何故、あの時、彼女が差し延べてくれた手を拒んだのか。
優しい瞳を困惑の色に染めてしまったのは、紛れもなく、自分自身が成さしめた事。
久し振りの再会。
地中海に面する、古神殿の前で、酷い言葉を投げ付けた。
傷つけ、彼女を罵倒し、 ・・・でも、本当はそんなことが言いたかったわけじゃない。
少しでも安全な場所に、彼女を戻してやりたかった。
考えていた想いとは裏腹の、口をついてでる言葉は全てが真反対だった。
愛機に戻り、その場を去る時も、モニターに映った、彼女の悲しげな瞳を忘れる
ことが出来ない。
どんなに後悔しても、後悔できない罪の重さを感じ、それでも後戻りできない
自分を再確認しただけ。
『・・・カガリ』
呟いた、その愛しい名を、幾度も繰り返し。
そして、今、彼は更に深い後悔の念に囚われ、押し潰されそうな痛みを感じた。
間違っていたのは自分。
友の言葉に耳を塞ぎ、真実に眼を閉じた自分の愚かさに歯噛みしても、遅いのだと・・・
胸の中で念じるように、願った想い。
帰りたい・・・
君のもとに。







『 IF。 〜 second season 〜 』








奪取した機体、グフはパワーを全開に引き上げても、あっという間に追尾をかけてきた
新鋭機に追いつかれてしまった。
デスティニーガンダム、レジェンドガンダム。
二機の機体が、この量産機である機体に追いつくのなど、造作もない。
容赦なく浴びせられる、ライフルの発砲の雨。
なんとかそれを海面すれすれの神業的な操舵技術で回避し、アスランは叫ぶ。
「躍らされている!」
真実の声を訊け!・・・と。
が、その声に耳を傾けることを阻む声が響く。
「裏切るなッ!!」
心のどこかで彼を信頼していた。
反発しながらも、気持ちの隅で、彼を評価していた。
憧れ、焦がれた先輩であった彼を。
だから、許せなかった。
全ての思いが、怒りに転換され、シンは振上げた雷の剣を振り下ろす。
デスティニーが打ち込んだ剣は、グフの胴部を深々と貫く。
暗い海面に落ちていく、青の機体。
その姿を視界の端で見送りながら、手をかけたことに、全身が震えた。
任務、の一言で済ませられた、その出来事。
あんなにも簡単に散らせてしまった命。
彼が・・・
先達者としての、彼が言った言葉が甦った。
『その力を得た時から、今度は自分が誰かを泣かせる者になる。』
葬ってしまった、ふたつの灯火。
なぜ、こんなことに・・・。
何故、・・・何故?
この問いは永遠に続く呪縛のようにシンには思えた。






「・・・っう・・・」
「気が付いたか?」
優しく降ってくる、懐かしい声。
緩々と開いた瞼。
焦点の定まらない、翠の双眸が見慣れぬ部屋の風景に瞬いた。
「・・・カ・・・ガリ?」
慌て、アスランは身を起こそうと身体に力を入れる。
それを制する、彼女の手。
「まだ寝てろ。」
「・・・ここは?」
「アークエンジェルの中の私の部屋だ。ここに運んでくれるように私が頼んだ。
まあ、今はちょっと訳ありで、医務室が塞がっているし・・・」
状況が混乱していた。
奪取した機体が撃墜され、海に落とされてからの記憶がない。
なんで、自分がここに居るのかも。
「身体の調子が戻ったら、キサカに礼言えよ。」
「え?・・・キサカさん?」
「助けて、お前をここに連れてきたのは、キサカだからな。」
「・・・そう・・・だったのか。・・・済まない、記憶が曖昧で。」
「時間が経てば、思い出すかもしれないから。それからでも遅くはないさ。」
はっ、と彼は思いつくような仕草で、ベッドの傍らのカガリに問うた。
「メイリンは!?」
「メイリン? ああ、キサカが連れてきた、あのもうひとりの女の子のことか?」
彼女は別室に寝かされている、とカガリは彼に教え伝える。
ほっと、安堵の息を零し、アスランは捲き込んでしまった、少女のことを語った。
「助けてくれたんだ。・・・俺と一緒に殺されそうになった。・・・口封じに。」
「口封じ?」
アスランの話に耳を傾けていたカガリは緩く眉根を寄せる。
「キラは間違ってなどいなかった。 ・・・俺は・・・謝らないといけない。キラにも、そして君にも。」
カガリは、アスランの口にした言葉に緩く笑んだ。
「もう、良い。 お前は帰ってきてくれた。それだけで充分だ。」
穏やかな、柔らかい微笑。
彼の右頬に触れてくる、柔らかい手のひらの感触に、彼は瞼を閉じる。
・・・温かい。
この感触をどんなに求めたか、わからない程、自分たちは長く離れていたのだ。
アスランは、カガリの触れた手に自分の手を重ねた。
瞼を持ち上げ、彼は彼女を見詰めた。
「・・・ごめん、・・・本当に済まなかった。」
「本当だ。 ・・・でも、あの時はきっと仕方なかったんだ。 お前はお前の信じた正義を
貫こうと思っただけなんだろ?」
「そう、解釈してくれるなら、・・・嬉しいな。」
少し戸惑った苦笑いを浮べ、アスランは添えられたカガリの手を握った。
「でも、心配していたんだから、一発くらい殴らないと気が済まない。」
カガリは悪戯っ子のような笑みを浮べ、口端を緩く持ち上げる。
「覚悟はしています。」
「よし、眼を瞑れ。」
手を離し、カガリの言った言葉に従うように彼は瞼を落とした。
ぱちん。
拍子抜けするくらい、間抜けな音がアスランの右頬から響く。
激しいショックもない。
当たったのは、カガリの軽く頬を叩く音だけ。
驚き、彼は瞳を開いた。
「・・・これ、・・・だけ?」
「ん。それで勘弁してやる。」
はにかんだ笑みがカガリの顔を彩った。
「ホントに?」
「私はそれだけでイイ。 でも、キラは凄く怒っていたから、あとは責任持てないぞ。」
彼女は可愛らしく微笑んだ。
彼女のその微笑は、今だけは忘れようと勤めていた、日々の重さを吹き飛ばす程の威力がある。
緩やかな動きで伸びてくる、アスランの片腕。
捕らえた先は、彼女の頬。
彼の手は、そのまま滑り、彼女のうなじに廻された。
引き寄せられるカガリの顔。
だが、彼女の表情に抵抗の欠片は微塵もない。
合わさる互いの唇の感触にうっとりしながら、離れ離れの日々を埋めるかの如く
口付けを交わした。
彼女を抑え込んでいた右手に力が入り、もうひとつの腕が彼女の腰を捕らえた。
ベッドにカガリの身体を引き入れ、身体の重心が反転する。
「・・・んっ・・・ちょっ、・・・お前ッ!怪我ッ!!」
僅かに離れた唇の隙間で、ようやっと抵抗の声があがった。
真っ赤に染まった頬で、カガリは自分の身体のうえの彼を睨んだ。
アスランは小さく笑い、彼女の軍服に手をかけ、静かに削いでいく。
「前に約束したろ? 今度逢えたら、俺が満足するまで付き合ってくれる、って。」
彼女の顎に彼が唇を滑らせ、首筋を撫で降ろしていくと・・・
カガリの唇から、艶かしい声音が漏れた。
久し振りの感触。
何ヶ月ぶりだろうか。
彼の愛撫を身に感じるのは。
胸に這わされた、彼の手の感触が堪らない疼きを呼び込む。
「・・・ふっぁ・・・ んっ、・・・アスランっ!・・・」
彼女の軍服の中に這い、忍び込んでくる男の無骨な手のひら。
「・・・ッツ ・・・はぁ・・・ ぁっ・・・」
漏れる、喘ぎ。
抑えることができない、快楽の呼び声。
刹那、その行為に歯止めを掛けるように扉の呼び出し音が鳴った。
「カガリ? 居る?」
ぎょっとして、ふたりは身を離した。
インターフォンを押したのは、キラ。
カガリは慌てて身を起こし、乱れた軍服を整え、アスランはあたふたしながらベッドに潜り込む。
深呼吸をしてから、カガリは扉を開けた。
「アスランの様子、どう?」
「え!? あ〜・・・ん、さっき気がついて・・・えぇ〜・・・とだな、・・・そのまだ朦朧としてるみたいで・・・
また、寝ちゃった! あはははッ!」
「?」
カガリの言動のおかしさに、キラは首を傾げた。
なぜ、そこで笑う。
その様子をシーツの影から見ていたアスランは頭痛を覚えたようにひっそり息を零した。
演技するなら、もう少し自然にやらないとバレるだろうが。
しかし、原因を作ったのは、元々はベッドの患者なのだ。
カガリにそんなものを求める方が検討外れなのだと、気がつかないアスランが悪い。
疑問符を頭のうえに山ほど並べながら、キラは気遣ってカガリに尋ねる。
欲しいものはなにかあるかと。
思いっきり首を振ってから、カガリは苦肉の策でキラを追い返した。
「ちゃんと眼が覚めたら、知らせるからッ!」
不信気な表情を匂わせたキラの背を押し、カガリは強引に扉を閉めた。
ほっ、と息をつき、カガリは怒った表情でベッドに近寄った。
ぱしんッ!
問答無用で、アスランの頭に平手が飛ぶ。
「痛ッ!」
怪我してる頭、叩くなッ!と反論しそうになるアスラン。
が、彼女の赤面した憤怒の顔に、彼は身をちじこませた。
とりあえず、もう少し現状が落ち着くまでは・・・ これはお預けだな。
彼は、困ったように小さく笑う。
「へらへらするなッ!」
当り散らし、彼女は彼を詰る。
「してないよ!」
「したッ!」
「してないッ!」
繰り返される問答に、先に根をあげたのは、彼。
「わかった。俺が悪かった。」
両手を胸の前であげ、アスランは降参ポーズをした。
「もっと、時と場合を考えろ。」
「はい、はい。」
「『はい』は、一度で充分だッ!」
無言で彼は、カガリを上目使いで見た。
それから、僅かな時をおき、彼はにっこり笑った。
力が抜けたように彼女は床にへたり込む。
よっぽど焦ったのか。
気が抜けてしまった、彼女の姿に彼は苦笑を漏らす。
金色の、きつい視線が彼を射る。
が、それに堪えた様子も見せず、彼は優しく笑んだまま、彼女の頭を撫でる。
素直にでた、謝罪の声に彼女も攣られて微笑み返した。
くすくす。
互いの唇から漏れる、可笑しそうな笑い声。
やっと取り戻した、日常の風景。
今は、なによりもそれが愛おしかった。





                                         ■ End ■









※ さて、今回のお話は、以前書いた、大嘘っぱち、
『 IF 』の続き、的なお話になります。 もう、内容
捏造もいいところ。(*°ρ°) ボー でも、早く
再会して欲しいな、がこのお話の根本かも・・・です。;;
最後は、ギャグ逃げ。;; 本当ならキラのもっと
激しい突っ込みがあったのだけど・・・。
省いてしまいました。;; ははは。(^。^;)










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