AM5:40
セットしておいたアラームが時を告げる前に目覚める。
元軍人のため、朝は起きようと思った時間には、しっかりと覚醒していた。
ベッドを整え、部屋に備え付けられたシャワーで、軽く汗を流した。
身なりを整え、着替えを済ませる。
この間約15分。
ちょうど時間の5分前だ。
主の目覚めるのはAM6:00
部屋を出て、主の部屋へと向かう。
「おはようございます。」
反対側からやってきた、主の乳母に礼儀正しく挨拶をした。
「おはようございます、アスラン様。相変わらず時間ぴったりですわね。」
「遅れるわけには行きませんので。」
「起こしてまいりますので、少々お待ちくださいませ。」
と、主の乳母『マーナ』は主『カガリ』の部屋へと入って行った。
「姫様!いい加減起きてくださいまし!」
中からマーナの怒声が聞こえる。
毎日こうだ。
どうせなら、彼女は自分が起こしたい。
カーテンの隙間から朝陽が差し込む部屋で。
腕の中で眠る彼女を見おろして、
「おはよう、カガリ。朝だよ。そろそろ起きないと。」
と、優しくキスして起こしてやりたい。
妄想、いやいや、想像して緩みそうになる頬を、慌てて引き締める。
部屋の中ではどたばたと騒々しい音が聞え始めた。
どうやら目覚めたらしい。
なにやら彼女が怒鳴っているのは、着て行く服の相違からだろう。
マーナが選ぶものは、一国の代表としてふさわしい物。
だが、カガリはそういった堅苦しい服装を好まず、むしろ動きやすい服を好むのだ。
(いってもムダなのに…)
心の中でそう呟く。
結局はマーナの
「オーブの代表として恥かしくないよう…」
という言葉で折れるのだ。
そうやって、暫く待っていると、扉が中から開く。
「おはようございます。」
と、一礼すれば、彼女はほんの少し、眉を顰める。
「…おはよう。」
小さな声でそう言うと、すたすたと歩き始めてしまった。
(怒ってるな…)
彼女の表情からそうだと分かる。
彼女とは恋人同士。
だが、表立って、そのような態度を取らぬよう、周囲からきつく言われていた。
(まあ、無理もないか…)
と、昨夜の事を思い出す。
そのまま、自分の世界に浸ってしまいそうになる意識を引きとめながら、彼女の後を追った。
そして、彼女のスケジュールを確認する。
午前中は会議。
午後は書類に目を通した後、取材。
そして、どこだかの企業の会長と食事。
今日は比較的楽なスケジュールだ。
食事をとって、アスハ邸を出発する。
オーブ政府の会議室には、もうすでに、議員達が集合していた。
カガリが会議室に入ると、議員達は軽く頭を下げ、すぐに会議が始まった。
会議はこれからのオーブの財政についてだった
意見が飛び交う中、カガリもいくつか意見を述べる。
だが、カガリの意見は聞き入れられることはなかった。
次第に彼女の機嫌が悪くなっていくのが分かった。
おそらく、それに気づいているのは自分だけだろう。
休憩にしましょうと、進行係が告げる。
議員達は、ばらばらと会議室を出て行った。
カガリも部屋を出て行く。
そして、一言も発しないまま、早足で歩いていく。
軽く溜息をつくと、使用されていない部屋へと彼女を引っ張り込んだ。
「何するんだよ!」
「少し頭を冷やしたらどうだ?」
そういえば、カガリは押し黙る。
自分でも頭に血が上っているのはわかっているようだ。
「あいつら…私のことバカにして…」
「そうじゃないだろ?みんなオーブを復興したいとそう思っている。お前と同じようにな。」
「それは…分かってる。」
願いは同じなのに、意見が食い違ってしまうのは、早急に復興したいというカガリと、慎重に、
それでも確実に復興したいと思う議員の両極に位置する考えのためだろう。
「焦ることはないじゃないか。時間なら充分あるんだから。」
「そうだな…すまない…」
彼女があせる気持ちもわからないではない。
だが、国の復興はゲームとは違う。
リセットして、最初からやり直すことなどできはしないのだ。
「そろそろ時間だ。戻るぞ。」
彼女を促して、会議室へと戻った。
その後、会議は滞りなく終わり、昼食後、山のように詰まれた書類に目を通す彼女の側に控える。
ボディーガードといっても、執務室のようにセキュリティーの行き届いている部屋では、あまり神経を
尖らせる必要はない。
そのため、思考はどうしても、邪な方向へと傾いていった。
邪魔にならないよう、一つにまとめた髪をアップにしているため、白いうなじが目に飛び込んでくる。
広い執務室には二人だけ。
抱き寄せたくなる衝動を、必死で堪えた。
(頑張れ…俺の理性…)
自分を励ましつつ、彼女を見守った。
書類に目を通し終わると、今度は取材だ。
新生オーブの代表には国民ばかりでなく、マスコミも注目している。
連日のように、取材の申し込みが殺到していた。
こういった、外部の人間との接触が一番危険だった。
取材陣に成りすまし、カガリの命を狙うものもいる。
そういった者達には背後から視線を光らせる。
レポーターはカガリに、今後の抱負や政策などを質問していく。
残り時間が少なくなった頃、レポーターから投げられた質問に、一瞬カガリの顔が強張る。
「このところ随分、お美しくなられて、恋人でも出来たのではないかというお噂ですが、真実なのでしょうか?」
いかにも興味津々といった感じで、聞いてくる。
カガリは笑顔を崩さなかった。
以前ならば、カッとして、反論していた所だろうが、随分と耐久性がついたものである。
「そのような相手も時間もありませんから…」
と、笑顔のまま答えを返すカガリに、なおも食い下がろうとしたレポーターを、
「そろそろ時間ですから」
と押し止め、退室を促した。
「…助かった。」
と、カガリは安堵の息を漏らした。
最後の質問の答えは、自分としては少し寂しい。
あんな場で、恋人宣言をするわけにはいかないことは分かっているが、なんだか自分だけが
彼女を好きなのではないかという錯覚に陥っていくのだ。
「どうかしたか?」
気づくとカガリが心配げに見上げている。
「いや、何でもない。」
「そうか、ならいい。」
と、笑顔を向ける。
はっきりいって、この笑顔は犯罪だ。
再びぶちきれそうになる理性を、どうにか繋ぎとめる。
取材を終え、会食の場となるレストランへと向かった。
レストランでは、すでに相手が到着しているようで、ボーイに個室へと案内された。
会食の相手は、いかにも企業のトップといった感じのでっぷりと太り、禿げかけ、脂ぎった男だった。
「これはアスハ代表。このたびは招待を受けていただき、光栄です。」
「いえ、こちらこそお招きいただき、ありがとうございます。」
優雅な物腰に、それが演技だと分かっていても、思わず見とれてしまった。
それは相手も同じなようだった。
ぼーっとカガリを見つめている。
こんな男の視線で、カガリを穢したくはない。
剣呑とした視線を向けると、相手の男はあたふたとする。
本当に大企業の会長なのだろうかと思うほど、器の小さな男だ。
会食は酷く疲れるものだった。
相手の男は一方的に喋り、自分の企業がいかにオーブのためになるかをアピールしている。
だが、今は時代の波にのって景気がよくても、経営者がこれでは、将来は目に見えている。
適当に聞き流すのが、得策だろう。
ようするに、この男は首長がバックについている。
それで企業の名を広めたいだけなのだ。
オーブにとっては何の得にもならない。
当たり障りのない話をして、予定通り会食を終えた。
もう二度と、彼と会うことはないだろう。
「疲れた…」
車に乗り込むと、そう呟いて、カガリがもたれかかってくる。
一分もしないうちに、規則正しい寝息が聞え始めてきた。
「すみません。少しスピードを落としてください。」
出来ることなら、屋敷につくまでの間ゆっくり眠らせてやりたいと思う。
肩にかかる彼女の重みが心地よい。
夜の道路を走り抜け、車は屋敷へとたどり着いた。
彼女を起こして、部屋まで送る。
これで今日の仕事は終わりだ。
「じゃあ、また明日。」
「おやすみ。」
彼女が部屋に入り、鍵をかけたのを見届けて、自分も部屋へと戻った。
明日も同じような一日だ。
ベッドに横たわると、どっと疲れが押し寄せてくる。
そして、いつしかそのまま、深い眠りへと落ちていった。
終
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コメント
ボディーガード、アスラン・ザラの一日でした。
日々悶々としてそうですね〜、彼は。
好き好きビーム出してても、気づいてくれないカガリちゃんに、ますます悶々としたり。
続編での二人の進展が気になるところです。
★『蒼月宮』 YU−MA様より、期間限定で
ステキないただき小説を拝借して参りました。
(^-^ ) ニコッ ボディガード・・・この言葉・・・
ある意味、非常に萌えツボだと思っております。
表舞台はそれなりにスマートでカッコイイけど、
やっぱり色々な意味、気苦労の多い仕事も
彼の本音ではないかと思いつつ・・・
やっぱり苦労性の兄気質はどこまでも
苦労を呼び込むのでしょうかね。 ま、本人は
それなりに喜んで(?)仕事励んでる(?← かなり疑問発言)
ので良し・・・の方向性なんでしょうか?
まずはステキなSS頂け、感謝の極み。
YU−MA様、本当にありがとうございました!!
そして、これとペアで裏仕様もございますので、
よろしければ「〜寝室」の方も覗いてみてください。
裏部屋お初の頂き裏モノです。(o^<^)o クスッ
■YU−MAさまのサイトへはこちらからどうぞ。