無限6

ふっと、その歌声が途切れる。
「シュラ!」
彼の姿を見つけ、フェリスは微笑んだ。
彼女に近づき、シュラは微笑みながら、言葉を紡ぐ。
「もっと聞きたいな、君の歌」
「もういいわよ、・・・恥ずかしいもの・・・」
頬を染め、フェリスは俯く。
「何で? とってもいい声だったよ。」
「貴方の方が上手よ。」
数日前、アテネの街に買い物を目的とし、街を歩き、逢瀬を楽しんでいた
シュラとフェリスだったが、フェリスの現状はと言えば、聖域を一歩出て
しまえば「行方不明者」のレッテルが貼られていた。
その姿を彼女の友人に見咎められ、通報を受けた父親が彼女を連れ戻す
為に自分のボディガードを差し向けてきたのだ。
間一髪で、その追跡を逃れ、疲れた身体を癒す為に辿り着いた草原で
シュラは自分の生活を捨て、聖域に行かねばならなかった彼女を慰める為に
歌を贈ったのだった。
彼のその声は、声量もその幅も広く、彼女の寂しさを慰める為には充分過ぎる
ものだった。
もっとも、その彼の歌声にフェリスが二度惚れしたのは、言うまでもない。
「今の歌、何て歌なの?」
シュラの質問に、フェリスは首を振る。
「知らない。ママが幼い私を寝かしつける為に歌ってくれてた歌なの。
子守唄だと思うけど、歌のタイトルは解らないわ。」
そう言って、彼女は寂しげに笑った。
そのふたりの間を割るようにして、一頭の雌鹿が近寄ってきた。
雌鹿はフェリスの長衣のスカート部分を咥えると、しきりに引っ張る。
その様子に、ふたりは顔を見合わせた。
「何所かに、連れて行きたいみたいだな・・・」
シュラが言うのに、フェリスも同調して頷く。
導かれるままに、ふたりはその雌鹿に付いて歩みを進める。