『 IF。 〜 third season 〜 』
「ああーーーッッ!!」
無事に、アークエンジェルと合流した、エターナルの格納庫で、カガリは
絶叫に近い大声をあげた。
カガリのその声に驚き、収容されているモビルスーツの整備をしていたクルーの
何人かが振り返る。
カガリは目尻に涙の粒を浮べ、じっと愛機であったストライクルージュを見詰める。
「・・・ご、ごめんね・・・。」
バツが悪そうな態度で、キラは頭を掻きながら、カガリに謝罪をする。
「・・・キラ。・・・確か、あの時、お前は『貸して』て、言ったよなッ!?」
密かな隠密行動。
宇宙にあがったラクスの危機に、キラは居てもたても堪らず、カガリにストライクルージュを
借受、ブースターを使って、空に飛び出した。
「・・・う、うん。」
キラの傍には、漸く身体の調子も整ってか、アスランがはらはらした表情で様子を
伺っている。
丁度、カガリとキラに挟まれる格好で、おろおろしていた。
どっちについても恨みを買いそうな予感。
なんだか、『嫁』と『小舅』に挟まれた『旦那』みたいな図だ。
「わ、わざと・・・じゃ・・・」
申し訳なさそうな言葉を匂わせ、キラは俯き加減で、アスラン越しのカガリにちらちら
視線を送った。
「わざとであって堪るかッ!!手も足もないじゃんかッ!!私のルージュは『ダルマさん』
じゃないんだぞッ!!」
「だ、だからッ! ご免、ってさっきからッ!」
「『借りたものは大事にしなさい』って、教わらなかったのかッ!?キラッ!!」
「そんなこと云ったって、あの時はッ!」
「馬鹿馬鹿、馬鹿ーーーッッ!!!!」
両拳を握り、カガリはキラを罵倒し、言い訳も聞かず、涙を浮かべたまま、キャットウォークを
艦内に向って逆走していく。
「カガリッ!!」
走り去るカガリを呼び止める、アスランの声が格納庫に響いた。
彼女を追って伸ばした手のひらが、虚しく空に取り残される。
はぁ〜
小さな溜息が零れた。
アスランは、キラの方に身体を向け直すと、困ったような苦笑を浮かべた。
「・・・ま、コレじゃ、カガリが怒るのも無理ないな。」
視線を破損したルージュに向け、彼はまた溜息を漏らした。
両腕、両足、大破のストライクルージュ。
だが、アスランには何故これほどのダメージを受けたのか、キラに問わなくてもわかっていた。
このことに関しては、ちゃんとカガリに説明しなくてはならないだろう。
でなければ、キラは当分・・・と、いっても期間的にはどのくらいになるかはわからないが、
八つ当たりに相当する嫌疑が掛かったままになってしまう。
「俺が説明して、宥めるから。」
「・・・尻拭いさせて、ごめんね。 アスラン。」
「お前の尻拭い、なんて今更始まったことじゃないだろ!?」
小さく笑い、彼はその場を後にした。
エターナルの通路を進み、アスランはカガリが行きそうな場所にポイントを定め、彼女の
あとを追った。
あの泣き腫らした目では、艦橋に行く事はまず考えられない。
となると・・・ 残るはラクスが使っている部屋・・・
考え、彼は慣れた足取りで通路を進んだ。
途中、ばったりとラクスに会い、彼は苦笑を浮かべた。
「そっちに、カガリ・・・行ってます・・・よね?」
半分核心、半分疑問のラクスへの問い。
彼女はにっこり微笑むと、頷く。
「随分、興奮しているみたいなので、お茶でもと思いまして・・・」
「あの・・・ ラクス。 もし、差支えなければ、俺と彼女をふたりきりにしてはもらえませんか?」
「ええ、それは。やはり、聞き手は貴方が一番適役だと、わたくしも思いますから。」
話のわかる、元婚約者。
アスランは、ほっと胸を撫で下ろした。
ぺこり、と一礼し、アスランはラクスの部屋に向った。
扉を潜れば、ベッドの隅で両膝を抱えたカガリが、顔を膝の間に埋め、肩を小刻みに
震えさせていた。
近づき、ベッドの縁に片膝をつき、アスランはカガリの頭を優しく撫でる。
「・・・カガリ。」
小さな声で彼女の名を呼び、彼は彼女の隣に腰を掛け直す。
そっと、小さな肩を抱き寄せ、彼は自分の身体に彼女の身体を凭れかけさせた。
「・・・わざとじゃない、っていうのはわかっているだろう?」
こくり。
カガリは伏せた顔で、小さく頷いた。
「パイロットとしての、キラの能力値と機体のスペックの差。それを考えれば、
反応速度がついていけなかった結果だよ、あんな風に機体がなってしまったのは。
さっき、キラからちょっと聞いたけど、対艦用のミサイル撃ち込まれたの盾になった、
ていってたから。」
「どうせ、私の機体は中古品だよ。」
不貞腐れた声音が、カガリの口から零れた。
苦笑し、アスランはわしゃわしゃとカガリの金髪を掻き回す。
「何度も云うけど、わざとじゃないんだから。 それに、直せば済むことじゃないか。」
「そんな、簡単に云うなッ!」
顔を起こし、カガリはきつい視線でアスランを睨む。
「あれは、・・・ルージュは特別だから・・・。壊れたのは仕方ないかもしれないけど、
でも、・・・もっと丁寧に扱ってもらいたかった、ていうか・・・」
相変わらずの苦笑で、アスランはカガリの顔を伺った。
言葉を続けるカガリの声に耳を傾け、時々頭を撫でる。
「・・・初めて、私が乗った機体なのは、お前だって知ってるだろう? 前大戦の時、
まだシュミレーションしかしたことがなかった時、宇宙空間に慣れていない私に、
訓練付き合ってくれたのは、お前だし。 ジェネシスにお前が飛び込んでいった時も
ルージュがなかったら、助けることも助かることもできなかった。」
アスランは、カガリの機体に対する愛着、執着心の根本の原因を聞き、小さく笑った。
彼女を抱き寄せ、アスランは腕に力を込めた。
「・・・直すのは、俺もシモンズ主任に頼んで、やらせてもらうよ。」
「・・・アスラン。」
顔をあげ、カガリはアスランの方に瞳を向ける。
「カガリの気持ちはしっかり聞かせてもらったから、今度は俺が愛情込めて、ルージュを
直してやる。 だから、キラのしたことは水に流してやれよ。」
暫し押し黙り、彼女は静かに頷いた。
「・・・お前がそこまで云うなら、今回は特別に許してやるさ。」
僅かに不貞腐れた声音を残し、カガリは頭をアスランの肩に凭れさせる。
ほんの少し、紅潮した彼女の頬が、彼の優しさを受け止め、受諾した証。
アスランは彼女を宥める止めに、柔らかいキスを彼女の額に落とす。
「あんまり泣いてると、皆が心配するから、程々にしろよ。」
返事は、小さな頷き。
その返事を確認して、彼は再び緩く笑んだのだった。
■ End ■
※ さて、今回も「IF。」シリーズ。短編ですが、ちょっとどうしても
書きたくなってむらむらときたもので。・・・(T_T) くすん。
毎度、予定は未定ですみませぬ。;; 続編希望、と言って
くださった、さくら様に捧げたいと思います。
受け取ってもらえます?ヽ (´ー`)┌ フフフ
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