『 海岸沿いで 』 〜Side Cagalli 〜






深く、深く・・・ 何処までも落ちていくような感覚。
その感覚に囚われながら、彼女は不思議なヴィジョンを垣間見てるような
視覚でそれを見ていた。
まるで、上から覗き込んでいるような体感を味わえる。
『私の声が聞こえますか?カガリさん。』
「はい。」
彼女は素直に応える。
『では時を遡っていきましょう。・・・貴女は16歳、戦争の真っ只中・・・
一番自分が心にしこりを感じる場面を思い出してください。』
ジェシカの声に導かれ、彼女が見た光景は、最後の風景。
オーブ戦での、開戦の模様。
大火に燃え崩れていく故郷。
彼女は、脱出するクサナギの後部デッキで、その光景を目にしていた。
「お父様ッ!!」
どんなに叫んでも、届くことのない声。
『カガリさん、私の声が聞こえますか?』
「はい。」
『今なら、貴女のお父様がなされた意義を理解できますか?』
ジェシカの問い掛け。
カガリは素直に頷く。
止め処もない涙が彼女の頬を伝わっていく。
『お父さんは、そこにいますか?』
「はい。」
闇の中、佇む彼女の傍には、父、ウズミが居た。
『お父様はなにか言っていますか?』
「許せ、と。」
『カガリさん、お父さんの気持ちを理解できますか?』
「はい。あの時は、これが最善の手段だった、と言っています。」
『受け入れられますか?お父さんの言葉を。』
「・・・はい。」
ウズミは、優しく愛娘を抱く。
温かい腕の中で、カガリは身を任せ、その腕の中で小さく首を振った。
「・・・お父様は悪くなどありません。・・・唯、もっともっと話がしたかった。
私は、親不孝ばかりしていて、何もお父様のお心を思いやることのできない
愚かな娘でした・・・」
『お父さんはなんと言っていますか?』
「お前が、そんな風に思うことはない・・・と。」
『では、お父さんに云ってください。愛していたと、貴女の想いを伝えてください。』
カガリは、導かれるまま、ウズミに想いのたけをぶつけた。
『今、お父さんはなんと?』
「幸せになれ、と云っています。」
『では、その想いに応えてください。』
彼女は言葉する。
私にはアスランがいる。
ふたりで未来を紡いでいくと・・・
ウズミは優しく笑み、彼女を解き放した。
再び、闇が彼女を抱いた。
『今はどこにいるか、わかりますか?カガリさん』
「母のおなかの中・・・ もうひとり、弟が・・・幸せな夢です。
でも、・・・ダメッ!連れていかないで!私の大切な半身をッ!」
カガリは叫び、僅かに身を浮かせる。
その情景は、胎児の時期、人口子宮に移されていくキラと、母親の
体内に残される自分の姿。
「お母さん。・・・泣かないで。」
カガリは上から覗き込むような視覚の中で、泣き崩れるヴィアの姿を
見ていた。
『お母さんを抱き締めることはできますか?』
「・・・はい。」
カガリは素直に、ジェシカの言葉に従う。
『お母さんはなにか云っていますか?』
「謝っています。・・・ごめんなさい、守れなくてと云っています。」
『許してあげれますか?』
「はい。」
ヴィアは柔らかく微笑み、カガリを抱き締めかえす。
瞼を閉じたままのカガリの表情は、とても穏やかな顔を湛えていた。
『場面は変りますか?』
「・・・光。・・・眩しくて、目が開けられないくらいの光でいっぱい。」
『では、その光にむかって。』
導きの声。
カガリは歩を進めた。
途切れた光の先は、緑が広がる草原。
顔をあげたカガリの瞳には、手を差し伸べ、優しく笑む青年の姿が映った。
『怖がらないで。・・・彼の手をとって・・・』
カガリは自分に伸ばされた、青年の手をそっと握った・・・






                         


 『プロローグ(戻)』  『戻』  『エピローグ』