを尻目に、ミューズは強い口調で言放つ。
「艦内はお断りだけど、通路の甲板デッキで良かったら、お話を聞くわ。」
「ありがと。」
にっこり笑んで、イズミは、ミューズのあとについ行った。
その後ろ姿を見て、アスランは益々険しい顔つきになる。
「なんて顔、してるんだ?アスラン。」
「・・・あの男、気に入らない。」
憮然と言葉を漏らし、アスランは吐き捨てる。
「そんなこと言ったって、無碍な扱いも出来ないだろ? 相手は王子だからな。」
はあ〜と溜息をつき、カガリも疲れ気味の息を漏らした。
「話、ってなにかしら?」
ミューズは、相変わらず、デッキブラシを肩に担いだまま、導いた、通路甲板で
イズミの方に向き直る。
潮風に、髪を弄ばれ、ミューズの金髪がたなびく。
「俺は、強い女が好きなんだ。 君、俺の国に嫁いでこないか?」
「はあっ!?」
臆面もなく、イズミはさらりとミューズに言放った。
驚き、ミューズは口をあんぐり開ける。
あまりのびっくり宣言に、彼女は僅か沈黙する。
ようやっと、口を開けば、飛び出してくる言葉は、あまり品の良い物ではなかった。
「今、会ったばかりの女に、プロポーズ、なんて、それは貴方の国の慣習なの?」
「さっきの模擬戦闘で、君は俺の機体を撃墜させた。あの時は、かなり悔しいとは
思ったけど、君の顔みたら、欲しくなっちゃったんだ。」
「・・・どっかで訊き覚えのある声だと思ったら、貴方、最後に私が撃った、隊長機の・・・」
「ご名答。」
罪のない笑顔で、イズミは笑う。
「なら、問題外。貴方が、強い女が好き、って言うなら、私は、お父さんを越えるような、
強い男が好きなの。 女に一撃でやられるヘタレなんて、ご免だわ。」
「こりゃ、手厳しいな。」
苦笑を浮かべ、イズミは笑った。
「でも、あれは油断しただけだ。今度はちゃんと勝つさ。」
「ふ〜ん。」
鼻白んで、ミューズは小馬鹿にしたような視線で、イズミを見やる。
「大体、貴方、王族でしょう?王子、なんて地位にいるなら、王位継承権持っているん
だから、私のようなじゃじゃ馬より、もっと清楚な女の子選んだらイイじゃない。」
「云っただろ? 俺は、強い女が好きなんだ。 お人形のように飾り立てられた女は
面白みがない。 じゃじゃ馬慣らしも、楽しいかなて思ってね。」
本心での腹を見せない、話し方をするイズミに、ミューズは苛立つ。
「王位継承権があったって、俺は第6王子。 順当に考えても俺が王位につける可能性が
あるのは、よぼよぼのじいさんになった頃かもな。父は至って元気だし、うえの兄上たちも
これまたすこぶるご健全だ。しかも、長兄には、ふたりの御子までおられるしな。」
「だから?自分は、自由の身に近い存在だと、好き勝手やってるわけ?」
「好き勝手は、語弊だな。王族としての義務は果たしているさ。」
イズミは、緩く笑い、ミューズを見詰める。
「王家の家訓のひとつとして、武勇を尊ぶ、という心構えが存在する。軍に在籍することも、
そのウチのひとつだ。」
「そんなこと、私には関係ないわ。 私は『アスハ』と『ザラ』の名を受け継ぐ者よ。今の処、
結婚なんて考えちゃいないけど、するなら、婿希望。 嫁は、選択外だわ。」
「そう。」
イズミは、ミューズの言葉に薄く微笑むだけ。
「貴方のその眼つき、誰かに似ている。」
「ほお?」
突然、ミューズは空を仰ぎ、視線を逸らした。
「ああ、思い出した!フラガのおじ様に似ているんだわ!」
「フラガ? それは、ムウ・ラ・フラガのこと? あの、『エンディミオンの鷹』の字を持つ?」
「ええ。」
フラガの、過去の軍歴で掲げられた、英雄としての証。
「そりゃ、光栄だ。」
にっこりと、イズミは微笑んだ。
「さて、そろそろ戻らないと、部下が心配するから、俺はそろそろお暇するよ?」
くるり、と踵を返し、イズミは元来た道を辿り始める。
歩き始めた歩を緩め、イズミは首だけを向け、ミューズに視線を向けた。
「さっきのプロポーズは、本気だから。また正式に、君のご両親にもお願いするけど、
とりあえず本人に伝えておくのが、筋だと思ったんでね。 また会おう、ミューズ・アスハ・ザラ。」
「お断りッ!!」
舌をだし、ミューズはあかんべー、という風に、イズミに向って毒を吐く。
歩き出す彼の背を睨みつけ、ミューズはガンッ!と甲板デッキの手摺を持っていたデッキブラシで
殴り、叩きつけた。
「なんなの!? アイツ! めちゃくちゃ、嫌いなタイプだわッ! 二度と来んなッ!疫病神ッ!」
彼女は吼え、イライラした矛先の感情を、そこら中に当り散らす。
蹴り上げた、艦の鉄扉。
逆に逆襲を喰らい、ミューズは痛みに顔をしかめ、その場に蹲ったのだった。





アスランは、手にしていた書面を睨みつけ、その内容に眼を逸らさず、視線を落としている。
だが、紙片を掴んだ両手は、わなわなと震え、彼は怒鳴った。
「こんな、内容の書簡、受諾できるかッ!!」
叫けび吼えた瞬間、彼は手にしていた書面をビリビリに破り千切る。
千切った紙を、これまた丁寧に、ぐしゃぐしゃと丸るめ、アスランは叩きつけるように
丸めた、ゴミくずと化した紙を、カガリのデスクの横に備え置かれたゴミ箱に力一杯
投げ込んだ。
ガンッ!
もの凄い音を響かせ、彼の手から投げられた、書面紙は、クズ籠に吸い込まれた。
あまりの、反動のショックに、ゴミ箱はゆらゆらと揺れ、やがて沈黙する。
ふーふーと息も荒く、アスランは怒った肩で、クズ籠を再び睨みつけた。
「・・・それ、正式な書簡だぞ?」
カガリは、アスランの強烈な怒りに、唯呆れるだけ。
デスクに肘をつき、彼女は頬杖をついている。
「しかし、あの王子様も、一体、なにを考えているんだかな。」
息をつくと、カガリは椅子から立ち上がった。
先ほど、アスランがゴミ箱に投げ捨てた紙屑を拾い、カガリはデスクに戻り、
また椅子に腰掛ける。
丸められた、紙をデスクに広げ、なにをするのかと思えば、その千切られた紙片を
繋ぎ合せるようにデスクに並べ始めた。
パズル合わせでもする様で、カガリは丁寧に紙片と紙片をくっつけていく。
ワードの合った部分は、セロテープで繋ぎ止め、カガリは息を吐いた。
「まあ、この内容を見れば、こちらにとっても悪いことではないだろうけど、私たちの
意見より、本人の意思確認をしないといけないと思うぞ?」
「確認もなにも、『婚姻』の申し込み、って云ったって、唯の申し込みじゃないじゃないかッ!
大体、『第二夫人』て、なんだッ!? 俺は、ミューズを『愛人』にさせるために、あの娘を
今まで育ててきたわけじゃないぞッ!!」
言葉の意味違いは多分にあるが、アスランの怒りの原因は、頷ける。
カガリは、デスクのインターフォンを兼用した、電話に手を伸ばした。
「軍司令部に繋いでくれ。」
《はい。》
秘書が応じ、回線は取り次がれる。
《こちら、軍司令部、オペレーションセンターです。ご用件をどうぞ。》
《旗艦、『アマテラス』の予定を知りたい。》
《『アマテラス』は、只今、規定訓練を終了し、帰投中です。》
《では、港に艦が到着してからで構わないので、ミューズ・アスハ・ザラニ尉に、
官僚府、執務室への出頭命令を。》
《了解しました。》
内容を伝え終わり、カガリは、また重く息を吐いた。
程なくして、執務室に響くノック音に、カガリは入室の許可を与える返事を返す。
「お呼び出しを受けました、ミューズ・アスハ・ザラです。」
「ミュー、かしこまった形式の挨拶は良いから、なかに入りなさい。」
カガリの声に、反応したかのように、扉が開く。
「どうしたの? お父さん、お母さん、軍港に戻ったら、息つく間もなく、
呼び出しで驚いたわ。」
「済まないな、忙しいのに。」
カガリは、デスクで肘をつき、両手を顔の前で組み、苦笑いを漏らす。
「とにかく、坐りなさい。」
応接用のソファを薦め、ミューズは首を傾げながら、席に坐った。
彼女の面前には、アスランが先に陣取り、腕を組み、どっかりと腰を降ろしている。
カガリも移動し、アスランの横に座った。
ミューズは、上目使いに、向かいに座す、父親の顔を見やる。
「・・・お父さん? なに、怖い顔してるの? 表情の作りが、キサカのおじさん化、してるよ?」
「ほっとけッ!」
ぶすっ、としたまま、アスランはそっぽを向いた。
「今日、お前を呼んだのは、この書面への、意見を訊きたくて呼んだんだ。」
カガリは、互いの間に挟んだ、大理石のローテーブルに、紙片を置き、それを
ミューズに向って滑らした。
「・・・なんで、こんなにボロボロのビリビリなわけ? これ、正式な書簡文でしょう?」
ミューズは、透かさず、母の顔を見る。
カガリの視線を辿れば、隣の伴侶に目線が向いている。
その視線の意味する処。
『コイツがやった。』と、眼が訴えていた。
はあ〜。
ミューズは、小さく溜息を漏らす。
ガタガタにずれた、文字を読み合わせ、彼女は眉を潜める。
「あのひと、ホント懲りない性分ね。 プロポーズは断ったのに、ホントに送ってくるなんて、
馬鹿じゃないの? オマケに『第二夫人』って、私も舐められたもんだわ。」
イズミが、既に既婚者である、というのも少し驚いたが、それより、ミューズにとっては、
彼の、自分を欲しい、と言ったレベルが、この程度だったのかと思うと、そちらの方に
腹立ちを覚える。
「お父さん、お母さん、私の意見を聞きたいと呼んでくれたのなら、今、ここではっきり
私の考えをふたりに伝えておくわ。」
アスランもカガリも、意志の強い、愛娘の顔を見、瞳を開く。
「今は、結婚なんて、微塵も考えていません。 それに、あのひとにも云ったけど、
私は、ふたりの後継者としての自覚があるわ。 まだ、いつになるかはわからない。
でも、五大首長家のひとりとして、あとを引き継ぎたいと思っています。」
「本当に良いのか?それで。 後継者を名乗るつもりなら、その責務の大きさがどれほど
重い枷になるか、考えているのか?」
カガリは、ミューズの澱みのない声に、驚き、嬉しいと思いながらも、それでも確認の
言葉を漏らしてしまう。
「まだ軍人としても未熟だし、私には学ぶべきことも、知らなきゃいけないことも、
たくさんあるわ。 ふたりの眼からみて、私がふたりの跡目を受け継げる器になったと
判断したら、その時がきたら、・・・必ず。 だから、私にもう少し、時間をください。」
あまりにも、しっかりし過ぎる、娘の言葉にカガリとアスランは僅か、呆然とする。
「この『婚姻』の申し込みも、丁重にお断りしてください。 まだ、結婚なんて
したくないし、嫁なんて冗談じゃないわ。 まあ、婿入りしてくれるなら、一考してみる
けど、あのひと王族でしょう? とても、私の条件を呑めるとは思えないもの。」
驚いた瞳は、そのままで、カガリとアスランは顔を見合わせた。
「それにね? もうひとつ条件を加算するから。」
「加算?」
アスランは、ミューズの言葉を反覆した。
「私の、理想の夫婦像は、お父さんとお母さんなの。 ひとりの女性だけを、愛し、
生涯をかけて、その気持ちを貫ける男じゃなくちゃ、嫌。 お父さんのように、
お母さんだけを見てくれるひとが良い。・・・私だけを見て、愛してくれるひとが良いの。
イズミみたいに、既に他の女のお手つきになってるような男、こっちから願い下げだわッ!」
毒を吐き、ミューズは締め括る。
「わかった。 お前の気持ちは、充分聞かせてもらったんでな、私の方からこの話は
断りの書簡をだしておこう。」
カガリは、緩く笑み、ローテーブルに置かれた、紙片を手にとった。
「でも、お母さん? これは、国家間の問題にも成りえるわ。 ・・・その、大丈夫?
なにかトラブルとかならない?」
「ミュー、お前は私たちを信用していないのか? 当の本人が嫌がる条件で、泣く泣く
嫁がさねば、国が揺れると考えているなら、始めから断る、などと云うな。 私たちの信頼度も
国同士の繋がりも、そんなことで切れるほど、かの国とは柔な関係じゃない。それに・・・」
「それに?」
ミューズは首を傾げる。
「スカンジナビア王国の国王殿は、器量に富んだお方だ。 婚姻を蹴られたから、戦争だ!
なんて、馬鹿なことも云いはしないだろう? 人間は、人間同士の付き合いが出来る。
心を無くした外交など、なんの意味も成さないことは、お前も学ぶことのひとつだな?」
そう云って、カガリは笑った。
「ありがとう、お母さん。」
ミューズも笑み、ほっとした息を漏らした。
「さてと!これから、領海の偵察任務があるんだ。私、もう行くね。」
云い、ミューズはソファを立ち上がる。
「気をつけてな。」
アスランは、見送る言葉を娘に紡ぎ、微笑んだ。
扉のノブに手を掛けたところで、ミューズは振り返る。
「あ!お父さん?」
「ん?」
「さっき、お母さんが言ったことなんだけど、ひとつ妥協案があるわよ?」
「妥協案? なんのだ?」
「私を後継ぎに指名するの、ふたりで不憫に思うなら、もうひとり子供作ったら?
ふたりとも、まだ若いんだし、望みが全然ないわけじゃないでしょう? 
年のう〜んと、離れた『弟』も可愛いかな?って、思ったんだけど。」
ミューズは、にっこり笑んで、アスランの顔を見た。
きょとん、とアスランは呆け、反して、カガリは真っ赤な顔で席を立ち上がった。
「ミュ、ミューズッ!! 云うにことかいて、お前はなんてこと云うんだッ!」
焦った声をあげ、カガリは怒鳴り散らした。
「ベビーシッターくらいなら、任務の合間にディアナとしてあげれるしね。」
満面の笑みで、ミューズは言放ち、鼻歌を歌いながら、部屋をあとにしていく。
「・・・後継ぎの、男の子かぁ。・・・それは、考えなかったなぁ。」
ぽつり、とアスランは呟き、顎に手を添え、俯いた。
「ば、馬鹿ッ! な、な、なに、真剣に悩んでいるんだッ!!」
動揺の走る、カガリを尻目に、アスランは立ち上がってるカガリの片腕を引っ張り、
ソファに強制的に坐らせる。
「ミューズも良いこと云うな。流石、俺の娘だ。」
にっこり笑み、アスランは身体をカガリに寄せていく。
じりじりと追い詰める姿態で、彼はソファの肘置きまでカガリににじり寄った。
「こっち、来るなッ! 大体、頭が19で、その下が15の、でかい娘がふたりも
居るのに、今更子供なんか産めるかッ!!」
カガリは、真っ赤な顔で抗議し、叫ぶ。
「俺の子供なら、何人でも産んでいい、って云ったの、カガリじゃないか。」
「あれは、昔の話だッ!」
更に、アスランは詰め寄る。
「最近、仕事も忙しかったし、随分御無沙汰だよな? ナニ。」
彼の笑顔。
しかし、この笑顔がなによりも怖い。
「カガリが相手なら、俺、まだまだ頑張れるよ? 太陽黄色くなるまで、励まない?」
「ふざけるなッ!この、スケベッ!」
恥かしさのあまり、彼女はわめき、圧し掛かってくる、彼の身体を押し返そうともがく。
確かに、長年、夫婦という関係を続けてきて、『子作り』という観点からみれば、
ふたりはとうに『義務』を果たしていた。
勿論、その間も、夫婦生活は正常にあったが、『子作り』の為の、交わりという
意味合いはなくなり、今は普通の男と女として、『楽しむもの』という感覚に変っていたのだ。
「今日は、もう、仕事終わらせちゃおうよ?」
アスランの唇が、カガリの頬を撫で上げる。
「馬鹿云えッ! まだ未処理の書類、山ほどあるんだぞッ!」
「そんなの、明日でイイじゃないか・・・」
カガリの頬を辿り、アスランの唇は、彼女の唇に、優しく触れる。
ソファで重なった、ふたりの身体。
互いが着ている、軍服越しでも、彼の熱い高まりを感じ取り、カガリの『女』としての
感情が疼いた。
「・・・だ、駄目だっ・・・たら。 股間、押し付けるなっ!」
彼は、薄く笑んだ。
「カガリとこうするから、興奮するんだよ?」
「・・・ば、馬鹿野郎ッ! ・・・ふっ ・・・うぅ ・・・むっ。」
彼女の言葉を塞ぎ、アスランは熱い口付けを施す。
「・・・はあっ、・・・アス ・・・ランっ! ・・・あんっ。・・・」
高まる熱の温度を感じ、カガリは彼の首筋に両腕を絡ませる。
「・・・ここじゃ、・・・駄目だってばッ! 家じゃなくちゃ、やらせないッ!」
「じゃあ、早退決定?」
彼は、嬉しそうに微笑する。
こくこくと頷き、カガリは身体の疼きを、彼に開放してもらう方を強制選択させられる。
「・・・家まで、我慢、できる?」
彼は、腕のなかの彼女に問うた。
「我慢するッ! つか、我慢しなくちゃ、しょうがないだろがッ! この、馬鹿ッ!」
カガリは、紅に染まった顔で、彼を睨んだ。
「やっぱり、俺の奥さんは、可愛いな〜」
臆面もなく、言い切る彼に、カガリは視線を外したのだった。
どんなに言葉で拒んでも、彼を受け入れることに馴染んでしまった、身体の
コントロールなど、カガリに出来る筈もない。
恨めしそうな視線で見上げ、カガリは彼を睨んだ。
彼女のうえに、乗っかったまま、アスランは魅惑に満ちた、翠の双眸を揺らす。
「・・・早く、家に帰ろう、アスラン。 お前が堪らなく、・・・欲しい。」
「ん。」
一言返事を返し、アスランは最愛の情を込めた、口付けをカガリの額に
優しく落としたのだった。











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