ナチュラルとコーディネイター。
いつからなのだろう・・・
同じひとであるのに、種族を二分するようになったのは?
ひとがひとであるのなら、解り合えることも、愛し合えることも
出来るはず・・・なのに。
現実にあるのは、怨嗟に満ちた憎悪だけ。
互いに想いあう心を失った世界。
なぜ?
その問いだけが、延々と繰り返され・・・
解り合えることなど、本当に出来ないことなのだろうか?
我々人類は・・・
否。そんなことはないはずだ。
彼女は金の髪を振り、彼をみた。
美しい、迷いのない、翠の双眸が応える。
「きっと、交じり合える感情は理解できるはずだ。 だから、諦めない。
・・・なれるさ、いつかは俺たちのように。」
力強く、彼は彼女に言う。
・・・信じよう。
一度は刃を向け、銃を向け合った。
『敵』という認識で。
だが、ふたりはそんな関係を経て、理解することを学んだ。
その感情はいつしか『敵』から『友』に移り変わり、芽生える感情は『愛情』に
変っていった。 ・・・解り合える。
いつの日か必ず。









『 フューチャー 〜未来予想図〜 』








忌まわしい記憶。
C.E.70 『血のヴァレンタイン』 一発の核ミサイルが放たれた、ユニウスセブンの悲劇。
引き金になった、争いの時代。
血と怨嗟にまみれ、思いあう心も、愛し合う喜びも、失ってしまった、時。
始めて、互いに出会ったのは、名も知らぬ無人島。
『敵』として刃を、銃を向け合い、一時は交差した、感情。
《殺らなければ、殺られる》
戦場であるのならば、それは当たり前・・・だった。
なのに、振上げた刃は、止めを差す処か、躊躇いの色に染まった。
あがった悲鳴は、女の声。
奇妙な出会い、というのはこういうものを差すのだろうか。
一度は拘束をしたのに、若いザフトの兵士は、いつのまにか彼女を解き放ち、語られる
互いの思いをぶつけあった。
不思議な感覚がふたりの顔を彩る。
別れ際、なぜ名を名乗りあったのか。
二度と合うことはないだろう、という思いからでたことなのか?
・・・それはわからなかったが。
『運命』という言葉は陳腐にも感じる言葉だけど、それでもふたりは再び見えることになる。
出会いは重なり、その出会いは、『仲間』となり、そして、もっと深い関係へとなっていく。
ひとりの男として・・・ 女として。
種族の別け隔てる感情など、もはや関係なかった。
愛し合えれば、唯の男と女。
引かれあい、求め合い、そして互いがいつしか望むようになる想い。
一緒に居たい、という感情。
いつまでも、永久に・・・。


国を、国民を守ること。
首長となった彼女には、それは課せられた、当然の義務。
大儀として、それがとても重要な事柄だという自覚は当然ある。
しかし、それと同じくらいに等しく、女としての幸せを追い求めることは罪なのだろうか。
アスハ邸での、応接室で驚きに満ちた男の声があがった。
「結婚したいだと!?」
驚愕に瞳を開き、キサカは目の前に座したふたりを凝視した。
頷くカガリの顔は真剣な眼差し。
カガリの幼い頃から、見守り、影になりカガリを慈しんできた、男性。
逞しい体躯をオーブ軍の軍服に包み、両腕を組み、渋面を浮かべた表情で視線を向けていた。
カガリは躊躇いのない、真っ直ぐな瞳でキサカを見詰める。
C.E.70に起こった戦争。
翌年には、停戦、終戦を迎え、不安定な関係ではあったが、平和を望み、誓った約束。
プラント、地球間に於いて結ばれた条約。
後に、それは『ユニウス条約』と命名される。
アスランは、祖国であったプラントへ帰る道を閉ざされてしまう。
本来であるのならば、プラントを核の脅威から守った英雄として迎えられるはずだった。
だが、彼のとった行動、『脱走兵』としての行いは、是とはされず、一部の者のみしか知りえることが
なかった事柄として内密に処理されてしまったのだ。
彼に架せられた、罪状。
国の離反者としての烙印。
それを経、彼はオーブへと亡命を果たし、二年の歳月が流れた。
アスランとカガリは18歳という年齢に達していた。
そんな中で、育まれた想い。
立会いにと、その場に呼ばれたエリカ・シモンズも困惑の色を隠せない表情で立ち尽くしていた。
「・・・その結論は、あまりにも早計だとは考えないのか? カガリ。」
重い声音、硬い口調でキサカは言葉を発した。
「わかっている!でも、・・・でもッ!」
切ない想いだけが、溢れる、悲愴なカガリの声が響く。
言葉を続けることが出来ない。
彼女には、彼らを説得するだけの言葉を持ち得なかった。
訴えることは、自分の女としての感情のみ。
オーブ代表首長という立場になり、未熟なうえにまだ国土の基盤すら整ったばかりの
この時期になぜ?・・・と思われても致し方ない。
ちらっ、とキサカは、カガリの隣に座るアスランの顔を伺う。
言葉を持ち得ないのは、アスランもカガリと同じ様子のようだ。
「アスラン、・・・君もカガリと同じ、という解釈で良いのか?」
「はい。」
硬い声でアスランは実直に訴える。
「認められるわけがなかろう。そんなことを突然切り出されても。」
極、当たり前の答えだった。
簡単に認めてもらえるなど考えてはいなかったが、こうまで否定されるとも考えていなかった。
「君たち個人の感情は、今は抑えるべきではないか? 優先すべき事柄は、まだ山積している。
・・・現実を直視すべきだ。」
「個人の感情?」
カガリは眉根を寄せ、キツイ視線でキサカを見た。
「ふたりとも、まだ若すぎる。なにより、まず互いの立場をもっと考えるべきだろう?」
そのキサカの言葉は、確かに当然に聞こえる。
カガリは、オーブという一国を担うべき代表。
片や、アスランは亡命者という肩書きは、拭えない事実。
ふたりの関係は、公認の仲であることは、キサカもエリカも承知のうえ。
そのうえでの、相談ということでありながら、それでも『否』を唱えられれば、そこで手詰まりだった。
公表することが出来ない、今のふたりの関係。
先達としてのキサカの判断。
『もう少し、時期を考えて欲しい。』
色よい返事を期待していたわけではない。
それでも、真っ向から否定を受ければ気持ちは暗くなるものだ。
落ち着く時間を与える、との名目で、アスランは軍司令部の与えられた自分の部屋に帰ることを
キサカに指示された。
カガリは、頭を冷やせ、と言わんばかりに、自室での待機命令。
逆らうことも許されず、ふたりは離れ離れにされてしまう。
想いだけでは、叶うことはできないのだろうか。
若さ故に、溢れる想いは行き場を失う、喪失感の方が強い。
いつしか降りだした雨。
アスランは濡れそぼる自分の身体も厭わず、じっと外の道端からカガリの部屋があるアスハ邸を
見上げていた。
真っ直ぐに実直なまでの、美しい翠の双眸。
意を決し、彼は屋敷を取り捲く壁に飛び乗る。
身軽な動作で、壁を乗り越え、彼はカガリの部屋の真下まで足音を忍ばせ、進入を果たす。
片膝をつき、足元の小石をいくつか拾い上げると、それをテラスの窓に向って投げた。
その音に気付き、カガリはベッドに伏せていた顔を起こした。
等身大の窓を静かに開け放ち、下を覗けば・・・
「アスラン・・・」
嬉しさに込み上げる思いで、想い人の名を口端に乗せる。
両手を広げ、アスランは彼女を呼んだ。
『飛び降りろ。絶対に受け止めるから!』
二階に位置する、彼女の部屋。
カガリは躊躇わなかった。
恐れなどない。
待ち受ける彼の手、腕の中に飛び込むことに、なんの恐怖があるものか。
身を乗り出し、空を飛ぶ。
どさっ。
鈍い音と軽い衝撃。 彼女の身体はアスランの腕の中にすっぽりと収まる形で着地する。
彼の首筋に廻された、細い両の腕。
ほんの、数時間、離されただけなのに、その別れた時間が途轍もなく寂しい想いを
ふたりに齎していた。
落ち着いた頃を見計らうように交わされる、互いの唇。
離れたくない。
熱い想いだけが、ふたりの意識を支配していた。
「・・・アスラン、・・・アスランッ!」
重なる唇は熱を含み、彼だけを求める想いだけが濃く、カガリを絡めとった。
ついばみ、浅い口付けと深い口付けを重ね、アスランは強く彼女の身体を抱き締めた。
暫し、その時間を堪能してから、彼は彼女を導くように自分が侵入を果たした外壁に
彼女を誘った。
先に彼が壁に登り、そこから手を伸ばす。
カガリの身体を引き上げ、抱き上げると暗がりが支配する、外道に飛び降りた。
降りしきる雨は益々強さを増す。
小走りに駆けていた歩みは、いつしか徒歩に変り、行くあてもないまま、互いの手をとり、
道を歩んでいた。
一体、どこに行けばいいのか・・・
それすらもわからない。
ふと、カガリは歩んでいた歩を止めた。
「・・・カガリ?」
いつもの、強気な彼女の視線は、今はない。
あるのは、弱々しい、ひとりの女としての、彼女の視線。
振り返った、翠の瞳が彼女を見詰めた。
「・・・答えてくれ、アスラン。・・・私たちの恋は決して、『一本橋の恋』なんかじゃないよな?」
《一本橋の恋》
すれ違うことがやっとの細い橋の中央で、すれ違う男女の話。
肌や、手先が触れ合う感覚が、恋と錯覚してしまう、という逸話。
命の危険に常に晒されていた、戦争での日々。
終戦を迎え、事情は変ろうとも、共に過ごしてきた日の想い。
そんな時の流れが錯覚を生み出しているのではないのか、という感情の恐れがそんな言葉を
彼女の口から齎したのだ。
アスランは、カガリの漏らした言葉に苦笑を浮かべ、小さく首を振った。
「違うよ。」
はっきりとした否定の声。
「俺たちは、決していい加減な気持ちで付き合ってきたわけじゃない。 俺にはカガリが必要なんだ。
カガリだって俺を必要としてくれているだろう?」
彼女は強く頷く。
「瞬間的な恋、なんかじゃない。 俺たちの関係は。・・・いつも、いつでも・・・一緒に居たい。
・・・だから、・・・傍に居て欲しい。 カガリだけに・・・」
彼は思いのたけを示すかのように彼女の身体を抱き締める。
「今は無理でも、俺は諦めないから。」
カガリは、柔和な微笑を浮かべ、アスランの胸に縋った。
両手を彼の背に廻し、その体温を感じたい、とでもいうように顔を摺り寄せる。
こんなにひとりの異性を好きになれる感情があるなど、アスランに出会うまで思いもしなかった。
温かい想い。
包まれる優しさを知ってしまった、ひとりの女として、彼女は生きたいと願う。
冷たい雨が、ふたりの身体を濡らしていく中で、通り縋った一夜の宿になれば・・・
そう考え、ふたりは古びた教会の中に入っていった。
迎えられた、広々とした空間。
奥に佇む、神像の前に来ると、ふたりは祭られていたそれを見上げた。
握り締めた、彼女の手。
自然に力が篭り、アスランは彼女の手を握り直した。
「結婚式、しようか?」
「えっ!?」
突然零れた、アスランの言葉にカガリは瞳を瞬かせる。
「おままごと、みたいなものかもしれないけど・・・ 仮でも良いから、・・・したい。」
呆然とした彼女の視線に、彼は緩い笑みで応える。
彼は自分のズボンのポケットを弄り、一枚のハンカチを取り出した。
それをカガリの頭の乗せ、彼は彼女に向き直った。
「アスラン・ザラは、カガリ・ユラ・アスハを生涯の妻とし、愛し、敬うことをここに誓います。」 
高々とした宣言にも思える、彼の声が教会の中に響き渡る。
気を取り直し、カガリも小さく笑み、誓いの言葉を紡いだ。
「私、カガリ・ユラ・アスハは、アスラン・ザラを永久の夫とし、愛し、敬うことを・・・ 誓います。」
交わされる、ふたりの唇。
優しい口付けを互いの唇に施し、ふたりは額をくっつけ合う。
「・・・今は、こんなことしかできないけれど、・・・いつか、ちゃんと本当に結ばれる日まで、・・・
俺、頑張るから。」
「・・・私も、頑張る。」
再び重なる、ふたりの唇は、決心の口付けにも似ていた。
燃え上がる想いだけは、誰にも止めることなどできはしない。
いつか、きっと・・・
想いを成就するために・・・。









                                               ◆ End ◆













※ さて、今回はキリリク作品です。7万リクエスト、弥生 みっく様の
リクです。 『「運命」終了後のアスカガ結婚式』ということで。・・・
色々、試行錯誤したあげく、なんとか、書いてはみましたが・・・
あくまでも、これは予想、つーか、こうあって欲しい、みたいな
話になってしまいました。;; 両思いでも、「結婚」となると・・・
なかなか難しい気がするんですよね。なんつーか、身分違いの恋、
といいましょうか。とにかく、今の段階、周りの環境とか加味すると
そんなにあっさり結婚はできなそうな雰囲気なカンジがするので、
今回は仮想結婚式な形でしてみました。;; 乙女チックなザラ。;;
乙女なカガリ。でも、恋はやっぱり一途なふたり。・・・
結婚式はウチのふたりは既にやっているんで、今回は別な
パターンで楽しんでいただければ、と思います。(苦笑)
長い間お待たせして、こんなどうしようもない話ですんません。
みっく様。。・゜゜⌒(TOT)⌒゜゜・。 ( ^; 滝のようだ・・・





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