「そんな、鳩が豆鉄砲でも喰らったような顔、ふたりでしないで下さいよ〜」
ジェシカは、可笑しそうにくすくす笑い、真向かいのソファに坐った、
アスランとカガリを見た。
互いに複雑な表情を浮べ、どんな反応を返していいかわからず、
口篭って、顔を見交わすだけだった。
「ですから、先程も言いましたが、夢物語、と思ってくださったら、イイですから!」
「・・・はあ〜」
気迫のない返事を返し、アスランは俯く。
「この話は、カウンセリングをしていくなかで、ふたりが語ったことの一部でしか
ありません。 様々な時代で、生まれ変わりを果たしているけれど、さっき
話した、中世時代の時の頃の想いが、一番強くでているだけのことですから。」
にこにこと笑み、ジェシカは言葉を紡ぐ。
「いつの時代に生まれても、おふたりは、カップルだったみたいですね。 でも、
どの時代でも、きちんとした形での『成就』がされていないんです。 だから、
この時代での、ふたりの魂の課題は、『結婚』して、ちゃんと『結ばれる』こと、
なんですよ。」
結婚して、結ばれること・・・。
夫婦として、世間に認められることが、『魂の宿題』なのだと、ジェシカは云う。
「おふたりとも、今、“幸せ”というものを感じていらっしゃっていて?」
自然な言葉使いで、ジェシカはふたりに問うた。
頬を染め、カガリとアスランは頷く。
絡み合う指先は、胸のなかに宿る、熱い想いの仕草。
「最後に、ふたりが見た映像。 光のなかに見た、草原でのことは、あの時代で
おふたりが一番、幸せを感じていた時の姿です。」
断言をもって、言い切ったジェシカに、アスランは、カガリの顔をじっと見詰めた。
見詰められた、アスランの翠の双眸。
ふと、彼女は思う。
どこかで、覚えのある、既視感。
・・・それは、とても懐かしく思うことだった。
カガリは、緩い微笑みを浮べ、握られた彼の手先を握り返した。
全ての治療を済ませ、ふたりが、ジェシカの家をあとにしたのは、それから
程なくして。
帰り道、ふたりは、海岸沿いの、防波堤で寄り道をした。
ぽつり、ぽつり、と交わされる、会話。
夕焼けに染まる、海の美しさに身を委ね、幸福に満たされた、ふたりは家路を辿る。
「ちょっと、寄り道、長かったかな?」
アスランは、ハンドルを握りながら、とっぷりと闇に落ちた空を見やった。
「どこかで、食事、済ませていく? これから買い物して、作ってじゃ、大変だろ?」
彼の気遣いの言葉に、カガリは苦笑する。
「お前が嫌じゃないなら、そうしてもらえれば、私は助かるな。」
彼女の言葉を素直に受け止め、アスランは市内の一角に建つホテルへと車を駆る。
ふたりが、何かの折には、ちょくちょく使っている、ホテル。
このホテルに店舗を構えるレストランのシェフは、なかなか腕が良い。
更に云えば、ノーネクタイでも利用できる環境は、実にありがたいもので。
ラフな普段着に身を包んだ、今のふたりには打って付けだ。
馴染みである、レストランのマネージャーは、すぐにふたりに個室を用意し、
誰にも邪魔されず、会話と食事が楽しめる空間を提供してくれる。
相対し、席につき、カガリはメニューを広げ、視線を落とした。
「・・・ワイン、飲んでもいいか?」
「どうぞ。」
アスランは微笑み、彼女を見た。
カガリは、メニューを自分の顔の前に立て、眼だけを覗かせ、彼の顔を伺う。
「どうした?」
彼女の、意味ありげな視線を見、彼は首を捻る。
「お前も飲めよ。」
「俺は、イイよ。 車、運転していかなくちゃいけないし。」
「飲めッ!」
「なんで、命令?」
彼は、苦笑しながら、カガリを見詰める。
「ひとりで飲んでも、美味しくないし、グラスじゃなくて、ボトルで頼みたいから。」
「じゃあ、帰りどうするの? 飲酒運転して、俺に捕まれ、って?」
「・・・無理に、運転しなくてもイイじゃんか。」
「はあっ!?」
相変わらず、彼女は立てたメニューの影から、ちらちら彼を見てる。
思い切って、カガリは履いていたパンプスの片足を脱ぐと、アスランの着ている
スラックスの片足首裾に、足の指先を潜り込ませた。
「うえっ!? ちょ、・・・カガリ!?」
赤面し、彼は狼狽した声を漏らす。
いくら、プライベートが確保できてる個室とはいえ、こんな処で! と、彼は
叫びそうになる。
こちょこちょ。
・・・くすぐったい。
彼女の指先に、感じる、・・・誘惑。
「泊まっていく?」
苦笑を零し、アスランは応える。
真っ赤な顔を、メニューで隠し、カガリはその裏で、ひとつ頷く。
彼女の、悪戯の続く、足元の指先に、アスランは意地悪気な笑みを浮かべる。
突然、アスランは屈み、彼女の触れていた足首を、左手で鷲掴む。
「ぎゃああッ!?」
奇怪な悲鳴をあげ、カガリは仰け反った。
指先で、彼女の足裏を擽り、彼は笑う。
「おしおき!」
「ば、ば、馬鹿ッーーーッッ!! 離せッッ!」
じたばたと暴れる彼女に、彼は微笑み、彼女の足を擽り続ける。
「先に、ちょっかいだしてきたのは、カガリだろ?」
「ちょ、 やあぁ〜ん! ゴメン、もう、しないから、勘弁してッ!!」
けたけた笑い、カガリは苦しげに身悶える。
ようやっと、解放された、自分の片足に、彼女は真っ赤に染まった顔で、
アスランを睨み付けた。
「そんな、顔しても、駄目。」
見る見る、彼女の頬は膨らんでいく。
風船か?
クスクス笑い、彼はテーブルに頬杖をついた。
「泊まるなら、ちょっとは覚悟しておいてくれよ?」
「覚悟?」
彼女は、きょとんとし、彼の顔を見やる。
「・・・手加減しないから。 今夜は。」
にっこり笑んで、彼は彼女を見た。
「えっ!? あ? はあっ!?」
カガリは、慄き、僅かに背を後退させた。
にこにこと、楽しそうな笑みを零すアスランの顔を見て、カガリは内心、思い始める。
・・・少し、早まったか、と。
顔を伝わる、一筋の冷汗。
カガリは、赤面した顔を伏せ、小さく唸ったのだった。
■ End ■
※ さてさて、またもや久し振りのお題です。;;
相も変らずの、ゴーイングマイペースな執筆状態で
ホンにすんません。/(。◇。)\ 逆立ち反省〜
で、今回も、またもや、不思議ちゃんな話の
展開。 前世での、アスランとカガリに、
その当時名乗っていた名前を付けようと
考え、あれやこれやと調べましたが、あっさり
挫折しました。(;>_<;) エーン ま、色々な意味、
いつもの種、運命、から離れた次元のお話で
戸惑わせてしまったかもしれませんが、これは
これで、神原流のテイストを楽しんでいただければ、
と思います。(^凹^)ガハハ