『 ビジター XI 』
オーブの繁華街を闊歩する、奇妙な取り合わせ。
私服に混ざる、ザフトの白の軍服は、とにかく目立つ。
好奇の視線に晒されていても、気にしてないのは、その制服を着てる、本人様だけだ。
「・・・なあ、イザーク。」
「なんだ? カガリ・ユラ ・・・」
そこまで言いかけ、イザークはぎろりとカガリに睨まれ、口を噤んだ。
「すまん。 あ~ カガリ? ・・・これで、良いのだな?」
「やっと、学習したか。」
カガリは、腕を胸の前で組み、イザークを見据える。
「ところで、話を変えるが。 お前、その軍服、着替える気はないか?」
「着替えるだぁ~!?」
イザークは、カガリの漏らした言葉に、柳眉を吊り上げた。
「これは、誇り高き、ザフトの軍服だぞ! 今は、事情でこんなトコ、歩いてはいても、
勤務中に脱ぐなど、言語道断ッ!」
勤務中・・・
確かに、イザークの言ってることは、間違ってはいない。
が、この集中する、視線。
本当に、気になっていないのだろうか?
・・・いない、・・・みたいだ。
恐ろしいことに。
職務に忠実であれ。
天晴れ、としか言いようがない、硬くなさ。
アスランは、カガリを制する仕草で、肩に手を掛ける。
そっと、彼女の耳元に口を寄せ、囁いた。
「・・・なに、言っても無駄だから、余計な刺激与えるな。」
「・・・でも!」
カガリは不満気味な声音と表情で、アスランを見やる。
今だけ、我慢しろ、とアスランは、カガリに目線で促す。
イザーク同様、気にしなければ、なんてことない。
オーブから、一番近い、ザフトの駐屯地は、カーペンタリア。
現在は、オーブとも、親睦関係にある、プラント。
その軍人が、オーブに居た、としても不思議はないが、居ても大抵は「緑服」が
相場と決まっているので・・・。
もっとも、街中に、軍人がひとりも居ない訳ではない。
オーブ軍の軍服に身を包んだ者も、ちらほらと見受けられる。
比率的には、やはり国許の軍人が多いのは、これ当然。
だから、余計にイザークが目立ってしまうのは、仕方のない処だ。
「文句は聞きたくない! さっさと、用事を済ませろ!」
「五月蝿い男だなッ!」
カガリは、イザークの癇癪に対抗するように、言葉を吐き返した。
「買い物に来ているのに、そんなにガツガツしてると、女の子に嫌われるぞッ!」
カガリもテンション上がり捲くりで、イザークの言葉に対抗する。
「指、さすなッ! そもそも、俺には、そんなモン、居ないから、関係ないッ!!」
街中での、大声を張り上げての喧嘩。
アスランは、頭痛を覚えたような仕草で、嘆息する。
「・・・もう、いい加減にしろよ、ふたり共。」
『五月蝿いッ!!』
アスランの制する声に、ものの見事に被る、イザークとカガリの声。
ふたりの迫力に気圧され、アスランは一歩、身を引いた。
はっきり言って、このふたりには、譲り合いの精神は薄いだろう。
意地を張ったら、根競べ大会が出来そうだ。
「あの~ 隊長。」
シホは遠慮しいしい、言葉を紡ぐ。
「なんだ? ハーネンフース。」
「急ぎませんと、シャトルの時間が・・・」
はっと、我に返り、イザークは自分のしてる腕時計に視線を移す。
「カガリ・ユラ・アスハ!」
「だから、私は、『ザラ』だってばッ!」
「そんなのどうでも、イイッ!」
「良くないッ!!」
・・・放っておいたら、この口論、永遠に止まらなさそうだ。
「隊長ッ!!」
シホは、ありったけの声を振り絞り、イザークを制する。
時間に追われ、買い物を済ませ、イザークとシホは、慌てふためきながら、帰りのシャトルに
飛び乗った。
それを見送ったのは、当然、カガリとアスランのふたり。
シャトルの発着する港まで、車を飛ばしたアスランは、冷汗を禁じえない。
「・・・ここに来るまでに、オービス、一回光ったぞ?」
「ははは! 罰金、幾らくるかな?」
「笑い事で済ませる気か? カガリ。」
不名誉このうえない。
免許書に、書かれたくもない、足跡が残ってしまう。
だが、やってしまったことは、仕方ない、とアスランは肩をがっくり落とした。
地球の友に見送られ、無事にプラント本国に辿りついたのは、日付が移り変わる時刻。
シホは、どっと身体に感じる疲れに、軍服のまま、自室のベッドに倒れ込む。
《わん!わん!!》
「・・・元気ねぇ~ お前は・・・」
彼女の、覇気の欠落した声にも、返ってくるのは、子犬の嬉しそうな鳴き声だけ。
「・・・あ~ 明日も、早朝ミーティングがあるんだっけ?」
うとうとと、訪れる、睡魔の誘惑。
シホは、瞼を落とし、事切れた。
《くぅ~ん? わん! わん!!》
新しく、増えた、小さな家族の声に反応は返ってこない。
聴こえてくるのは、微かな彼女の寝息だけだった。
・・・続く。
※ とりあえず、字数制限に引っ掛かってしまうと、また
分けなければいけなくなってしまうので、今回はここまでです。
え? 出し惜しみ、するなって?ははは!(o^<^)o クスッ
次は、メインが書ければと思います。お楽しみに!
しかし、イザークとカガリの漫才喧嘩は・・・ すげー。;;
自分で書きながら、「この、ふたりって・・・」と唸りつつ。
※この壁紙イラストは「M/Y/D/S動物のイラスト集」よりお借りしています。
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