最近ではミロも彼女の事については、カミュに対し詮索をしなくなったので、
正直、カミュは胸を撫で下ろしていた。
フェリスの立場が聖域を左右する重大な役目を背負っている、その事実を
現アテナからシュラ共々召集を受け、聞かされた時は少なからず衝撃は
受けた。だが、時が過ぎれば、それは口外してはならない絶対の秘密として
彼の胸に納められたのだった。
そして、その秘密故に、逆にシュラとフェリスの関係を温かく見守っていける
眼を持つ事になったのだ。
陽射しが強く降り注ぐ中、カミュはゆっくりと腰を上げる。
コロッセオの場内にいる、まだふてくされた顔のミロに声を掛ける。
「顔のケガ、見てやるから上がってこい!」
その言葉に、ミロはコロッと態度を反転させ、喜びいさんでカミュのもとに
駆け寄って来る。
デスマスクは、何の関心も無さそうに煙草に火を灯し、雲ひとつない空を
見上げた。
崩れかけた神殿後に、誰も手を入れないせいだろう、足首あたりまで伸び放題
の雑草が纏わりつく場所がある。
そこが、シュラがフェリスとの待ち合わせに指定した場所だった。
季節により、色とりどりの花が自然に咲き乱れ、時が経てば朽ちていく。
だが、その場所は殆どと言っていいほど、人が訪れる事のない箇所なので、
詰まりは、シュラにとっては邪魔されない場所、という事になるのだ。
軽い歩調で、その場所に辿り着く手前で、シュラは足を止めた。
歌声が聞こえてくる。
澄んだ女性の歌声が・・・。
軽く両手を広げ、フェリスは歌を口ずさんでいた。
緩やかなメロディに、シュラは初めて聞く彼女の歌声に耳を澄ませた。
その彼女の姿を、やや離れた場所から見つめると、自然に彼のその表情が
柔らかい笑みを形作った。
彼女の周りには、その歌声に誘われたかの様に、野兎やら小鳥たちが群れを
なしていた。