「これが ・・・アークエンジェル。」
瞳を開き、感嘆の声音で、ミューズは地下ドッグに鎮座していた、
嘗ての不沈艦と云われた、白亜の戦艦を見上げていた。
自分が知り得ない時代。戦いの歴史にその名を残す、偉大な艦。
噂でしか知らない、その名。
生まれる前、いや、母と父がこの艦で戦った、ということぐらいしか
知識がなかったが、今では既に旧式の型番であっても、その堂々とした姿は、
ミューズの胸になにか湧き上がるような熱いものを感じさせていた。
タラップを渡り、機体が収められているであろう、格納庫に足を向けると、
自分の父である、アスランと叔父であるキラがなにやら険悪な雰囲気で
言い争う声が聞こえてきた。
「なに、やってるの?お父さん。」
ミューズは近寄り、何気に問う。
「お前、今日の一戦でフリーダムに乗る、なんて!俺は聞いてないぞ!」
アスランは、声を荒げ、ミューズを見た。
「え?だって、キラ叔父さんも、ラクス叔母さんも、ひとつ返事で良いわよ、って。」
ぎろり、とアスランはキラを睨みつける。
「どういうことだぁ〜〜 キラぁ〜・・・」
地の底から湧き上がってくるような声音。
アスランは、緩くキラの軍服の襟を鷲掴む。
「え!?・・・えぇ!?? だって、カガリが許可だした、って、ボクは聞いたよ!」
ミューズはくるり、と背を向け、悪戯っ子の笑みを浮かべる。
小さく舌をぺろっとだし、知らん顔を決め込んだ。
「・・・まあ、良い。」
諦めた声を漏らし、アスランは小さく息を吐く。
ちらり、と愛娘の背に視線を配ったが、再び息を吐き、額に片手をあてた。
「フリーダムに乗るということはわかった。でも、お前。 ・・・一度くらいは乗って、
感覚確かめる、とかしたんだろうな?」
不安気な声音で、アスランは娘の背中に語り掛ける。
くるん、と振り返り、ミューズは満面の笑み。
「ぶっつけ本番に決まってんじゃない!第一、こんなモビルスーツ、許可なくオーブの
上空飛ばしたら、怒られちゃうもの。」
ごもっともだ。
いくら、ミューズが軍人にはなったとはいえ、自国の制空圏内で訓練でもなく、なんでも
ない状況のものを勝手にどうこうするなど出来るはずもない。
ああ・・・
アスランは、顔を両手で被い、ヘタリ込みそうな気分に嵌ってしまう。
娘のこういう気質、やはりカガリの血が濃すぎるのか・・・
やってみなくちゃわからないだろう? 精神は、しっかり遺伝してる気がした。
幼い頃から、男勝りだった、ミューズ。
カガリの真似をしてる、とは思っていなかったが・・・ なんで、こんなにそっくりなんだ!?
考え巡らし、アスランは思う。
気性、という言葉で習えば、どちらかと言えば、妹のディアナの方が自分に似てるかも
しれない。 ・・・自室に篭って、なにか自分だけのことに没頭するのが好きな娘なので。
むしろ、ミューズの方が元気がいい。
アウトドアタイプで、じっとしていることを好まない。
なんでも、当たって砕けろ!
・・・まさに、カガリだ。
現オーブの首長に就任し、少しは歯止めができるような我慢強さはカガリにも育まれたが、
本質を変えるのは、そう易々とはいかないものだ。
それでも、経験はなににも勝る、宝。
『首長』という地位についてからは、カガリは自制を覚えざる終えない日々を過ごし、
それは今に至るまで、何十年と続いてきている。
ヒヨコは大人になり、酸いも甘いも経験で学び、今のカガリが居るのだ。
しかし、家庭に戻れば、アスランの妻であり、ふたりの子供の母。
明るい、彼女の性格は、家の中を様々な意味で支えてきた。
アスランは、今日で何度目かの溜息をついた。
不意に、カガリの声が格納庫に響き渡る。
「アスラン!ミューズ!・・・あれれ?・・・なんで、ここにフリーダムがあるんだ?」
今更、気がついた、というような風体で、カガリは格納庫に収まってる、モビルスーツを見上げた。
「キラ叔父さんに貸してもらったの!」
嬉しそうなミューズの声が、格納庫に木霊した。
「・・・そっか。」
ほけっ、とし、カガリは一言呟くだけ。
そっか、じゃないだろ!カガリッ!!
アスランは怒鳴りたい気持ちを抑え込み、唸るだけだった。
ぽんぽん。
キラは、気の毒に、とでも云うように、アスランの肩を軽く叩く。
「・・・もう、俺・・・知らないぞ。・・・どうなっても。」
再び、アスランは重く溜息をついた。
アスランとミューズは、パイロットスーツに着替えるために更衣室に向かい、カガリとキラは
ブリッジに歩を向ける。
更衣室に向かいながら、ミューズは小さく言葉を漏らした。
「お父さん、手加減はなし、だからね。 私も全力でぶつかるから。」
自分と同じ、翠の瞳が力強くアスランを見上げた。
その顔を見、アスランは瞳を開く。
暫しの時を於き、彼は苦笑を零し、相槌を打った。
「わかった。」
その頃、艦橋に辿り着いたキラとカガリは、懐かしい面々と再会を果たしていた。
CICに座っているのは、嘗ての戦友であり、友であるミリアリアだ。
「久し振り〜 元気だった?キラ?」
柔らかい笑みを零し、キラはミリアリアを見た。
「うん、久し振り。今日はご免ね。私事に引っ張りだしちゃって。」
「気にしないで。どうせ、休みと重なっていたし。」
苦笑を浮かべる、ミリアリアに、キラも苦笑で応えた。
一方、それぞれの機体のコクピットで、アスランとミューズは待機の間、深い感慨に
思い馳せていた。
アスランにとっては、何十年ぶりかに座るシート。
しかし、その感覚はどこか懐かしさが漂い、僅かに湧き上がる昂揚感は
抑えようのない、パイロットとしての本能を甦みがえらせていた。
小さく息を吐き、彼は想う。
これは、まごうことなき、自分の愛機である・・・と。
そして、その後方に控えるミューズは、ただひたすらに驚きを隠せずにいる。
「・・・すごい。やっぱりムラサメのパワーなんかとは桁外れに違う。・・・まったく、こんな
化け物モビルスーツ、ホントにあの細っこいキラ叔父さんが乗りこなしていた、
なんて、マユツバじゃないの!?」
とんでもないことを自分が言ってるなど、ミューズは気がついてない。
全ての計器チェックが済み、いつでもでられる旨を無線で艦橋に伝え、
ふたりは指示を待った。
ミリアリアが装備しているインカムに伝達が入る。
「ミューちゃんとアスランさんが準備できた、って云ってるけど、だしちゃって良いの?」
視線をカガリに向け、ミリアリアは確認をする言葉を紡ぐ。
「ああ、頼む。」
カガリは笑顔で返事をミリアリアに返した。
「了解。」
艦長席には、マリュー。その傍らには、ムウ・ラ・フラガの姿。
操舵席には、ノイマンが笑顔で待機している。
「みんな、本当にすまない。こんなことで振り回してしまって。」
カガリは謝罪も兼ね、ぺこりと頭を下げた。
緩い笑みを浮べ、艦橋の面々は微笑むだけ。
地下ドッグから、海上へと、その巨体を浮上させ、アークエンジェルは幾年ぶりかに
眩しい太陽の光を、その船体に浴び、光耀く。
右舷の滑走ハッチが口を開け、ミリアリアの指示が飛んだ。
シグナルオールグリーン。
全てのランプが点灯すると、先に発進していった機体は、インフィニットジャスティスだ。
《アスラン・ザラ、ジャスティス、でるッ!》
一声と共に、カタパルトから飛び立つ、真赤の機体。
続いて、白の機体、ストライクフリーダムが、カタパルトに乗せられる。
《ミューズ・アスハ・ザラ、フリーダム、いきますッ!!》
急加速を伴ない、フリーダムも空へと、翼を広げ飛び立つ。
コクピットの中で、ミューズは急激に身体に掛かる加重力の凄まじさに顔を歪める。
訓練で、ムラサメに乗ってる時、発進する間際の、この『G』は、なんど味わっても慣れる、
ということがない。
身体を固定している、シートベルトが食い込み、悲鳴をあげたくなるほど、苦しい。
パイロットならば、この発進シークエンスが一番の緊張を強いられる。
空に飛び出せば、命を繋ぐのは、厳しい訓練に耐えてきた、自分の感覚のみ。
低滞空状態で、ジャスティスが待ち受ける、空。
澄みきり、雲ひとつ浮ばぬ空は、空戦にはもっとも適した気象条件を備えていた。
フリーダムが定位置についたのを艦橋から確認したカガリは、インカムでふたりに
指示を与える。
《高度3万フィート、範囲20km圏内は、特別訓練と称して、この時間は、どの機体も
近づかないよう、確保してある。 ふたりとも、心おきなくバトルしても、誰も文句、
云わないからな。》
おかしそうな声音で、カガリはインカムを通し、アスランとミューズに教え、伝えた。
なんだか、ひとごとのような言い方に、アスランは小さく溜息を漏らした。
目線を目の前のフリーダムに戻し、アスランは言葉する。
《ミューズ、どこからでもイイぞ。 かかって来い。》
堂々とした、宣戦布告。
《わかった。 なら遠慮なくいかせてもらうわ!》
機体のスラスターを全開にし、間合いをとるため、フリーダムはジャスティスから離れる。
《いくわよッ!!》
気合の篭った、一言。
フリーダムは腰部ビームサーベルを一本引き抜き抜き、時間を空けずにジャスティスに斬り込む。
《てえぇぇいッッ!!》
振り下ろしたサーベル。
だが、それはあっさりと回避された。
ジャスティスは、背を仰け反らせるように、振り下ろされたビームサーベルをかわし、トンボを切る。
真赤の巨体は、いとも簡単にフリーダムの攻撃をかわし、自らの攻撃態勢に機体を
切り替えていく。
ラケルタを抜き放ち、フリーダムの鼻先すれすれに下から振上げたそれは、あまりのスピードの
速さに、一瞬だけ虚をつかれた形になる。
速い。
なんて、スピード。
間を空けずに、振り下ろされるラケルタの一閃。
かわすのがやっとの、フリーダムの動きは鈍い。
幾度目かの攻撃を、ビームシールドを張った、盾で受け止め、ミューズはぎりっ、と奥歯を噛み締めた。
まだだ。
もっと間合いを詰めて、懐に飛び込めば・・・
勝機はあるはずだ。
眩しい閃光が、両機の間で火花を散らす。
力で押し戻され、フリーダムがよろめく。
その光景を見、艦橋にいたキラは隣のカガリに小さく言葉を紡いだ。
「・・・やり過ぎ・・・ なんじゃないの? アスラン?」
「いや、これで良い。手加減なんて加えられたら、ミューズの自尊心が傷つくだけだからな。」
カガリは胸の前で両腕を組み、緩く微笑む。
そんな会話の最中にも、模擬戦闘は休むことなく繰広げられている。
右腕のサーベルをライフルに持ち替え、ミューズはジャスティス目掛け、標準を絞る。
今回は模擬、ということも加味され、実弾ではなくペイント弾が装備されている。
が、ロックオンを掛けても、弾は当たるどころか、すり抜けてるかのよう。
《なんで、当たんないのよッ!》
やけくそな声をあげ、ミューズは声を荒げる。
刹那、ジャスティスが背のリフターを分離させた。
囮に使ったリフターはフリーダムのボディを掠め飛ぶ。
驚き、回避をするのがやっとの、フリーダムはバランスを崩した。
透かさず、そのタイミングを逃さず、ジャスティスが前面に姿を現したのに、ミューズは驚愕の
瞳でモニターを見るだけ。
瞬時に叩き落とされる形で、ジャスティスはフリーダムの頭部に右足で膝蹴りを浴びせた。
《きゃあぁぁ!》
悲鳴をあげ、ミューズが駆る機体、フリーダムは海面へと、その身を落としていく。
急落下をしていく中で、ミューズの胸に宿った、ひとつの思い。
負けたくない。
負けたくない、負けたくないッ!!
こんなことくらいでッ!
頭の中がその言葉だけで埋め尽くされた瞬間、彼女の頭の隅でなにかが弾けた。
全ての思考がクリアーになり、ジャスティスの動きが見切れることに気付く。
海面スレスレ、海中に没する寸前、10枚の翼を広げ、フリーダムは制動を掛けた。
パワーを全開にし、スラスターを吹き上げ、急上昇。
右腕に装備されていたシールドを、ジャスティス目掛け、下から投げ付けた。
それをかわした、ジャスティスは、ほんの一瞬だけ、遅れをとった。
秒速の速さ、フリーダムがジャスティスの面前に、その位置を確保し、腰部のレールガンが
照準を定める。
《!!》
本当に一瞬の出来事。
アスランは回避態勢も取れず、驚いた視線でモニターを見た。
今まさに、その銃口が火を噴こうとした刹那、カガリの制止の声が掛かる。
《そこまで! ミュー、もう気は済んだか?》
はっと、我に返り、ミューズは小さく声を漏らした。
《・・・お ・・・母さん・・・》
《一応、念のために、出力は落としてあるけど、そんな至近距離でレールガンぶっぱなしたら、
ジャスティスのボディがへこむから、やめてくれ。》
フェイズシフト装甲に守られているボディが、そう易々とへこむわけがないのだが・・・
勝負はついた、というカガリの判断が、その言葉を吐かせたのだ。
掛けられた、終了の合図。
ミューズの身体から、力が抜け、脱力する。
それに合わせたように、ガクンとフリーダムのボディが虚脱した事に、アスランは慌てて
機体の腕を支えるように右腕のアームを握り掴む。
《大丈夫か!?ミューズッ!》
《・・・う・・・ん・・・》
覇気のない返答に、アスランは苦笑を浮かべた。
《アークエンジェルに帰投するぞ。》
こくん。
ミューズは力なく、一度頷く。
それをコクピットのモニターで確認してから、二機の機体は岐路についた。
艦内に収容され、アスランはラダーを使って、足を地につけると、まだフリーダムから
降りてこない愛娘を心配やる。
格納庫に到着したカガリも、揃って上部を見やった。
アスランとカガリは、ふたりで顔を見合わせ、首を傾げた。
コクピットハッチの傍に、キャットウォークを渡してもらい、ふたりはまだ閉じたままの
ハッチから、声を掛ける。
待っても返答がないことに焦れ、アスランは手動でハッチを開ける。
「ミュー! ミューズッ!!」
声を掛けながら、手を伸ばし、作った拳で、アスランは軽くミューズが被っていた
ヘルメットを叩いた。
その刺激に、ぼうっとしたミューズの視線が上をむく。
「・・・お父さん、・・・お母さん・・・」
愛娘の魂を抜かれたような顔を見て、アスランもカガリも、顔を見合わせ、苦笑を零す。
一休みをとってから、オーブの軍港まで戻る道すがら、アスランはミューズを艦上の
甲板デッキへと誘った。
気まずい雰囲気を破り、ミューズはアスランに向って頭を垂れる。
「色々と我が侭言って、ごめんなさい。・・・お父さん。」
「なんで、謝るんだ?」
「・・・だって・・・」
その先がどうしてもミューズの口からはでてこなかった。
喉の奥に違和感を感じながらも、素直な気持ちを伝える言葉が紡げない。
「・・・ミュー、お前はどうして軍人になりたかったんだ?」
愛娘を見詰める、柔らかい、翠の視線。
アスランは一番に、ミューズに問いたかった言葉を口にする。
暫しの躊躇い。
ミューズは小さく言葉を口端に乗せ始めた。
「・・・お父さんとお母さんが愛してる、この国を守りたかったの。 オーブを・・・私も愛しているから。
単純だ、って笑ってくれても良い。 守りたいのなら、軍人になるのが一番手っ取り早い、と
思ったから。 誰よりも、この国を大切に思っている、ふたりを守りたかった・・・だから。」
アスランは、ミューズの言葉を聴き、驚いた瞳を開く。
やがて、その顔は柔和な笑みに変わり、愛娘の髪を嬉しそうにくしゃ、と包む温かい、彼の右手
が乗せられた。



「そっか。」
「お父さんも、お母さんも、ずっとずっと苦労して、このオーブを守ってきたわ。 私のできること
なんて、本当に微細だけど・・・ でも、なにかがしたかったの。 そして、自分の力がどのくらい
あるのか・・・ 確かめたかっただけ。」
「俺は、お前の力にはなれたか?」
「うん。」
ミューズは嬉しげに、はにかんだ笑みを零した。
「でも、まだまだお父さんには敵わない。 もう、何十年もモビルスーツなんて乗ってないから、
腕が錆付いているとばかり思って、油断したわ!」
やっと口調が元の調子を取り戻したのか、ミューズはずけずけと、アスランに言葉をぶつけてくる。
その言葉を聴いて、アスランはおかしそうに大笑いをする。
「錆付いて・・・か。 なめんなよ、これでも、ザフトに居た時はエースだったんだからな!」
ミューズの肩を抱き寄せ、アスランは更にくしゃくしゃと、愛娘の髪を掻き回した。
ミューズは、甘える仕草で、アスランの肩に頭を乗せた。
「・・・お父さん、大好き、・・・だよ。」
「お母さんは?」
アスランは嬉しげな瞳で、ミューズを見た。
「同じくらい好きに決まっているでしょう。」
「ありがとう、ミューズ。」
アスランは、ミューズの肩を抱く腕に力を込めた。
「お前が生まれた日の朝のこと、今でも鮮明に覚えているよ。ミューズ、という名前は
カガリがつけたんだ。 ギリシャ神話にでてくる、水を司る、女神の名前だって教えてくれた。
水はひとを生かし、大地を育む源。そんな風に乾いた大地に生命を育てられるよな子に
なってもらいたい。そう願ってつけた名前なんだ、って云ってた。」
アスランは懐かしげに眼を細め、腕の中の愛娘を見つめた。
ミューズは小さく微笑み、俯いた視線の中で、アスランに告げる。
「お母さんに後で伝えて。 私を生んでくれて、ありがとう、って。」
「・・・わかった。」
小さく返事を返し、アスランは瞼を落とした。
優しい温もりを腕の中に感じながら、彼は思い耽る。
こんなに愛しい宝物を与えてくれた、カガリ。
愛しくて、なによりも掛け替えのない、存在。
彼女に出会っていなかったら、こんなに素晴らしい気持ちになることもなかった筈だ。
「俺が18の頃、起こった戦争が最後になっているが、お母さんも、俺も、お前たちの
ような若い軍人が戦いの場にでていかなくて済むような、そんな世の中を・・・平和を
守るからな・・・」
現体制のプラントは、ハト派であった、穏健派、アイリーン・カナーバが、再び議長に
再就任し、オーブとも友好かつ、平安な関係を維持している。
ミューズは、アスランの肩に凭れ、小さく頷く。
軍港にアークエンジェルが接岸されると、ミューズの友達らしき、女の子がふたり、
駆け寄ってきた。
『ミューズっ!』
同時にハモっての、親友の声に、港に掛けられたタラップを渡りながら、ミューズは
笑顔でそれに応える。
「ナギサ! サキ!!迎えにきてくれたの?」
「だって、軍司令部にいるのかと思ってたのに、アンタ、アークエンジェルで出航した、って
聞いたから!」
ナギサと呼ばれた女の子が、頬を膨らませる。
「約束破りじゃない、オフにはボーリングしよ!って云ってたのに!」
同調し、サキと呼ばれた女の子も、抗議の様相。
「ミュー? 友達か?」
一緒にタラップを降りてきたアスランは、ミューズの背後から声を掛けた。
「うん。パイロット仲間の同期。『ナギサ・ハヤセ』と、『サキ・コートニー』よ。」
ミューズの自己紹介に、アスランは軽く会釈をする。
「ミューズのこと、よろしく頼みます。」
『は、はいッッ!!』
またもや、声がハモリ、赤面した少女たちは、かちんこちんに固まってしまっている。
仮にも、自分たちの国を支える人間のひとりである、アスランが、目の前に居るなど・・・
考えることもしなかった現実だからだ。
テレビの中の、偉いひとが・・・という感覚なのだろう。
喩え、その存在が、ミューズの父親である、とわかっていても、・・・やはり緊張するらしい。
「アスランッ!」
間を於かずに、渡されたタラップから響く、ハスキーヴォイス。
『わわわッッ!!』
少女達は、再び奇怪な声をあげた。
今度は、国の代表首長のお出ましだからだ。
「今、連絡があって、行政府に来い、ってさ。」
何気に、カガリはアスランに近寄り、いつもの口調で彼に話し掛けた。
「なにか、あったのかな?」
「わからん、行ってみないとな。」
真摯な風体での、ミューズの両親の姿。
普通の顔をしているのは、当然ミューズだけである。
程なくして、軍港の倉庫近くに一台のリムジンが滑り停まった。
「お迎えだ。行こう、アスラン。」
カガリは先陣を切って、歩を進める。
「ああ。」
相槌を打ち、アスランもそれに続いた。
リムジンに乗り込む間際、カガリは愛娘に声を掛けた。
その声に振り返り、ミューズは不思議そうな色を湛えた瞳を、母親であるカガリに向ける。
刹那、空を舞う、一本の黄金の鍵。
その鍵は、すっぽりとミューズの両手のひらの中に納まった。
「約束だからな。暇ができたら、モルゲンレーテの地下に見に行きなさい。」
笑顔を湛え、カガリはミューズに告げた。
「これ。・・・『アカツキ』の?」
呟く、確認の言葉。
だが、その声を耳にしながら、カガリは苦笑し、いそいそとリムジンに乗り込む。
乗り込んでから、カガリは窓を全開にして、ミューズに用事ことを頼み込んだ。
「私も、アスランも、帰りが遅いと思うから、夕飯、なんでもイイから作っておいてくれ!」
「ええっーーー!私が!?」
ミューズは、呆れた声音をあげた。
「家に戻っているなら、それくらいやる!」
ぷちぷちと納得いかない、渋面のミューズ。
「頼んだぞっ!」
答えも訊かずに、車が走り出すのを、ミューズは呆然と見送った。
「もう、お母さんったらッ!」
怒ったミューズとは正反対に、走り去ったリムジンを見送る、熱いよっつの視線。
ミューズは、親友たちの視線の意味がわからず、首を傾げる。
「ステキね〜〜 ミューのお父さんとお母さん。」
ほお〜〜と、感嘆の溜息をつくのに、ミューズは呆れた視線を投げかけた。
とかく、慣れている環境、人間15年やってきて、アスランとカガリがなにかある事、学校行事等々で・・・
ふたりで立ち並ぶ度に、こんな光景は、数えきれないほど体験してきている。
今更、驚くことには値しない。
それでも、どこか、自慢のできる両親のもとに生まれついたのは、ミューズにとって
ほんの少し、誇らしい、思いを宿したのだった。






                                                    ■ END ■










※さて、今回のお話は、過日日記でちょろり、と書いた、
ミューズメインのお話です。 まあ、こんな話、自分とこの
私事のごたごたと重なったせいか。どこか、ミューズに
自分の娘にも、こうあってもらいたい、という願いが
篭っているのかもしれません。
一部、本編『運命』設定での内容が被っておりますが、
まあ、毎度の言い訳ですが、細かいことは気にしないで
ください。イヤイヤイヤ (*^▽^*)ゞ
・・・幼少期ぶっとばして、いきなり成長物語で、
すみませんでした。(*°ρ°) ボー

※過日、SEEDオンリーイベントで、かずりんさんが
こっちに上京してきた際、かずりんさんご本人から、
この話の挿絵を・・・との言葉に、狂喜乱舞しました!
ミューとアスランの親子の絆を感じられるシーンを
絵に起こしてみたい、との言に、いちもにもなく、即答
OK!でしたよ!v(≧∇≦)v イェェ〜イ♪ そんなわけで
ステキな挿絵が入り、感無量!絵のイメージに合わせ、
また文章の方も楽しんでいただければなによりです。
いつも、本当にありがとうございます!かずりん様。
そんな、かずりんさんのステキサイト様は下記バナーより
どうぞ。(^-^ ) ニコッ ↓






                                      トリビアの種   Back