『 海岸沿いで 』 〜 エピローグ 〜







治療を終え、アスランは愛車を駆る。
言葉もなく、彼はカガリを同乗させ、海岸沿いを走らせる。
夕焼けに染まる空。
波の音が、やけに耳に響いた。
「カガリ。」
「ん?」
「少し、寄り道していかない?」
何気ない提案。
彼女は、静かに頷いた。
彼は、2m程高さのある堤防前、駐車場が完備されているスペースに
車を寄せ停めた。
防波堤に視線を移し、数歩後退すると、アスランは僅かなくぼみに爪先を引っ掛け、
軽々とそのうえに飛び乗った。
相変わらずの運動能力の凄さに彼女は苦笑を漏らす。
そこから手を伸ばし、アスランはカガリを防波堤の上へと引っ張りあげる。
素直に身を任せ、カガリはアスランの両腕の中に飛び込んだ。
水平線に沈み行く夕日は、優しい気持ちをふたりに齎した。
「座ろう。」
彼に促され、カガリは腰を降ろす。
始めの内は、互いに言葉もなく、重い空気が漂っていたが、先に口火をきったのは
彼の方だった。
「・・・今日の体験・・・ 凄く不思議な感じだったな。」
「・・・うん。」
カガリは素直に返事を返えした。
「今はどんな気分?」
アスランは翠の双眸で、隣の彼女を見詰め、問う。
「すごく気持ちが軽くなった。お前には感謝しないとな。」
彼女はそう言って、アスランを見詰めかえした。
優しく笑む、金の瞳。
「アスランは?」
「俺も同じ・・・かな?」
「・・・そう。診てもらってお互い良かったなら、問題なし?」
「そうだな。」
くすっ。
ふたりは、見合ったまま小さく笑う。
「なぁ、アスラン。」
「ん?」
「終わった時、先生が言った『光』の奥での出来事、どう思う?」
「ああ、あれ?・・・そうだな・・・ まあ、先生云う処の『生まれ変り』ていう
ことの話・・・だよね?」
「うん。」
「正直云えば、俺はそういう宗教感的な思想は、あんな体験をしても
一長一短には信じられない。 けど、遠い昔にも、カガリに出会っていた、
というのは信じたい・・・かな?」
彼はそういって苦笑を浮かべた。
ジェシカによれば、最後、共通してふたりが見た光景は、今の時代以前の
ふたりの前世らしい、ということだった。
AD時代、貴族という身分にあったらしい、カガリとアスラン。
だが、仲違いをする敵国同士の関係で、その時代では結ばれることがなかった
ふたりは、未来、いつか巡り合ったら、今度は必ず一緒になろう、と誓いあった、
と聞かされたのだ。
「未来、再び出合ったのなら、必ず一緒になろう・・・か。」
アスランは薄く笑い、空を仰いだ。
「これって、成就した、って考えて良いのかな?」
「良いんじゃないか?」
カガリも可笑しそうに笑いながら、相槌を打つ。
「・・・アスラン。」
「ん?」
「キス、しないか?」
突然のカガリの言葉に彼は翠の双眸を見開く。
「・・・珍しい。カガリからおねだり、なんて。」
「珍しくて悪かったな!・・・ちょっとだけ、そういう気分になっただけだッ!」
彼女は頬を紅葉させ、声を荒げる。
ちゅっ。
予告なしで、アスランは彼女の唇に軽く自分の唇を触れさせる。
「もっと、ちゃんとしたのがイイ?」
意地悪気な瞳が彼女を覗き込んだ。
「・・・うん。」
真っ赤な顔。
俯く彼女の顎に添えられる彼の右手の中指と人差し指。
そっと上向かせた彼女の顔に、アスランは再び自分の唇を落とした。
「・・・んっ・・・」
触れる互いの唇。
彼女の顎に置いた指先を移動させ、アスランは手のひらを彼女の金髪に絡めた。
強く引き寄せ、深い口付けに変えていけば・・・
彼女は小さく甘い声を漏らす。
カガリも躊躇わなかった。
彼の身体に縋り、両腕をアスランの背に廻していく。
深く、甘い口付け。
舌を絡ませれば、僅かに灯った欲情に潤んだ女の視線が彼を射る。
唇が離れ、彼女は彼の胸に顔を埋め、背に廻した彼女の指先が
アスランの着ているシャツに皺を作った。
「・・・私、幸せだからな。」
「俺も。」
アスランの指先が、抱き込む彼女の髪を緩く梳く。
「家帰って、食事すまして、お風呂はいったら・・・」
「全部、言わなくてイイッ!!」
解ってる、と云わんばかりに、彼女は彼の胸元で語彙を荒げた。
くすくすと、彼女の頭のうえでは、アスランの可笑しそうな小さな
笑い声が響いた。







                                 ◆ Fin ◆








★ さて、今回もお題をチョイス。
なんだか、摩訶不思議なお話になってしまいましたが、
今度の話は、ウチでは変った視点での展開にして
みました。・・・お口に合わなければ申し訳
ありません、としか言いようのない内容。
反応が少し怖い・・・かも。
..・ヾ(。><)シ (し〜〜ん)






                             


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