「サバイバー」3

どのくらいの間、泳いだのか解らなかった。
流石のシュラも意識が朦朧としてくる。だが、心配げな表情の
フェリスと視線が合うと、できるだけ、その不安な心情を悟られない
ように、笑顔を作った。
ひょっとしたら、もうダメかもしれないな・・・と、シュラが思い始めた
その時、あのクルーザーの周りを回遊していた二頭のイルカが
ふたりに近寄って来た。
一頭が、フェリスの身体の下に潜り、彼女を自分の背に乗せ、
もう一頭は掴まれ、とでも言うように、シュラに近づき、背びれを
彼に向けた。
迷わず、シュラはその背びれに掴まると、ホッと安堵の息を漏らす。
「・・・助かった・・・」
その一言が、シュラの正直な心情を物語った。
偶然か、唯の遊び心なのかは解らないが、イルカたちがふたりを救助する
形になったのは、実に運が良かった。
潮の流れに乗りながら、ふたりを伴い、イルカ達は泳ぎだす。
小一時間程泳ぐと、前方に見えた島影に、シュラとフェリスは眼を見開いた。
「・・・島だ。陸地だ、フェリス!助かるぞ!」
その彼の歓喜の声に、フェリスも微笑を漏らす。
入り江になってる浜の近くで、イルカから身を離し、シュラは足を痛めている
フェリスを抱きあげると、陸へと歩みを向けた。
砂浜に上がるや、シュラは彼女を下ろすと、ぐったりした表情で浜に
大の字に寝転んだ。
余程疲れたのだろう、しばらくは言葉も発せず、眼を瞑ったまま、動こうとは
しない。その様子にフェリスは心配気な表情で覗き込む。
「・・・大丈夫・・・?」
「・・・ああ・・・」
呟くように漏らした彼の声に、フェリスは身体を起こし、彼の横に座り直した。
まだ陽が高い。
今ごろは、アイオリアも魔鈴もきっと必死に自分たちを探しているはずだ。
だが、そうは思いながらも、今のふたりには連絡を取れる手段が何もなかった。
シュラは身を起すと、立ち上がり、辺りを見回した。
「シュラ?」
「陽が昇ってるうちに、この辺調べてみる。」
当然の彼の言葉にフェリスも立ち上がる。
「君はここにいろ、俺が見てくるから」
「いやよ、ひとりなんて!」
そう言いながら、取り残されるという不安にフェリスの眼が涙で潤むのに
シュラはため息をつく。
彼女に背を向け、片膝を折る。
「ほら、乗って。」
と、一言いうのに、フェリスは彼の背におぶさられ、島の奥へと向かった。
幾らも歩かない内に小さな小屋を発見する。
中をそっと覗きこむと、無人なのに、今夜の宿が確保できたことに、ふたりは
喜びの声をあげる。
荒れてはいたが、どこかの漁師が仮小屋として作ったものらしく、取り合えず
は不自由しない程度のものが揃えられていた。
「・・・水瓶がある、ってことは、どこかに水源があるかもしれない・・・」
シュラはそう呟き、地面に転がっている空のペットボトルを拾い上げた。
「もう少し、奥を調べてくるから、ここにいろ」
とシュラは彼女に告げた。
その言葉に、また大きな彼女の両の瞳が濡れるのを見て、シュラはため息を
ついた。彼女の前に膝まずくと、痛んだ右足を軽くマッサージしてやる。
「どのくらい歩くか解らないんだ。君は足を負傷してるんだから、ここに
いた方が良い。」
シュラが優しく、強く進言しても、フェリスは頑として譲らない。
困った表情を浮かべるシュラに、
「歩く! 私、歩くから、お願い連れて行って!」
と、彼女は強く彼に求めた。
それほど、足の痛みをおしてでも、取り残される不安よりは、彼と行動を共に
することを望んだのだ。
遂に根負けして、シュラはフェリスを伴い、奥地を探索するのに同行させることに
せざるおえない心情に傾けられていく。
片足を引きずりながら、フェリスは必死に先を歩くシュラについていく。
痛みを堪え、自分が選択した行動を恨むわけでなく、逆にその自分の言葉が
彼を裏切らないように、とでも言うように歩みを進める。
シュラはフェリスの様子を気にしつつ、後ろを振り返りながら、道を進んだ。
荒れてはいたが、確かにひとが行き来していた形跡がある。
30分も歩くと、突然視界が開けた。