「サバイバー」5

ピッタリと、シュラの身体にフェリスは身体をくっ付ける。
両腕を枕代わりに、頭の下に組置いていたシュラが、
小さく言葉を漏らす。
「あのさ〜フェリス・・・身体、くっ付けるの構わないんだけど・・・
あんまり下半身刺激しないでくれないかな?」
その彼の言葉を聞いて、フェリスはなお更、身体を密着させ、
片足を彼の足に絡めてきた。
「・・・理性、ぶっ飛ぶぞ!挑発するなよ、頼むから!」
赤面しながら、シュラは荒く言葉を紡ぐ。
フェリスは身体をゆっくりと起こすと、彼の顔を覗き込むようにして、
微笑んだ。
「・・・我慢、なんてしなくたってイイじゃない・・・それに、遠慮する
ような関係でもないでしょう?」
と、言うと、彼女はそっとシュラの唇を自分の唇で塞いだ。
体勢を入れ替えて、シュラはフェリスの身体を組み敷くと囁く。
「誘ったのは君なんだから・・・拒否するなよ」
クスクスと彼女は小さく微笑しながら、笑った。
軽いキスを何度も繰り返し、互いの愛情を確認するように
口付けを繰り返す。
唇が僅かに離れ、フェリスは彼の首筋に両腕を廻し、囁く。
「・・・昔、ブルック シールズの「青い珊瑚礁」って映画を見たことが
あるの。その映画みたいね・・・今の私たち・・・」
そう、小さく言葉を紡ぎながら、フェリスは彼の腕の中で物語のあらすじを
語り始める。・・・乗っていた客船が難破して老人と幼い男の子と女の子が
漂流の末、辿り着いた無人島。そして老人の死、やがてふたりは成長し、
男と女として愛し合うようになる。何時しか彼女の中に宿る新しい生命。
彼女は理解できないまま、子供を産んでしまう、という内容だった。
「・・・貴方とふたりなら、私、このまま、ここで暮らしても良い・・・
何時か、貴方の赤ちゃん産んで、家族で暮らすの・・・」
「・・・それも・・・良いかも知れないな・・・」
シュラは緩く微笑んで、再度優しく、彼女の唇を塞いだ。
口付けに高まった互いの身体が熱を佩び、熱く求め合う。
優しく、緩やかな営み。愛し合う男女にだけ許された行為にふたりは
夢中になっていく。
窓から差し込む月明かりに照らされながら、お互いが求め合うまま
慈しみあった。


窓から差し込む陽の光に、シュラは瞼を持ち上げる。
自分の横にいる、と思っていたのに、フェリスの姿はなく、シュラは
寝ぼけた声で彼女の名を呼ぶ。
ゆっくりと身体を起こし、呟く。
「・・・何所行ったんだ?・・・フェリス・・・」
ふと、小屋の外から聞こえてくる、彼女のはしゃぐ声に、シュラは身支度を
すると、その声に誘われるように歩みを向ける。
浜の入り江で、あのイルカ達と戯れる彼女を見つけ、シュラは微笑んだ。
砂浜に姿を見せたシュラを見つけ、フェリスは海の中から手を振る。
「おはよう!シュラ!」
そして、一頭のイルカの頭にキスをすると泳ぎ始めたイルカ達を送り出すように
手を振った。
それを済ませると、フェリスはシュラが待っている浜辺へと戻って来た。
「ペンダント咥えさせていたみたいだけど・・・」
目敏く、シュラはフェリスの行動に、疑問を投げかける。
「あのこ達は頭が良いわ。・・・アイオリアと魔鈴のクルーザーを見つけてくる
ように頼んだの。・・・きっと助けを連れて来てくれる。」
確信的に言葉を紡ぐフェリスにシュラも頷く。
「そうだと解れば、こっちも火を興す準備だ」
「火を?」
「煙を燻せば、目印になるだろう? 俺たちがここにいること、少しでも発見され
やすいようにこっちも仕向けなくちゃな」
「うん。」
同調して、フェリスもシュラを手伝う為に、その準備に移った。


陽が昇ったと同時に、船上のアイオリアと魔鈴はシュラとフェリスを探すことに
全力を傾けていた。
海図を読み、潮の流れを計算に入れて、ふたりが流されたと考えられる海域を
探し回っていた。
「後、一時間、探してみてダメなら、アテナに連絡取って財団の救助隊を派遣して
もらうしかないな・・・」
アイオリアは操舵をしながら、隣の魔鈴に言葉を漏らす。
その彼の言葉に、魔鈴も頷く。
魔鈴が双眼鏡を片手にデッキに出ると、海上に昨日見たイルカ達の姿を見つけ、
首を傾げた。目敏く、一頭のイルカの口元に光る金色の物を見つけ、魔鈴はアイオリア
をデッキに呼ぶ。
「あのイルカが咥えているネックレス、フェリスのだわ!」
「間違えないか!? 魔鈴!」
魔鈴が力強く頷くと、アイオリアは操舵席に戻り、ゆっくりとイルカ達に船体を寄せて
いく。デッキから身を乗り出し、魔鈴はイルカからネックレスを受け取ると、イルカ達を
見つめた。
「・・・シュラとフェリスの居場所、知ってる?」
魔鈴はイルカ達に問うように、言葉を掛ける。
ククク・・・と、喉を鳴らすような鳴き声をイルカ達が漏らす。
そして船に背を向けると、まるで自分たちに付いて来い、とでも言うように
二頭はジャンプをした。
「アイオリア!! 舵をあのイルカに向けて!!きっとふたりのもとに案内して
くれるわ!!」
魔鈴の声を聞くや否や、アイオリアは船をイルカの導きに従い、全速前進を
開始させる。
どのくらい、船を進めたのか、前方に島影を発見すると、その島影から立ち上がる
煙に魔鈴は双眼鏡を覗き込む。
そして浜辺で手を振るシュラとフェリスを見つけると、歓喜の声を上げた。
「いたわ!!」
「ホントか? 魔鈴!」
肉眼での確認が出来ないことに、アイオリアは声を掛ける。
船を座礁しない距離まで島に寄せ、アンカーを降ろすと同時に魔鈴は海に飛び込む。
その姿を見つけ、フェリスも海に走り寄った。
「フェリス!!」
「魔鈴!」
海から上がりきらないうちに、フェリスが駆け寄ったことに、魔鈴は身を起こすと
フェリスに思いっきり抱きついていった。
「心配したんだから!!」
「ごめんね、・・・ごめんね。」
フェリスは唯、魔鈴の身体を抱き締め、謝ることしか出来なかった。
少し時間を空け、アイオリアが島に上陸すると、今度はシュラがそれを
出迎える。
「良かった・・・無事で・・・」
アイオリアの漏らした安堵の声に、シュラは苦笑を漏らす。
「何とか生きてるよ・・・心配かけた」
シュラはアイオリアに握手を求め、アイオリアはそれに応える。
一時はこの漂流記に終わりがないかも知れない、と感じたこともあったが、あのイルカ達
の御蔭もあったか、無事事なきを得、四人は帰途に着くことが出来た。
聖域に帰還を果たし、やがて時が過ぎる。
時間が経てば、何時の間にかその話題は笑い話の種にされ始めていた。
島の状況を女官の仕事に戻ったフェリスの口から聞き、沙織はふと、そんなに環境が
整っている島なら今度はリゾート開発にでも着手してみようかしら? 等とあらぬ考えを
巡らしたりし始めるのであった。
何はともあれ、日常の生活を取り戻しつつある現状に幸あらんことを・・・。



                                   〜END〜