無限5

最近ではミロも彼女の事については、カミュに対し詮索をしなくなったので、
正直、カミュは胸を撫で下ろしていた。
フェリスの立場が聖域を左右する重大な役目を背負っている、その事実を
現アテナからシュラ共々召集を受け、聞かされた時は少なからず衝撃は
受けた。だが、時が過ぎれば、それは口外してはならない絶対の秘密として
彼の胸に納められたのだった。
そして、その秘密故に、逆にシュラとフェリスの関係を温かく見守っていける
眼を持つ事になったのだ。
陽射しが強く降り注ぐ中、カミュはゆっくりと腰を上げる。
コロッセオの場内にいる、まだふてくされた顔のミロに声を掛ける。
「顔のケガ、見てやるから上がってこい!」
その言葉に、ミロはコロッと態度を反転させ、喜びいさんでカミュのもとに
駆け寄って来る。
デスマスクは、何の関心も無さそうに煙草に火を灯し、雲ひとつない空を
見上げた。


崩れかけた神殿後に、誰も手を入れないせいだろう、足首あたりまで伸び放題
の雑草が纏わりつく場所がある。
そこが、シュラがフェリスとの待ち合わせに指定した場所だった。
季節により、色とりどりの花が自然に咲き乱れ、時が経てば朽ちていく。
だが、その場所は殆どと言っていいほど、人が訪れる事のない箇所なので、
詰まりは、シュラにとっては邪魔されない場所、という事になるのだ。
軽い歩調で、その場所に辿り着く手前で、シュラは足を止めた。
歌声が聞こえてくる。
澄んだ女性の歌声が・・・。
軽く両手を広げ、フェリスは歌を口ずさんでいた。
緩やかなメロディに、シュラは初めて聞く彼女の歌声に耳を澄ませた。
その彼女の姿を、やや離れた場所から見つめると、自然に彼のその表情が
柔らかい笑みを形作った。
彼女の周りには、その歌声に誘われたかの様に、野兎やら小鳥たちが群れを
なしていた。