漆黒の暗闇。
一筋の光さえない、空間。
・・・そこに、漂う、ひとつの光の玉。
おぼろげで、儚く、ぼんやりとした光を放ち、ふわふわと・・・
光は、囁く。
《何処に、・・・いるの?》
問い掛けなのか、呟きなのか・・・ わからない。
ゆらゆら・・・ ゆらゆら・・・
光の玉は、言葉を紡ぐ。
《・・・必ず、見つけるから、 ・・・君を。》
『 運命の出会い 』
「ご気分は、いかがですか?」
ジェシカ・カスティは、緩やかな微笑みを浮べ、ソファで対峙する、アスランとカガリを見た。
「・・・なんて、云うか・・・。 とても、不思議な解放感というか、そんな感じがします。」
カガリは、あるがままの抱いた気持ちを、カウンセリングを受け持ってくれた、目の前の
女性に告げた。
「ご主人は?」
カガリの答えを訊いてから、ジェシカは、彼女の隣に坐ったアスランにも問う。
「あ・・・。 そうですね、俺も、・・・カガリと同じ気分だと思います。」
確信を持っての答えを返せず、アスランは苦笑を浮かべる。
「そうですか。」
にっこり笑み、ジェシカはふたりに微笑み掛けた。
「おふたりは、カウンセリング中の事は、覚えていまして?」
ジェシカの問い掛けに、アスランとカガリは顔を見合わせる。
・・・正直、どちら、とも云えない。
覚えているようでいて、覚えていない、というようなあやふやなものだったからだ。
「無理に、思い出す必要はありませんよ?」
他者を安心させるような、優しい笑みを保ったまま、ジェシカは、手にしていた
ノートに目線を落とした。
ふたりが、カウンセリングを受けている最中の、内容を克明に記録した、記載記述。
それを見れば、設問に対する、ふたりの現状を解読することが出来る。
ジェシカは、慎重に言葉を選び、未知との体験に身を任せた、ふたりに疑念を
抱かせないよう、素直に起こった出来事を受け入れるように促した。
「今からお伝えすることを、信じていただけるか否かは、おふたりに一任します。
・・・そうですね。 あまり囚われず、夢物語でも訊いているような、そんな感覚で
訊いていただければ良いと思いますわ。」
ジェシカは、微笑みを絶やさず、言葉を紡ぐ。
「まず、おふたりが、初めて出合った無人島でのことですが・・・ それは、あるべくして
起こった、必然の出来事と解釈してください。」
「・・・必然?」
カガリは瞳を開き、ジェシカが口にした言葉を反覆した。
「はい。 全ては、おふたりの前世からの絡みに起因した事柄です。」
澱みのない、毅然とした声で、ジェシカは言葉を発する。
「・・・前世、 ・・・ですか?」
俄かには信じられない、という口振りで、アスランは戸惑った表情を作る。
「アスランさんは、コーディネイターですものね。 こんな話しても、信じてくれ、という方が
滑稽かしら?」
ジェシカは、緩く笑い、アスランの顔を見詰めた。
科学の最先端、遺伝子の粋の結晶である、コーディネイターにとって、信心以上に、
摩訶不思議な得体の知れない、分野である、それ。
実際に、その過程を体験したからといっても、記憶に残っていなければ、「はい、そうですか。」
とは、素直には頷けない。
「別に良いんです。『前世』の記憶は、なくて当然です。忘れてしまうものですからね。
私がふたりに云い伝えたい事は、『知る』ことの方ですから。」
「『知る』?」
アスランは、ジェシカの言葉を繰り返す。
頷き、ジェシカは言葉を続けた。
「はい。前世であったことを『知る』ことによって、ふたりが今、この世界で、なぜ出会ったのか、
そして、なにをすべきなのか、ということの、『鍵』になるからです。」
カガリとアスランは、ジェシカの口にする、訊いたこともない、謎の言葉に当惑の色を示し、
互いに顔を見合わせるだけ。
ジェシカは、手にしていたノートに再び視線を落とし、言葉を紡ぐ。
「時代は、・・・そう、 ・・・まだこの地が『世紀』と呼ばれていた頃ね。 時は、・・・中世時代よ。
その時代に、ふたりは出会ってるわ。 やはりそこでの出会いも『戦場』で、お互いが敵同士。
常に、国境での争いが絶えない場所で、・・・出会ってる。 許されない関係だったみたいだわ。
ふたりの身分は、『騎士』、性別は、今と同じね。」
淡々と語るジェシカに、アスランもカガリも何時の間にか、魅入られ始めていく。
『運命』なんて、信じること自体、陳腐だと思ったこともあった。
『運』に依存などすれば、自我を失う。
そんなものは、己の手で切り開いてこそのものだろうに。
頑なに信じていた、なにかが、ふたりのなかで小さく揺らいだ。