無限4


その後ろ姿が妙にウキウキしているように見えて取れ、デスマスクは更に呆れて
ため息をついた。
「スキップなんかしちゃって、あれが黄金聖闘士の姿かと思うと、情けないぜ」
「いいじゃないですか。殺伐とした戦いを強いられる中で、彼は安らぎを見つけた。
・・・唯、それだけの事なのですから」
カミュは微笑みながらデスマスクを見る。
「安らぎねぇ〜。 俺も安らぎたいぜ! つったく、ひとりだけ脱線しやがって」
夜の大人の遊び仲間が抜け出てしまった事に、デスマスクは息をつく。
そう、彼女に出会うまでは、シュラはデスマスクと夜な夜な女性を求めてアテネの街を
徘徊する仲間同士だったのだ。
今から何ヶ月か前のこと、シュラはカミュを伴い、勅命という名目でアテネの街に降りて
行った。帰って来た時にはひとりの女性を連れ立って聖域に戻って来た。
何時の間にか、その女性はシュラと生活を共にするようになり、磨羯宮で同棲生活、
否、夫婦同然の生活に近い状態を作り上げていた。
名をフェリスということ以外は、その素性は全く明かされず、詳しい説明は彼女に関わった
者のみにしか知らされなかった。
だが、元々、聖域という特殊な条件下に置かれている環境故、誰も彼女の存在を事細かに
追求する者は居ない。
自然に彼女を受け入れ、聖域の一部として組み込んでいく。
そして、シュラと行動を共にしていても、興味は引かれても、誰も問いたりはしなかった。
聖域に集う者には、自分の身の上を明かせない者も数多く集まっているが故に。
何時しか、フェリスの立場はシュラの妻、という座に納まっていた。
勿論、聖闘士という特殊な稼業、戸籍というものが存在しない。ふたりの関係は言葉上の
もので、正式なものではない。
だが、それも当人たちが納得していれば良いことであって、他の者たちにはどうでも良いこと
であった。
勅命を受けた時に、シュラに同行していたカミュは少なからずフェリスの実像を把握はしていた。
が、それは口には絶対してはいけない禁忌として彼の胸に納められていた。
現アテナからの口止め、という理由もあったが。
時々、ミロにフェリスの事を尋ねられても、カミュは上手い具合にお茶を濁し、話題を逸らしてしまう。
簡単には口を割らないカミュに、ミロも聞くのを諦め、その話題が上る事はなくなった。