『 IF。 4th season −KIZUNA− 』







「きゃああぁーーーッッ!!」
時ならぬ悲鳴。
アークエンジェルの艦内通路からあがった、女性のあげる地を揺るがすような
ハイトーンヴォイス。
通路に居合わせた通行人たちが揃って視線を向ける。
マリューは悲鳴をあげ、咄嗟に隣にいた、ネオことムウ・ラ・フラガの身体に飛びつく。
正確には、抱きつく・・・なのだが。
「・・・なに?・・・あれ。」
足元をすり抜けていった、小型の物体。
「・・・風呂敷包み背負ったハツカネズミに見えたな。」
マリューの身体を抱いたまま、ネオは眼を見開いた。
暫くして、やっと正気を取り戻したマリューは、慌ててネオの身体から飛び退く。
「あれ?なに遠慮してるの?もう、少し・・・」
そこまで言いかけ、マリューの鋭い視線を浴びる。
口篭り、彼は視線を逸らした。
事故とはいえ、美味しい役廻りだった。
心密かに思い、ネオはにんまりと顔をだらしなく歪ませる。
マリューたちが目撃した、ハツカネズミのマイクロユニットが駆け抜ける所何処で、
驚きの凄まじい悲鳴があがる。
ちょろちょろと足元をこんなモノが走り抜けていけば、誰でも驚くだろう。
各セクションであがる悲鳴に、キラは訝しげな瞳で誘われるように自室から
通路にでた。
キラと対峙し、通路を駆け抜けてきたハツカネズミは、『ストップ』とばかりに
急いていた足を止めた。
くりくりと愛らしい瞳。
その瞳の色は『緑』色。
まるで、その小さなマイクロユニットは、目の前に相対する人物の確認でもするかの
ような仕草で首を傾げた。
そこへ、悲鳴を聞きつけ、何事かと言わんばかりにアスランが駆け寄ってくる。
「なにか、あったのか?」
素直な疑問で、やはりあがる悲鳴に誘われたのか、部屋からでてきたアスランが
キラに問うた途端、ネズミは目的の人物を見つけた、とでも言うように、アスランの
足元に駆け寄った。
「・・・これ。」
アスランは驚き、瞳を開くと腰の位置を落として、右手を差し伸べる。
「・・・それ、アスランが作ったの?」
「ん。随分前、カガリに頼まれて作ってやったんだ。」
トントン・・・。
身軽に、ハツカネズミは差し伸べられた、アスランの手に飛び乗り、素早く彼の肩まで
よじ登ってくる。
アスランは、マイクロユニットを肩に乗せ、ハツカネズミが背負ったモノを凝視した。
赤いハンカチに包まれ、首に捲かれたもの。
中を確認するため、それを解き、覗き込めば・・・
一枚のメッセージカードがでてきた。
封筒には、『 To Athrun 』と書かれている。
彼は、封筒を開封し、中のメッセージカードの内容に眼を通した。
小さく苦笑を浮かべ、カードを封筒に戻す彼にキラが問う。
「私用だ。」
たった、一言のアスランの返事。
それだけで、キラにはアスランの言葉の意味が推測できた。
彼も緩い笑みで応える。
多分、あれは『親愛なる』自分の『姉』からの、恋人へのメッセージ。
その出来事は、オーブ本島を離れ、宇宙にあがる、との決定がなされた、
前日のことであった。





夜空に瞬く、数えきれない程の数多の星々。
この星空のもと、いくつもの涙が流れ、消えていった。
カガリは、二年前の大戦で命を散らし、国と一緒に運命を共にした、亡き父、
ウズミの慰霊碑の前に佇んでいた。
「・・・カガリ。」
背後から掛けられた、その声。
優しい甘い声が彼女を呼ぶ。
振り返り、カガリは優しい微笑を浮かべた。
「・・・ごめんな。出発前の忙しい時に呼び出したりして。」
「俺なんかより、カガリの方が忙しいだろ?」
苦笑し、アスランは愛しい少女を見つめた。
「昼間は、色々あったから・・・ゆっくり話せなかったからな。」
「君が寄越した、メッセンジャーで、艦内中凄い騒ぎだったぞ。」
僅かな皮肉と柔和な笑みを漏らし、アスランは言葉を紡いだ。
「ごめん!騒ぎを起こすつもりはなかったんだッ!」
「わかってる。」
彼が言った途端、アスランの肩に居たハツカネズミのマイクロユニットはカガリの肩に
飛び乗った。
「優秀だろ?俺の作ったマイクロユニットは。」
「ああ、ちゃんと『お使い』してくれた。」
彼女も攣られ、微笑んだ。
「・・・明日・・・だな。」
「ああ。」
ふたりの距離が縮まる。
差し伸べた、互いの手のひらが重なった。
ぎゅっ、と握り合い、カガリは凭れ掛かるようにアスランの胸に頭を落とした。
「・・・ごめんな。一緒に行けなくて。」
彼は緩く首を振った。
「カガリには、カガリにしか出来ない、今やるべきことをやるべきだ。 俺は俺の出来ることを。
・・・だから、宇宙にあがるんだ。」
「・・・指輪・・・」
「言わないで。」
「アスラン?」
「俺は、良い方に解釈してるからさ。 あの時、カガリの指に指輪がないのに気がついた時、
あれは君の決心と感じたんだ。」
小さな嗚咽が、彼の胸元から洩れ響き始める。
「・・・俺、焦らないから。・・・ちゃんとその時が来たら、時期が来たら・・・改めてカガリに
プロポーズする。・・・だから、・・・待っててくれないか?」
「アスラン?」
カガリは顔を起こし、涙で濡れた顔で彼の顔を見詰めた。
「カガリの今の立場。俺の今の立場。・・・どんなによく考えても、周りの反対を喰らうのは
眼に見えている。 ・・・俺は一度、プラントに戻る。 そして、カガリに相応しい立場になったら
改めて君を迎えにいくから。 それが何年かかるか・・・今は解らないけれど・・・きっと。」
零れ落ちる、銀の雫。
カガリの眼から溢れる涙の粒に、彼は優しく唇でその雫を拭ってやる。
「泣かないで。・・・カガリに泣かれるのは、俺は一番辛い。」
離れたくない。
本当はいつまでだってこうしていたい。
・・・なのに。
なぜ、許されない。
恋だけを追い求め、愛だけを追及できれば・・・こんなに苦しむことはないのだろうか。
アスランは優しく、カガリの身体を抱き締めた。
「・・・愛してる。カガリ。」
「アスランっ! アスランッ!!」
咽び泣き、カガリは彼の身体にしがみついていった。
彼は彼女の顎に指をかけ、カガリの顔を起こさせる。
重なるふたりの唇。
ついばみ重ね、深く激しくなっていく口付け。
緩く互いの唇が離れた時、彼は言葉を漏らした。
「これは別れ、なんかじゃない。 次に繋げるためのステップだ。 そうだろ?カガリ。」
こくこくと、彼女は激しく頷く。
その度に、溢れた彼女の涙が空に散った。
彼は、残された時間を惜しむが如く、彼女の唇に吸い付く。
・・・そう。
これは、別れなどではない。
次に進むための、・・・もの。
身体は離れても、心は繋がっている。
その想いだけが『糧』というなら、今は甘んじよう。
『夢』は同じだから。
いつかまた、同じ夢を共に見られるその日まで・・・。












※(あとがき)オフ終了につき、とりあえず悶々と
思っていた、内容を書いてみました。45話、
別離イベントなしの無言の別れに脳内補完な
気分です。(;>_<;) エーン こんなモンでも
書かなけりゃ、納得できんわ!○Oo (9 ̄^ ̄)9 メラメラ
一部、裏読み物(遠恋シリーズ)と内容がリンクしてる部分
がこざいます。まあ、細かいトコは目瞑ってやって
くださいませ。ぺこ <(_ _)>






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