「まだ、怒っているのか?」
「別に。」
アスランの問い掛けに、カガリはムスッ、としたまま言葉とは裏腹の態度で
皿のうえの肉を切り分け、自分の口に放り込んだ。
夜景が自慢の店だったのに・・・
こんなんじゃ、景色を楽しむどころではない。
「・・・悪かったよ。」
無理やりラクスとの談笑を中断され、連れ込まれるように車に乗せられ、
今に至る状態なのを、彼女が不満に思っているのは解っていた。
素直に謝っているのに・・・
なんだか許してくれそうにない雰囲気だ。
「・・・ごめん。」
「半年振り、っていうのは解っていただろ? ラクスに合うのは。」
「でも、レストランの予約の時間とかあったし・・・」
もごもご。
はっきりと言葉を発っせないのは、自分が悪いと思っているから。
それに、女同士の話で時間をとられ、限られたカガリと過ごせる時間を削りたくなかった。
それが本音だ。
この後は、食事が終わったら、彼女をカクテルバーにでも連れ出し、軽く酒でも嗜んでから
部屋に誘うつもりでいたが・・・
この調子では無理そうだな。
小さく彼の口から溜息が零れた。
「つったく、お前って、ほ〜んとどうしようもない男だな。」
カガリの突っ込みにも返事を返さない彼。
「もうイイ。済んでしまったことをぐちぐち云うのは嫌いだ。 今は食事を楽しむことにする。」
くすっ、と彼女は小さく笑った。
切り替えの早さは天下逸品。
救われた。
「その代わり罰に、デザートフルコース注文するからな。」
「太るぞ。」
彼も攣られ、苦笑を零した。
「なんだよ、いっつも云ってるじゃないか。女の子はがりがりよりも程好く太めがイイって。」
「そりゃね。 抱くなら、って意味でさ。」
アスランは緩い笑みでカガリを見詰めた。
途端、彼女の頬が朱に染まる。
コツン、と彼女のヒールの爪先に軽い衝撃が走った。
アスランが靴先で蹴り、刺激を与えたのだ。
テーブルクロスで隠れているとはいえ、ほんのささやかな悪戯に、彼女は俯く。
「・・・今夜は・・・」
「門限は10時までだ。」
云い掛けた言葉を遮られ、彼は小さく笑った。
まぁ、良いか・・・
無理を云っても詮無きこと。
今夜は彼女のご機嫌取りで抑えておこう・・・。
機会はまた作れば良いことだ。
諦め、アスランは食後のコーヒーをオーダーした。
カガリにはデザートの盛り合わせを注文してやる。
にっこり嬉しそうな彼女の笑顔。
この顔を見れるだけでも充分に嬉しい。
食事を済ませる頃、時刻は夜の9時を廻っていた。
レストランから駐車場までの道を辿る途中、彼女の歩き方に違和感を感じ、アスランは
足を止めた。
苦笑いを浮べ、彼女は靴を履き潰してる足を軽くあげる。
助手席のドアを解放した愛車のシートにカガリを座らせ、アスランはその前に片膝をついて
彼女の足を手にとった。
「靴ズレしてるじゃないか。」
見事なまでに、両足の踵の皮が剥け出血を起こしている。
慣れない借り物の靴が齎した傷。
「我慢してたのか? こんなになるまでなんで黙っているんだ?」
「云う暇なかった。」
はぁ・・・
アスランは彼女の声に溜息をつく。
意地っ張りも、ここまでくれば大したものだ。
もっとも、こんなことは今に始まったことではないが・・・
「俺の家に行こう。 ちゃんと治療しないと明日歩けなくなるぞ。」
「自分でできる。」
「いや、引っ張りまわした俺の責任だ。」
押し問答を繰り返しても、終点の見えない内容。
カガリは息をつき、素直に彼の言葉に従った。
彼のアパートに着き、車を降りる頃には自力で歩けない程痛みがピークに達していた。
見かねた彼は、助手席のシートに廻り、彼女を両腕で抱き上げる。
僅かな抵抗も、彼の優しい態度で直ぐに黙してしまう。
大人しくなった彼女を自宅に運び、デスクの椅子に降ろす。
洗面器に水を汲み置き、彼は丁寧に彼女の足を洗ってやる。
それを済ませ、、タオルで水の雫を拭き取り、用意した軟膏を傷口に塗り、
患部に包帯を捲きつけた。
それを終わらせてから、彼はゆっくり立ち上がった。
「さてと、門限30分前だな。送っていくよ。」
「なにもしないのか?」
「なんかしても良いわけ?」
くすっ、と彼は薄く笑う。
本音を云えば、こんな綺麗な姿の彼女を手放したくなんてない。
が、あまり無理やり、というのも自分の趣味ではない。
カガリはデスクに置いてあった、自分のバックを手に取り、中から携帯を取り出した。
おもむろに電話を掛けだす彼女に、彼は瞳を開く。
『あ、マーナ? 私だ。・・・ごめん、今キラたちと一緒なんだけど・・・盛り上がっちゃって
抜け出せそうにないんだ。二時間ばかり帰るの遅くなるから心配しないで。・・・うん。
解ってる・・・午前様にはならないから・・・ じゃあ、キサカには上手く言っておいてくれ。』
プツッ。
用件を言い終え、彼女は携帯を切った。
「と、いう訳で二時間延長だ。」
そう云って彼女ははにかんだ笑みをアスランに向けた。
「困ったお姫様だな。」
アスランは呆れたように小さく笑ったが、内心嬉しさでどうにかなってしまいそうだった。
彼女の結った後ろ髪に手を廻し、髪留めを外す。
ぱさり、と音をたて、彼女の結った金髪が零れ落ちた。
アスランは顔を寄せ、緩く引き寄せた彼女の顔を見詰める。
「今日のカガリは、すごく綺麗で、抑えるの大変だった。」
「綺麗、って服のことか?」
「両方。」
するり・・・ 開いたドレスのスリットから彼の手が忍び這った。
「・・・でも、こういう刺激的な姿は・・・これからは俺の前限定でお願いします。」
「了解。」
緩く笑んだ彼女の了承の言葉。
ヤキモチ焼きで、どうしようもなく始末に負えない彼だけど、その独占欲の強さは
なによりも彼女には心地良かった。
解っていてて、今日は試していたのかも知れない。
彼のそんな気持ちを確認したくて態と・・・
無意識ではあったが、冷静になって考えてみれば、アスランがどうしたいのかなど
手にとるように理解できた。
喩え、その対象が同性の友達であったとしても、それは同じ。
自分以外の者に関心を寄せるのは、アスランにとっては『嫉妬』以外のなにものでもない。
ふと、まじかに寄った彼の美しい翠の双眸が彼女を捉えた。
魔性の瞳。
カガリを魅了して離さない、翡翠。
瞼を落とせば、重なる優しい口付けが彼女の身体を蕩けさせていく。
柔らかい互いの唇の感触にうっとりし、僅かに離れた唇の隙間で囁けば、
彼を充分に喜ばせる言葉が自然に漏れ溢れる。
『・・・お前だけを愛してる・・・』
今は、彼女にとっても彼は掛け替えのない存在。
それだから想ってしまう・・・
意識せず絡めとって欲しいと望んでいる自分を・・・。
甘い口付けを繰り返しながら、それが欲望を満たす為の口付けに変わるのは
ふたりにとって時間の掛かることではなかった。
■ END ■
★ あとがき。
今回はちょっとばっか難産でございました。;;
(T_T) ウル 体が疲れて思うように執筆が進まない。
頭の中では書きたい話なのに、纏まらず、そのうち
自分がなにを書きたいのか混乱してくる、という
悪循環。・・・こんなの初めてだわ。(i々i)] ハゥ〜
このお題執筆にあたり、過日一般参加した
オンリーイベントで合流した、H子さんとコーディ柚香嬢
との会話で、「私、カガリと身長同じ!」発言を
してくれた柚香さんと「私、ヒール履けばアスランと同じ
身長」というH子嬢に「悪いけど、ふたりで向き合って
立ってくれない?」と透かさず注文したオレ。
で、その実物対比、実況見分して、できたのが
今回の話だったりします。(o^<^)o クスッ
本当はふたりで抱き締めあって欲しかったんだけど、
イベント終了後の外での出来事だったんで、
そこまで注文すると危ない百合のカップルに
見えそうだったんで止めました。;;
ま、話のきっかけとネタなんて何処に転がっているか
解らないもんだ、というお話。ププッ ( ̄m ̄*)