この世には、誰よりも光を放ち、輝く存在を誇示できる人種がいる。
言の葉で表すのなら、所謂、「カリスマ性」という言葉になるだろうか。
オーブ首長国連合。
南国の宝珠。
赤道に近いこの島国を支えてきたのは、五大首長家と言われる、家柄の
人間たちだ。
なかでも、その五氏族のなかで抜きん出た存在こそ、アスハの者達であった。
―――アスハ家。
オーブの長き史歴のなかで、揺るがぬ力と、優秀な政治家を多く輩出してきた名家。
五氏族の頂点を常に極め、導く立場にある、者。
そして、先に述べた「カリスマ性」を何よりも輝かせることができる、存在。
アスハであるが故に、その名に縛られ、それでも屈することのない不屈の
精神をも持つものでなければ、潰されてしまうだろう、その名。
絶大な、国民からの人気と、輝く導きの力。
地の女神、と謳われた、彼女だからこそ、その名の生かし方も殺し方も
知っているといえよう…。
『 YELL 』
日々、過ごしていく日常のなかの一コマに過ぎなかった。
カガリは、与えられた公務を、実直にこなしていくなかで、
取り分け、彼女が公私関係なく、感情をおおらかに表すのが
過去、戦争に関わり、それによって親を失ってしまった子供たちと
接触を図ることだった。
オーブ国内には、数多くの戦災孤児を預かる孤児院がある。
一ヶ月中、必ず一箇所は、公務としてそんな施設を巡るのは、カガリの
奉仕への精神を表す行動のなによりも強い意志を示す事柄。
同情などではない。
同じ親を失ったもの同士、分かち合いたいのだ。
だが、そんな彼女が訪れる訪問先は、いつもカガリを待ち受ける黒山の人だかりだ。
勿論、そんな状況下であれば、警備体勢は必然化してくる。
政治家としての、カガリ・ユラ・アスハを守るのは、軍人としての
当然の任務ではあるが…
今日も今日とて、群がる群衆に鋭い視線を走らせ、准将位として、軍人として
最高の地位を得たアスランは、神経を張り詰めていた。
ここに集まった人々全てが、決してカガリに対して好意を持っているとは
限らないからだ。
そんな、せちがないことは考えたくはないけれど、危惧感だけは常に持ち得
なければならない。
付かず離れず。
カガリとの距離を計り、彼女の安全圏を確保する。
刹那。
群集との境に設けられたロープと、警備任務を遂行する、アスランの部下たちの
足の隙間を縫って飛び出した小さな影に、下士官のひとりが叫んだ。
「あっ!?コラッ!」
だが、時既に遅し。
小さな影、ブラウンの、肩まで伸びた髪を揺らし、ひとりの女の子がカガリのもとに
駆け寄ってきた。
慌てたのは、群集を制していた、下士官たちだ。
抑えなければならない規律を破って、走り込む女の子を制止できず、軍人たちは
口々に叫んだ。
が、それを制したのは、意外にも彼らの上司である、アスランだった。
緩く右手を挙げ、部下たちを征する。
カガリに向かって駆け寄ってきた女の子を暖かく迎え入れる、その姿は、
その場に集っている群衆たちを魅了せずにはいられない。
カガリ自身、アスランのとった行動も、全て熟知しているのか。
緩く腰を屈め、女の子との距離をちじめる。
膝を折り、目線を合わせれば、少女はカガリと合わさった目線に薄く頬を染めた。
目の前に、自国の首長がいる。
それだけでも高揚感を覚えるには十分な理由になるであろう。
「カガリ様に、これを」
女の子は、自分が手にしていた簡素な花束をカガリに差し出した。
決して、華美でない。
むしろ、質素ともいえる、花束というにはあまりにもボリュームのないものではある。
しかし、カガリは慈愛の笑みを讃え、女の子が差し出したブーケを受け取った。
「今朝一番でウチの庭に咲いたお花なんです」
受け取って貰えたことが余程嬉しかったのか。
女の子は、素直にカガリに花を用意したときの経緯を解した。
「そうか。ありがとう」
にっこりと、笑むカガリの面。
ますますもって、少女は逆上せたように頬を赤らめた。
「お仕事頑張ってください。私、カガリ様がとっても好きです。」
愛の告白にも似たその台詞に、思わず苦笑を零してしまった。
頷き、女の子の背を見送り、カガリは群集のなかで待つ母親のもとに送り出す。
軽く、少女の母親と思わしき女性に会釈され、カガリは微笑み立ち上がった。
仕事であるのだから。
前提があったとしても、こんな一場面はよく遭遇する出来事のひとつだ。
この魅力こそが、カガリの輝きなのだろう。
誰をも虜にできる、その「力」。
老若男女、関係なくカガリはどこを訪れようとも、他の政治家や
氏族の人間にはありえない待遇でもって人々から遇される。
暖かく、包まれたような感覚を…。
彼女を見守る視線は、優しい。
だから、カガリは思う。
この人たちを守るのは、自分の役目なのだと… 強く。
そして、そんなカガリを見遣る、翠の双眸がまた、優しい輝きを映す。
「…代表、そろそろ移動をお願いできますか?」
絶妙のタイミングでもって、アスランはカガリを促す。
そっと耳元に囁きかける、アスランの声音は、カガリの背筋を僅か振るわせた。
やっぱり駄目だ、こいつの声。
ほんの少し、頬を紅に染め、カガリはさり気なさを装うけど。
ぎこちない動きは、拍車がかかるだけであった。
ひがな一日歩き回って、ようやっと官僚府に戻ってくる頃には、時刻は宵闇のときを
示していた。
「遅くまで、ご苦労だったな、ザラ准将」
戻ってきての執務室での労いの言葉は、あくまで上司から部下に投げる言葉ではあるが。
じっと動かない視線にいぶかしんで、カガリは視線を向ける。
固定された視線の先、翠の双眸に映える、己の姿に、咄嗟にカガリは視線を逸らした。
愛用しているデスクのうえには、昼間の訪問地で貰った、可愛らしい客人からの、
あの花のブーケが透明なグラスコップに差し置かれていた。
花びらを愛でるように指先を動かし、カガリは優しく花弁を突っつく。
直立不動で動かぬアスランに、なんとかきっかけを設けたくて、カガリは懸命に言葉を紡ぐ。
「昼間の孤児院でのサプライズは驚いたな!」
「…うん? …ああ」
疲れているのだろうか。
どこか焦点を結ばない、アスランの生返事に対して、カガリは言葉を必死に羅列する。
「この花をくれた女の子、まだ就学前だと思うけど、可愛かったな!」
「…うん、…そうだね」
それだけ?
とあまりにも、簡素なアスランの返事を聞き、カガリは眉根を僅か寄せた、刹那。
飛び出した、彼の言葉に目を見張った。
「…俺とカガリの子なら、もっと可愛いと…思うけど?」
「……は?」
思わず反射で返してしまった、妙なトーンのカガリの声に、アスランは夢想から覚めたような
表情で、目いっぱい赤面した。
口元から右手のひらをあて、顔を徐々に覆い、二、三歩後退すると、回れ右をし、
泡を喰ったような姿態で執務室をでていく。
…一体、彼になにがあったというのだろう。
なんか、とんでもない爆弾発言を聞いた気がする…。
暫し呆然としたあと、次いで微苦笑を浮かべ、彼がでていった扉を見遣った。
一方、室内の外、通路での廊下では…
アスランが、反省したなにがしの動物のように頭だけを壁に預けて項垂れていた。
「…なにを言っているんだ、俺は」
まさか、帰ってくるまでの今の時間まで、子供と接していたカガリの笑顔の
虜になっていたなんて…
逆上せていたのは、…俺?
おまけに、飛び出した。
いきなり、まさに、ポロッとである。
心の準備もなにもかも無視をして、…あの台詞。
――― 俺とカガリの子供…。
完全に順番が違うだろッ!俺ッ!!
そりゃ、カガリとの子供は欲しい!
切実にッ!
けど、それよりも、周りを説得して結婚式が先だろう、常識的に!!
意識していなくても、焦っているのだろうか。
無意識に?
はあ〜と、派手な溜息をつくと、アスランは被っていた軍帽を小脇に抱え、
とぼとぼと廊下を辿り始めた。
その頃、室内に取り残されたカガリと云えば…
忙しく百面相の真っ最中だった。
冷静になってから慎重に考えてみる。
あの、アスランの発言内容を。
「…まったく、馬鹿か?あいつは。」
やっぱり、爆弾を落とされた気分は拭えない。
直情的かと思えば、いきなり変化球を投げてきて、当て逃げ状態とは、これいかに。
「大体、言うこともやることも廻りクドイんだよ!」
僅かに拗ねた表情を醸し出し、カガリはごちた。
「…するなら、さっさとしろ、つーの!プロポーズ!」
アスランの馬鹿ーーーッ!!と、夜中の執務室からカガリの雄叫びが聞こえたとか、
聞こえないとか…?
◆◆ 了 ◆◆
※ちょーお久しぶりの更新です!
裏タイトル「アスランプロポーズ大作戦」?(爆)
病み上がりなもんでリハビリかてらのショートですが
これを書くきっかけは、愛するパルビンコさんのサイト
に飾られていた一枚のイラストでした。人様への贈り物
でしたが、びびび!と毎度のこと、刺激受けまくりで、
衝動に駆られるまま書いてしまったのが今回のお話です。
パルさんに、さりげに送り付けたら、「挿絵いれてあげようか?」
と、神ヴォイスが降臨!「描いて、描いて!」といちもにもなく、
猫撫で声出しまくりの神原。;; とりあえずはリハビリも兼ねて
のものなので、楽しんでいただければ幸いです。
そしてなによりも、いつもお世話になりっぱなしでなにもお礼できず
すみませぬ!(謝)そんな、パルビンコさんの素敵サイトは
↓下記からどうぞ!
※挿絵担当、パルビンコ嬢より、ありがたくも今回のお話絵での
コメント↓をいただくことができました。なので、追記。(笑)
「A×C love nest」のパルビンコです。
今回、聖さんが我がサイトのキリリク絵からこの素敵なお話を
思いついたそうで、絵を描いた者としてはその絵からインスピレーションが
沸いたといわれたこと、すごく光栄でした。
そして今回も聖さんに、その挿し絵のお話しをいただき、一枚こちらも
ノリノリですぐ描く予定だったのですが、早くからSS原稿を頂いておきながら、
私的面で忙しかったことと、体調不良も重なりまして、挿し絵一枚にすごく時間が
かかってしまいました。
神原様のファンの方々には毎度申し訳ございません。(大汗)
今回のお話、ふっ、と思わず顔が緩んでしまうような心温まるSSですよね。
絵はアスランの顔が今回全く見えませんが、どんな表情をしているのか、
読んだ皆様ならすぐ思い浮かぶんじゃないでしょうか。
私も描いていて、とても楽しかったです。
聖さん、またコラボしましょうね。^^と、誘ってみる。(笑)
有難うございました。
2011.04.13
↑コメの神原からの返信。
いや、いや、毎回、ツボ心得たかのような挿絵に感謝の念が絶えません。
ありがたや、ありがたや。了└|力"├_〆(・ω・ )♪ 顔が緩むのは、私もですよ!
コラボ、もうホント癖になりそうです。ええ、ええ!そりゃも、またぜひにお手合わせ
いただければ、私も望外の喜びです。忙しいなか、我侭を聞き届けていただいて
本当にありがとうございました!(*- -)(*_ _)ペコリ
2011.04.14
神原 聖