昼食をすませ、ふたりは、お気に入りにしている、艦の後部展望デッキで
潮風を満喫していた。
食事のパンをこっそり半分持込、千切って空に投げると、それを待っていた
カモメたちが、一斉に飛来してくる。
全てのパンを投げ終わる頃、背を手摺に凭れさせていたイズミは、言葉を紡いだ。
「・・・ミュー、ひとつ訊きそびれたことがあるんだけど。」
「なに?」
彼女は、イズミの顔を見やり、不思議そうな瞳を向ける。
「あの時、・・・ガルナハンでの、作戦行動の時、・・・なんで、あんな無茶したんだ?」
イズミの言葉に、ミューズは緩い苦笑を浮かべた。
「別に、無茶していたつもりはないわ。 唯、お母さんが私に託してくれた、“アカツキ”を
信じていたから。 あの機体は、お爺様がお母さんに残した、『オーブの守りの剣』だ、
って云ってたわ。 それにね? あんな緊迫していた状態なのに、不思議に大丈夫、
て思ってたのよ。」
「・・・」
ミューズの確信を持った声に、イズミは黙って彼女の言葉の続きを待った。
「フラガのおじさまが、随分前に冗談口調で話してたの、思い出していたの。
『“アカツキ”なら、一発くらい、陽電子砲でも受け止められるぞ!』って。」
「・・・だから、って、なにも実験する必要はないだろ!?」
イズミは、やや怒った口調で、ミューズを詰る。
「実験してるつもりなんて、さらさらなかったわよ! あの一方的な攻撃で、怒髪天だった
のは認めるけど、殆ど無意識だったし〜」
イズミは、ミューズの言葉に呆れ、額を抑えて、緩く首を振る。
無意識、無意識と強調されても、それが『無茶』なのだと、この愛しいひとに、どんな
言葉で説けば、わかってもらえるだろうか、と彼は唸る。
「・・・それより」
呟き、ミューズは、手摺に凭れ、組んだ両腕のなかに顔を埋めた。
「・・・私にとっては、本当の実地戦で、怖かったわ。 訓練は、どんなに厳しいものにも
耐えてきたけど、『死ぬ』ってことを自覚したもの。擬似弾でない弾の威力が、あんなに
凄いなんて、・・・知らなかった。」
「・・・ミュー。」
「お父さんも、お母さんも、キラ叔父さんやラクス叔母さんは、あれを経験してきたのか、
と考えた時、・・・本当に怖かった。」
「・・・それは、ミューだけじゃないよ? 俺だって同じだったさ。」
「・・・イズミ。」
「でも、不思議なもんで、死線を越えた時、って、言葉悪いけど、妙に興奮していたのも
事実だ。 身体が火照って、抑えるの大変だった。」
死と生は、紙一重。
パイロットであるならば、そのエクスタシーとも呼べる感情は、生きていることを実感
できる、生の証に他ならない。
つん!
伏せた顔のまま、ミューズは片手を延ばし、傍らのイズミの軍服を軽く引っ張る。
「ミュー?」
「・・・その興奮、って、貴方は、もう収まったの?」
「えっ!? あ!?? ・・・ミューズ!?」
奇怪な声をあげ、イズミは赤面した顔で、彼女の顔を覗き込む。
「・・・ミューは、収まってないわけ?」
少しだけ、期待を込めた声音で、イズミは尋ね訊く。
「・・・よくわからない。 でも、身体・・・ 熱くて。」
イズミは緩く笑み、彼女の背後に立った。
顔を落とし、彼女の金の髪に彼は口付けをする。
そのまま、顔を滑らせ、ミューズの耳朶を甘噛みする、イズミの唇に、ミューズは身体を仰け反らせ、
艶やかな嬌声を漏らした。
彼の胸に凭れた途端、イズミはミューズの腰に両腕を廻し、抱き締める。
「・・・する?」
彼の、誘惑を含んだ、甘い声に、ミューズの身体が戦慄く。
赤く染まった、彼女の頬。
イズミは、緩く身体を離し、彼女の手をとったのだった。
無言での、誘い。
行き先は、彼の部屋。
躊躇いながらも、ミューズは、引かれる手先に、緩々歩を進めたのだった。




二ヵ月後。
再び、ミューズの懐妊が発覚する。
性別を見分けることができる月齢がくると、検査の結果、ミューズの身体に宿った、新しい生命は、
ふたり分と判明、双子の男の子であることがわかった。
長い間、男の子を望んでいたアスランは、当然、狂喜乱舞。
あまりの、喜びように、ミューズは乾いた笑いを零すだけ。
・・・まだ、ちょっとだけ遠い未来。
ミューズのなかで、すくすくと成長を遂げている、このふたりの男の子たちは、『宝珠の双璧』と
異名をとることになる。
曽祖父、ウズミの遺志を引き継ぎ、堅い守りをもって、オーブの繁栄の礎を、更に強固な
ものへと変えていく。
そして、すっかり、影の存在に甘んじていた、ディアナは、というと。
17の年、突然、軍人を辞めると言い出した。
じゃあ、辞めて、その先はどうするのだ、と尋ねられた時、でた、彼女の驚くべき発言。
『スカンジナビアに留学してくる!』
に、アスランもカガリも、呆れつつ、それを容認した。
が、留学期間を過ぎても、今度は帰ってこない。
問い詰めてみれば、突如『結婚する!!』と言い出したものだから、アスランの取り乱しようは、
大変なもので・・・。
「なんで、俺の娘たちは、揃いも揃って、そんなに早く結婚したがるんだッ!!」
と、月に向かって吼えていた。
自分が早婚であったことなど、すっかり忘れ、棚上げしてる処は、どうしようもないが。
相手は、イズミのふたつ違いの兄、クトレ。
留学の間、イズミから直接、世話を頼まれ、国許でディアナの面倒をみていたのだが・・・
なにをどういう風に方向を間違ったのか、ふたりの関係は、恋愛に発展してしまった、
という経緯。
勿論、クトレには、既に正妻がいる。
だが、スカンジナビアは、一夫多妻が認められる国柄だ。
それでも良い、と云い、ディアナは、『もっと、冷静に考えろッ!』と諭す、父、アスランの声には、
耳も貸さない始末。
ミューズの時は、いじけて引き篭もった期間は、5日だった。
ディアナの時は、3日に減ったが、それでもショックは計り知れなく、彼のダメージは悲惨の一言。
もっとも、イズミが、ミューズのもとに婿入りし、ディアナが代わりのように、スカンジナビアに
嫁ぐ、という形は、同じ『武装中立』を掲げる、国の繋がりとしては、最高に好条件の状態に成り得る。
どんなに技術が進歩し、人類が科学の発展を遂げようとも、国の繋がりをより強固なものにするには、
古来より用いられてきた、『婚姻』という形が、一番の結束を発揮する。
しかし、通常、このような形の場合、国の事情が優先し、本人たちの意志は無視されることが通例だ。
これは、このふたつの『成婚』が意味する、特殊な例である。
いずれも、『恋愛』がベースである、ということ。
国の関係は、付属になっていることは、実に珍しい事例。





長く、続いてきた、平和を失わないように・・・
そして、・・・紡がれていく、家族の愛。
永久に、続け、と願う思いをのせ、それぞれの歩みは止まることはない。
今日より、明日。
明日より、その先を・・・
見詰める先の未来に、 ・・・光あれ。





                                                 ■ End ■









※ さて、今回の『翼』シリーズは、キリリクです。(^-^ ) ニコッ
190000番、作品になります。
nyaomi店長様、リク誠にありがとうございました!ぺこ <(_ _)>
以前の話で、「完結だッ!終わりだッ!!」と叫んでいましたが、
これで、本当に終わりですね。転結が。;;
でも、このシリーズは自分自身もとても気に入っているし、
思い入れがあるので、また番外偏とか、書くかもしれません。
その時は、また読んでやっていただければ嬉しいです。
(=^^=) ニョホ そうそう、一部通過点で、イズミとミューズの
妖しい会話が挿入されておりましたが、あのあとの、ふたりの
ちょー妖しい行動が、裏に置いてありますので、合わせて
読んでいただければ、嬉しいです!!
店長様、今回のリクエスト、誠にありがとうございます。
・・・どうでもイイけど、キリリクでこんな長い話。書いたの、
初めて。(・_・ヾペペーン マイッタネー

※さてさて、今回も、絵師、かずりん嬢による、素敵挿絵が
本文に入りました!ルンルン♪~♪ d(⌒o⌒)b ♪~♪ルンルン
もう、このお話のシリーズは、彼女なしには考えられません!
イラスト共々、また文も改めて楽しんでいただければと思います。
そんな、かずりんさんのステキサイトは↓下記からどうぞ。




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