それが、地上にニケとしての転生の宿業を持つ彼女の役目だった。
勿論、子を儲けるには女性のみでは出来ない。
当然、相方となるべき男性が必要になってくる。
そして、彼女が択んだ相手こそが、シュラだったのだ。
ニケとしての力を有する者と、黄金聖闘士としての超人的な力を持つ者が
結ばれ、初めてこの世にアテナとしての力を持つ存在を誕生させることが出来るのだ。
だが、シュラは「別に、急かされているわけじゃないから」というだけで、
彼女との性交渉は持っても、子供を作ることを拒んだ。
つまりは、避妊をすることを欠かさないのだ。
フェリスは、そんな彼の態度を甘受しながらも、彼への想いは日々募っていく中で、
彼も自分を愛してくれている、という自覚がありながら、符合しないバランスの取れない
感情が交差している事に、戸惑う事も度々あった。
その彼の心情を、はっきりと知ることになるのは、随分後になっての事だったが。
シュラは気持ちを切り替えるように、フェリスに向き直ると、明るく微笑み、彼女の
手を掴む。
「泉に行く約束だったろ?」
彼に促され、フェリスも攣られて微笑んだ。
ゆっくり頷くと、彼に手を引かれながら森の奥へと歩みを向ける。
程なくして、開けた場所が前方に見えてくる。
水の香りが、そよ風に乗って漂ってくる。
その香りはふたりを刺激し、互いの表情に微笑みを齎すのは充分効果があった。
岩と砂地ばかりの聖域に於いて、僅かに存在する緑地はそこに住まう者たちに
癒しを与える場所となっていた。
ご多分に漏れず、シュラとフェリスもそのうちの人間で、度々この水辺のほとりに
足を運んでいたのだ。
水辺の木陰は、恋の語らいをするには打って付けの場所であったし、何よりも
心も身体もゆったりとした気分を醸し出してくれるからだ。
水辺の木立の木陰に、フェリスは腰を下ろし、立ってる彼を見上げる。
シュラは前髪をかきあげると、木漏れ日の中から時々差す、強い陽射しに
眼を細める。
「今日は暑いな、水浴びでもするか・・・。」