『獅子の牙』B
俺が振り返ったのと同時に、さっとサングラスを奪われる。
急に強くなった日の光に、思わずぎゅっと瞳を閉じた。眩しい光の中、なんとか瞳を開き、
彼女を探す。
「助けてくれたこと、まず礼を言う。ありがとう」
「いや、俺は……ボディーガードとして、当然のことをしただけさ」
「なにが、しただけさ、だ! お前だって見たろ、ユウナ・ロマの奴、完璧に癇癪起こしてるぞっ?」
カガリは、俺のサングラスをしっかり握りしめたまま、こっちを睨んでた。
やっと光に目を慣らして、最初に見たのが怒ってる顔だなんてね……。
まったく、ついてない。
それでも、泣いている顔よりは、なんて思っている辺り、俺もそうとう……馬鹿なのかな。
キラ語で言うと。
カガリがサングラスを握ったまま、離さずにいるのを見て気付く。
……そうか。アレックスとしてじゃなく、アスランとして話をしろということらしい。
「俺より年上の彼が、年下に苛められて癇癪起こした? まさか、そんなことあるはずないだろ」
「口が悪くなったぞ、アスラン」
「ご心配なく、自覚症状はある」
「今は仕方ないんだ。……もうしばらく、国が安定するまでは」
「国が安定する前に、俺の頭とあいつの尻がどうにかなりそうだが? まったく、こっちの気も知らないで……」
俺の言葉に、カガリはぽかんと口を開けて瞳を瞬く。
その顔が、いつも見ている『代表』から、俺の知っている『カガリ』に戻った気がして可笑しかった。
カガリは口を尖らせ、頬を掻いた。
俺がその頬に唇を寄せると、おとなしくキスで触れるのを許してくれる。
傍にある互いの顔を覗き込み、額をすり寄せ合った。まるで動物が、じゃれあうように。
時折触れる、カガリの金色の髪が肌を撫でてくれる。
鼻をくすぐられないよう、注意しないと。
「……口には、しない。まだ国が安定してないからな。お前の頭がどうかしても、ユウナの尻が
真っ赤に腫れても、だ」
囁くようにカガリはそう言って、俺の首に腕を回して身体を抱きしめた。
ああ、もちろんわかっているよ。
そう言えたら、どんなにカッコいいだろうな。
どうしてもそうは言ってあげれなくて、俺は沈黙のまま、渋々頷く。
カガリが声を上げて、くすくす笑った。
それを聞いただけで、渋っていた心がいささか軽くなった。
君が、自分の道を見つめて進んでいくように。
俺も進んでいけたらいいなって思う。
たとえ、それで少しだけ離れることになっても、大丈夫だよな?
俺はここにいるから。
君の傍にいるから。
国が安定したら、祝福のキスと。
愛してるの花束を、たくさん、君に贈るよ。
いつか君が幸せの中で、光のように眩しく、微笑んでくれますように……。
そして出来れば。
その後ろに、尻を真っ赤にしたユウナ・ロマがいますように。
【おしまい】