「つまり、その香は自分が一番体験したくない、と思ってることを
夢に見させる、ちゅうイワクつきの代物なんだ・・・」
ミロが言葉を言い終わるか、否かの内に、シュラは自宮を飛び出し、
光速で処女宮へと走って行った。
その形相はまるで、鬼の如くなのに、通り縋りの者は、駆け抜ける疾風に
一体何事が起きたのかと、眼をしばたたかせた。
処女宮の私室の扉を、シュラは乱暴に開け放つと、あらん限りの大声で
宮の主の名を呼んだ。
処女宮の主、シャカはのんびりと朝食の最中なのに、怒りが沸騰点まで
登り詰めているシュラの形相に、原因が解らず、首を傾げる。
いきなり、シュラは座っていたシャカの衣服の襟首を両手で鷲掴みにすると、
怒鳴りまくる。
「よくも、フェリスに変な香、持たせやがったな!!」
「香?・・・ああ、ですが、アレは安眠の為で。」
「副作用があるのは彼女には言ってないだろう!!」
「言う必要はないでしょう?彼女に差し上げたんですから。」
当然、効果のことは知っていたのだろう、シャカはニッと笑い、
「貴方はどんな夢を見ました?」
と、聞き返してきた。
「やかましい!!!」
ドッカーン!!、ともの凄い衝撃波が処女宮を中心に、12宮全体を揺らした。
ものの見事に、処女宮の私室の屋根が吹っ飛び、怒りフルパワーのシュラに
のされたシャカの姿がそこに横たわっていた。
その、のびてるシャカを背に、シュラは踵を返す。
自宮に戻るや否や、シュラはベッドサイドの小さなローテーブルに置かれた
香楼を窓から投げ捨てた。
「や〜ん、それ捨てないで!」
フェリスの悲鳴を聞いても、無視。
後はとにかく、窓という窓を開け放ち、換気に勤しむ。
それが終わると、シュラは一言フェリスに「寝る!!」と言い残し、寝室の扉を
勢いよく閉めた。
訳も解らず、フェリスは首を傾げると、壁掛けの時計に視線を移す。
「・・・寝る、って・・・まだ朝の九時じゃん・・・」
苦笑を浮かべ、彼女は冷や汗を覚える。
シュラがその眠りを満足させ、眼を開けたのは楽々と時計の針が一回転する頃で
あった。むっくりと起き上がり、シュラはあくびをひとつすると、ベッドを抜け出る。
漸く、姿を見せたシュラに、居間でくつろぎながらソファに座って雑誌を読んでる
最中だったフェリスは視線を向ける。
「普段イビキ、なんてかかないのに、どうしちゃったの?凄かったよ〜」
彼女は何気に彼に事態を報告する。
「事情は後で話す。それより腹減った、何か食う物ある?」
はい、はい、と彼女が腰を上げると、シュラはまたひとつ大きくあくびをし、
身体を解すように、両腕を上げ、伸ばした。
空腹を満たした彼の満足げな顔を見て、朝の出来事を、当然の如くフェリスに
質問され、シュラはことの経緯を説明する。
勿論、その経緯に、フェリスが大爆笑したのは言うまでもない。
そして、最後に気になる彼の「悪夢」に話が及ぶのは当然であった。
「で?、貴方が震える程、おっかない夢、って一体何だったの?」
「・・・デスマスクにバックヴァージン奪われる夢・・・」
きゃははは!っと、けたたましいくらいのフェリスの笑い声に、シュラは
赤面しながら言葉を荒く紡いだ。
「俺は女が好きなんだ!!男にオカマほられるくらいなら、死んだ方がマシだ!」
そう言って、ふて腐れた表情を作って、目の前の彼女を睨む。
フェリスは止らない、余りの可笑しさに、思わず椅子から転げ落ちそうになった。
「チェッ、好きなだけ笑ってろ!」
そう言って、彼は彼女から赤面した顔を逸らした。
〜END〜