それを見送り、シュラはゆっくりとフェリスに手を貸しながら立ち上がった。
フェリスは、自分の手のひらを見つめながら呟く。
「出来た・・・私に・・・」
「君は俺のように、小宇宙をコントロールする術を知らないだけで、その
秘めてる力はアテナと同等のものを持っている。」
「だったら、教えて! 私にも小宇宙をコントロールする方法を!」
「必要ない、これ以上の事は。」
「何故?」
「・・・ヒーリング以外の術は教えない。」
それだけを言い、シュラは口を噤む。
しばらくして、彼女の顔を見つめると、シュラは微笑む。
「君の小宇宙の原点は、<慈愛>だ。だから、俺は今のままの君で
居て欲しいんだ・・・」
まだ、フェリスがニケとしての役目を自覚していない時、彼女がまだ普通
の娘として生活していた頃、ニケとしての役目を遂行させる事を阻もうとする
存在があった。
ポセイドンとしての記憶を持つ、ジュリアン・ソロに。
彼はフェリスの存在を抹消する為に、彼女に近づき、その命を狙った。
満潮になると、潮に没する洞窟に彼女を幽閉し、その足首に鋼鉄の拘束具を
嵌め、放置したのだ。
潮が満ち、彼女は薄れる意識の中で小宇宙を発動させた。
その巨大すぎる小宇宙は、足の諌めを解放しはしたものの、力を使い果たし
海中に意識なく漂う彼女を助けだしたのが、今の彼女にとって掛け替えのない
存在になってるシュラだったのだ。
シュラは恐れていたのだ。
彼女の小宇宙が、術を知ることにより暴走することを。もし、その力が怒りに任せ抑えられなく
なったとしたら・・・。その巨大すぎる彼女の力を、まじかで感じたが故に。
助け出された彼女は、シュラの口から齎された、自分のニケとしての役目に
狼狽するばかりだった。
フェリスの宿命。
それは次代を担う新しいアテナを産み出すこと。