夜 》


《 蜜 夜 》







親睦、友愛、懇親、友好…。
言葉は数多あれど、話し合いを基盤とし「和」を保つためとわかっては
いても、彼女がその「集い」たる華やかな宴をあまり好んでいないのは
昔からのことだ。
淑女、国の代表としての彼女のパートナーとして選ばれ、護衛も兼ね付き従うように
なったのは、アスランが軍属に属するようになってからだ。
地位という観点から見れば、高級武官の部類に入る身の上になるので、
相対する人間からは、一応は笑顔で接されるようにはなった。
その下に隠された、思惑は別として。
互いに示威する腹の探り合いを見破られぬように細心の注意を計らっての会話は、
気の許せない一時でもある。
でも、それは彼女も一緒。
カガリ自身、仕方なくと腹を括って臨んでいる節は勿論ある。
今着ている、真っ赤なドレスだって、アスランにしてみれば、本音、人の目には触れさせたくない
姿のなにものでもない。
けれど、そんな姿をなによりも心地悪く感じているのは、間違いなく本人だろう。
カガリは、どんな相手と会話を持っても、常に「対等」であることを望む。
それは、為政者としての頑なな姿勢のひとつだ。
だからなのだろう、こんなにも女という格好を誇張した姿をあまり好まない。
そんな姿を見遣って好色な眼を向けるものは、少なからずいるからなのだろうが。
つまりは、女然とした格好を「武器」として使うことを好まないのだ。
ひとと、ひととの関係を築くのであれば、掛値なしに本音を聴きたい。
それが、大本であるが故に。
一通りの挨拶が済めば、ふと隠れた一瞬に彼女の唇から小さな嘆息がひとつ洩れる。
そのカガリの姿を視界に納め、アスランは苦笑を零した。
日々の、政に従事するカガリのハードスケジュールを鑑みれば
このような催しは、ストレスという名の精神的負荷のなにものでもない。

嗚呼… ほら、まただ。

新顔の挨拶廻りの猛攻に顔が引き攣り始めている。
時を見計らって、どこでもいい、連れ出したい。
そして、息を抜いてやりたい。
そう考えていた矢先、彼女の様子が変化したのをアスランは見逃さなかった。
素早く彼女の陰から声をかける。
「足をどうかしたのか?」
「え?」
「いや、左足、なんかきにしているようにみえるから」
「あ?… うん。」
あまりにも、洞察力と鋭い観察眼を見遣って、カガリは視線を彷徨わせた。
「慣れないヒールのせいかもしれないけれど、どうも左のふくらはぎが攣ったみたいで…」
「痛い?」
「確認するまでもないだろ?い・た・い!に、決まってるだろう?」
じとっと、彼女にドヤ顔で凄まれ、アスランは冷や汗を浮かべ苦笑した。
「休める部屋が確保できるか聞いてくるよ」
素早く、その場を抜け出し、彼は人ごみに消えて行った。
本音を言えば、自分も連れていって欲しい!と大声で叫びたい気持ちをカガリは堪える。
そんな僅かな待機の時間でも、足の痛みは益々酷くなっていく。
「…マジでヤバイかも。」
早く帰ってきてッ!!と、心の叫びは悲鳴に近いものになっている。
平素な顔をしているのも、かなり辛い。
今か、今か、とアスランの迎えを待っているのは、本当に長く感じた。
漸く、彼が来てくれた頃には、然程の時間は経っていないのだけど、あまりの安心感にらしくなく
その場にヘタリ込んでしまった。
刹那、身体がふわりと浮く。
「んなッ!?ちょ、アスランっ!」
迷わず彼女の身体を横抱きにし、強引な運送手段を選択されたことに、カガリは悲鳴をあげそうになった。
が、そんな衆目の的を引き寄せるのは御免とばかりに両手で口を素早く塞ぐ。
彼女の顔は、ものの見事に茹で上がっていた。
「ば、馬鹿っ!場所考えろ!場所!!」
雑言を運搬主に浴びせかけるが、当のアスランは知らん顔。
平然とした顔で彼女を抱き上げている。
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ?俺は、痛めてる足を引きずらせてまで歩け、なんて鬼なことは
言わないつもりだけど?」
恥や外聞よりも、彼女の身体の都合を優先してくれるアスランの気遣いにカガリは閉口した。
だが、顔は茹で状態継続中だ。
早足で、会場をあとにし、通路を闊歩していく。
残された会場のどよめきは、この際、無視する。
このあと、なにを噂されても、話の内容を吟味して否定、肯定を振る分けるしかないだろう。
まあ、真実味は別として。
まだまだ公にはできない、ふたりの関係。
特別な間柄は、極々少数な者たちのみにしか明かされていない。
「…こんなことして、また、変な噂がたったらどうするんだよ?」
「それこそ、野となれ山となれ、でいいんじゃないですか?」
まるで人事のよう。
アスランは、しれっとのたまう。
こんな話題、追求するだけ無駄だと考え、カガリは大人しく彼の腕に身を寄せた。
「また、体重、減った?」
「もう!なんなんだよ!さっきから!!」
「悪い。でも、なんか君が軽いから」
「重いよりもいいだろう?」
「皮肉を言ってるつもりはない。ちゃんと、食事をしているのか聞きたいだけだ」
「…食べてるよ、…一応。」
拗ねた声音で彼女が応える。
不規則な強行スケジュール、伴う削られる、彼女の睡眠時間。
為政者であれば、それは極当然の事象。
でも、その全てを背負うのには、彼女の肩は小さ過ぎる。
無理をして倒れないで欲しい。
それだけが、彼の願いだった。
パーティーが催されていた会場から、上階に用意された部屋の扉を開け、アスランはカガリを抱いたまま扉を潜った。
会議室の用途しかもたいないような部屋の作りのようだ。
殺風景な室内。
せめて、ソファくらいあってもよさそうなものなのに、とアスランは苦虫を潰したような表情を浮かべる。
唯一の救いは、大きな継ぎ目のない窓硝子。
差し込む月明かりが眩しい。
腕に保護していたカガリを、とりあえずはと考え、窓際の腰を降ろせそうな出窓作りの縁に下ろす。
「…明かりを」
辺りに視線を走らせ、アスランは室内灯の電源を探す。
「要らないよ?こんなに明るいじゃないか。」
「え?」
驚いて、アスランは眼を見開いてカガリを見遣った。
「今夜は満月だったんだな。知らなかった」
月を見上げるカガリの表情にアスランは見惚れた。
月明かりに映え、照らしだされる、愛しく美しいひとの面。
金の髪が、また眩しいほどの艶を放つ。
思わず、無意識にアスランは彼女の足元に膝を落とした。
邪心を持ったつもりはなかった。
唯、彼女の痛めた足を解そうと思っただけなのに…
随分と長い時間、彼女と身の接触をしていない、「男の本能」が疼いた。
なだらかな、白い肌。
政に携わるようになって、めっきり室内に居ることが多くなった彼女の肌色は、白い。
運動が趣味、という彼女の日課が消失してしまったことは、こんなにも身体的な変化を齎すものなのだろうか。
柔肌を擦り、内腿の手前で軽く彼女の肌を吸った。
小さな喘ぎ声が、アスランの耳を打つ。
何故だろう。
不思議に思いながら、彼女が咎めないことをいいことに、彼の指先が大胆さを増していった…。
















※はいっ!表での公開はここまで!!(笑)続きは「裏」です。(爆)
まだ書いてる途中なので、書きあがり次第アップします!パルさんにも
「裏」からのリクがでているんで。のほほ。墓]三(っ ´._ν`)っヒャッホー