「そのシャトルッ!待ったッ!!私も乗るッ!!」
エターナルの格納庫、今、正に発進準備・・・と、整備員たちが数人囲んでる
艦と艦を結ぶ連絡艇のシャトルに向かってカガリは叫んだ。
トンッ!と、身軽に上部デッキの柵を乗り越え、彼女は無重力の空間を
シャトルに向かって身を泳がす。
「間に合って良かった。」
ホッとした息を漏らし、乗り込めば、シートについて待機していたのは
アスランだった事に彼女は瞳を開いた。
「アスラン?」
「クサナギに帰るのか? だったら送る。」
地球軍とプラントでの戦況を観察する、という目的で、暫しの休息。
合流を果たした、アークエンジェル、クサナギ、エターナルは束の間の平安を
過ごしていた。
苦笑を浮べ、彼は乗り込んできたカガリに視線を向けた。
「いや、アークエンジェルに行きたいんだ。」
「珍しい。なにか用でも?」
「用、って言うか・・・ まぁ、・・・ 本当はお前探して見つからないな〜て、思ってたら
ここに居たから・・・」
妙な節のカガリの言葉に彼は首を傾げた。
発進準備が整い、ふたりの乗ったシャトルが離艦していく中で会話は途切れる
事無く続いていた。
「アスランは?」
「俺はラクスに頼まれモンさ。アークエンジェルの艦長に持っていって欲しい、ていう
書類預かったんだ。」
「宅急便屋か? お前?」
あははは、と一笑しながら、アスランは可笑しそうに声をあげて笑った。
「まぁイイ。行き先が同じなら問題ないし、都合が良いな。」
「うん。」
軽い相槌を打つ返事を返し、カガリは彼を見ながら微笑んだ。
アークエンジェルの格納庫にシャトルを乗り付け、艦長に用がある、と告げた
アスランに付き合う形でカガリは彼の後をついていく。
目的の品を艦長室に届け、アスランが部屋を出てくるのを彼女は通路で待つ事に
なったが、別段苦痛ではない。
幾らも待たずに、彼が艦長室を後にすると、ムービングベルトに掴まりながら、
ふたりは食堂に立ち寄る事を決める。
時間は取りあえずゆとり的なものもあるせいか、他愛無い会話が心地良い。
食堂に入ると、ばったりと鉢合わせするようにキラと顔を合わせ、場はより
和やかな雰囲気になっていった。
「このところ、休める時間が随分あったから、少し身体動かしたくて。
ほら、随分前使わせてもらったトレーニング施設、ちょっと使いたくてさ。
丁度良い、キラはおっさんに使えるよう、口利きして欲しいんだ。」
わくわく顔でテーブル向かいのキラに話掛けるカガリに彼は首を傾げる。
「おっさん、って誰のこと?カガリ・・・」
「あ〜〜っと・・・なんだったっけ? え〜っと・・・そうだ!今、ストライクの
パイロットしてる、フラガってひと!」
「なんだ、少佐の事?・・・でも、おっさん、なんて言ったら怒られるよ。」
「名前解らないヤツは全部おっさんだ!」
その会話をカガリの横で聞いていたアスランは堪らず噴出した。
「おっ!見つけたぞ、キラ!」
噂をすればなんとやら・・・
食堂に姿を現したのはフラガだ。
「このところ、休息が長くて身体、鈍っているだろ?久し振りにトレーニング
しないか!?」
にやっ、と笑うフラガにキラは奇妙な声をあげた。
以心伝心、という言葉はある時は呼び込むのだろうか・・・
「うえッッ!??・・・トレーニング・・・って・・・またやるんですか?」
「当たり前だッ!持続しなくて成果があるかッ!」
怒鳴られ、キラが項垂れるのに、カガリは興味津々な顔つきで尋ねる。
「なんか面白そうだな。」
「君たちも付き合う?俺の特別メニューのトレーニング」
「なんだか解らないけど、私、参加ッ!!」
元気な声をあげ、カガリは思いっきり挙手する。
何を思ったのか、彼女は自分の隣に座っていたアスランの左手をむんず、と
掴むと、その彼の腕も思いっきりあげた。
「コイツも参加だ!」
「えっ!??えぇッ!?」
驚き、アスランは声をあげる。
「良かったな、キラ。ふたりも付き合ってくれる、てさ。 道連れが居ればやる気も
倍になるだろう?」
意地悪気な瞳でフラガはキラを見た。
諦めたようにキラはため息を漏らした。
ひたすら喜び笑顔のカガリ。
困惑気味で現状が掴めていないアスラン。
諦め、どんよりとした黒雲を背負ったキラ。
妙な取り合わせの三人組はフラガに連れられるまま、居住区施設に連れて
来られた。
宇宙空間では重力制御が成されている場所は居住区しかないからなのだが・・・
「そんじゃ、取りあえず軽くランニングからいってみようか。」
指示され、フラガの言葉を素直に実行する三人。
居住区の区間を往復5周。
走っていく内に段々とキラとの距離が離れていくのに、アスランとカガリは心配気に
後ろを振り返る。
マラソンコース折り返し地点で後続者とすれ違う様で、カガリとアスランのペアは
キラとすれ違った。
「大丈夫か?キラ?」
すれ違う時にアスランは心配気にキラに声を掛けた。
「ちっとも大丈夫なんかじゃないよッ!!」
息遣いも荒く、キラの歩調は既にかなりスローダウンしてるのにアスランは溜息を漏らした。
「相変わらず体力ないよな〜 キラのヤツ。」
ぼやくカガリにアスランは走りながら顔を彼女に向けた。
「なんか、よく知ってる口ぶりだな、カガリ。」
「知ってるもなにも、地球に居た頃、こんな感じでトレーニングと称して、やった事、
あったんだけど、キラ、私と腕相撲でも負けるくらい弱っちいんだから。 まぁ、今回は
アスランにも付き合ってもらいたくて・・・。 さっき、探していたのはそういう事だ。
アークエンジェルのトレーニングジムは施設が充実しているから時間潰しには
最高の場所だし、私にとっては趣味と実益、叶ってるしな。」
ふ〜〜ん、と鼻を鳴らし、アスランは彼女を見ながら相槌を打った。
そうこうする内、アスランとカガリは与えられたメニューをこなし、帰ってくるキラを
待つ事になった。
通路の奥から息も荒くキラが戻ってくると、途端フラガの雷が落ちた。
「遅いッ!!」
「・・・そ、そんな事言ったって・・・」
ぜいぜいと、息をつき、座り込んでしまうキラにアスランとカガリは呆れた視線を向ける。
幾らなんでも、たったこれだけの事で息があがってしまうとは考えなかったからだ。
体力面の強化はパイロットをするうえでは極、当たり前として捉えてきたアスランに
とって、今のキラの姿はかなり情けなく見える。
もっとも、ヘリオポリスでは唯の理工学の学生のキラ、片や、軍人として育まれた
経歴があるアスランとは基本的な体力差があるのは当然なのだが・・・
それでも、余りの体力の無さは、アスランにも溜息しか齎さない現状。
「おらッ!休んでる時間なんかないぞ!次はトレーニングルームで腕立てッ!!」
容赦なくフラガの怒声が飛ぶのにキラは悲鳴を挙げた。
「ま、まだやるんですか!?ムウさん・・・」
「こんなのはウォーミングアップだ、って言っただろッ!?」
座り込んだキラのインナーの首根っこをむんず、と掴むと、ずるずると引っ張っていく
フラガの後をアスランとカガリは追った。
キラの視線はアスランとカガリに向かって、思いっきり助けてモードになっている。
ふたりは苦笑を浮かべる以外、術を見出せない。
連れられ、ついて行った先は艦のトレーニングジム。
カガリは中に入るなり、備品として備え置かれているダンベルに頬擦りする勢いで
歓喜の声を挙げる。
流石に、その彼女の姿にはアスランは呆れた。
ダンベル見て喜ぶ女の子、なんて今だ嘗てお目に掛かった事などないからなのだが。
「よし!君、・・・え〜っとアスランくん、だっけ? 君もキラに付き合ってやってくれ。」
敷かれたマットに来てムウは新しい指示を出す。
「それじゃ、ふたりとも軽〜〜るく、腕立て伏せ、100回いってみようか?」
にやっ、と笑うムウ。
素直なまでに、アスランとキラは腕立てを開始した。
「キラ、このメニューこなせなかったら、罰でランニング追加だぞ。」
「ムウさんの鬼ッ!!」
半泣き顔で抗議の声を挙げるキラにムウは言葉する。
「口答えの罰!追加で腕立て50回追加!」
ひいぃぃ〜〜と情けない悲鳴が再び漏れる。
そんな中でも、アスランは黙々とキラの隣で腕立てをこなしている。
アカデミーに居た頃は、こんな事は日常茶飯事なことだったので、100回程度は
苦痛でもなんでもないのだ。
突然、予告も無しに、アスランの背にカガリは勢いよく腰を降ろした。
「カガリッ!!なんで乗るんだッ!!重いぞッッ!!どけッ!!」
アスランは突如、自分の背に掛かった重圧に危うく潰されそうになったのを懸命に
耐える。自分の身体を支える両腕が僅かに震えているのにカガリは唇の端を
緩く挙げる。
「お前は軍属の人間だろ?このくらいはハンデつけても問題ないだろ?」
「だからって、男の背中に乗る女が居るかッ!!」
「ここに居る。四の五の言わず、続けろ。」
通常の状態なら、問題なくこなせるはずのモノが、思わぬ展開にアスランは
カガリを背に乗せたまま、腕立てを続けるハメになってしまった。
突然、その背の重量が更に増加した。
にやにや顔でフラガがカガリに10kgのダンベルを持たせたからだ。
「ぐえっ!」
奇怪な声をあげ、アスランは顔を真っ赤に染める。
「ハンデ、イイねぇ〜その言葉。」
楽しんでる・・・完全に。
カガリの体重54kg、プラス、ダンベル10kg・・・総重量、64kgがずっしりと
アスランの背に掛かった。
流石にこれはきつい。
アスランの顔から脂汗が滲み始め、ぽたぽたと汗の雫がマットに滴り始めた。
が、ここで根をあげたら、軍人として恥かしすぎる。
妙なプライドに駆り立てられ、アスランは必死の形相で腕立て伏せを続けた。
「まだ余裕ありそうだな。」
にやっ、とフラガが笑った事にアスランは嫌な予感を覚えた。
「彼女乗っけたまま、あと100回追加ね、君。」
勘弁してくれぇ〜〜〜!!
アスランは心の中で悲鳴を漏らす。
彼の隣では50回もこなさない内に潰れたキラがマットに沈んでいる。
「こらッ!!誰が休め、て言ったッ!!」
「・・・もう僕、限界です・・・」
伏せたキラの顔から小さく言葉が漏れた。
「罰追加ッ!!ランニングやってこいッ!!サボったらメニューが増えるだけ
だからなッ!!」
叩き起こされ、キラは泣きながらトレーニングルームを後にしていった。
キラがでて行ってしまうと、ジムの中にはアスランとカガリ、フラガが残る
形になる。
室内にはアスランの荒い呼吸のみが響く。
流石にキツイ、このメニューは。
だが、彼に諦める、という言葉は浮ばない。
半分、ヤケになってる様に黙々と彼は腕立て伏せを続けた。
漸く、言われた数を終わった途端、アスランはマットに沈んだ。
「・・・カガリ・・・いい加減退いてくれ。重いぞ、お前。」
「重い、重い、五月蝿いぞ!私の重いは筋肉だッ!間違っても脂肪じゃないからな!」
「・・・解ったから早くどいて・・・内臓飛び出そうだ・・・」
渋々、彼の背から腰をあげるカガリに、アスランは心の中でごちた。
どうせ乗っかってくれるなら、自分が仰向けで楽しいことでもしてる時にして欲しい、
などと彼はいらぬ妄想を抱いていた。
そんなことなど露知らず、カガリはアスランに水の差し入れをしてやる。
それを受け取り、彼は身を起こした。
「まだ、当分、キラは帰ってきそうにないな・・・。そんじゃ、今度はお嬢ちゃんの番だ」
ムウの言葉に、カガリは瞳を輝かす。
「なんだ?なにすれば良いんだ!?」
「護身術、教えてやるよ。」
「護身術?」
「そう。 例えば、暴漢に襲われた時の対処法、なんてどうだ?」
にっこりと、微笑むムウにカガリは喜んで教えを請うことになった。
「じゃあ、暴漢役は君ね。」
あっさりと、その役に指名されたアスランは眉根を寄せる。
なんで俺が暴漢なんだよッ!と、彼は心の中で叫んだ。
まぁ、痴漢役、とか言われないだけマシか、と直ぐに諦めると、彼はフラガの指示に
従い始めた。
立ち上がり、カガリの背後に立つ。
フラガに左腕を取られ、その腕がカガリの首元に廻された。
「例えば、こんな風に後ろから襲われたと想定する。」
フラガの言葉にカガリは素直なまでにうん、うん、と頷く。
「そういう時はまず、足を思いっきり踏んずける。」
素直に実行するカガリ。
途端、アスランの口から叫びがあがった。
「油断した処を後ろに頭突き!」
ガツンッ!と派手な衝撃音がアスランの額からあがる。
「透かさず、空いてる腕をとって、腰と肩に相手の体重を乗せ、投げる!」
ふわり、とアスランの身体が持ち上がった。
「ちょっ、 待てッッ!!カガリッッ!!」
アスランの雄叫びがあがったが、それも束の間、彼の身体は破壊的なまでの
音を響かせマットに投げ付けられる。
「・・・痛っ・・・」
「あっ、悪い悪い。」
彼を投げ飛ばしてから、カガリは大の字で仰向けに倒れたアスランの頭の
上でしゃがみ込み、罪の無い笑顔を零す。
「なにが悪い、だ? その顔からは悪気なんか全然感じないぞ。」
ぶすっ、とした顔でアスランはカガリを睨みあげる。
くすっ、とカガリは笑い、彼に言う。
「私も一回、お前に投げ飛ばされているんだから、相子だ。 でも、男の身体、
投げ飛ばすて気持ちイイもんだな。」
「どこの世界に男投げ飛ばす女がいるんだ? つったく。」
拗ねた声を漏らし、アスランは呆れた声音を漏らした。
彼の身体を起こすのに手を貸しながら、カガリは緩く笑う。
「そんじゃ、最後の締めだ。」
「締め?」
アスランはカガリの言葉に瞳を開いた。
「腕相撲やろう。もし、私に勝ったら、お前の言うこと、なんでも聞いてやる。」
よほど自信があるのか、カガリは挑戦的な笑みでアスランを見た。
ここまで来れば半分開き直りに近い。
アスランはその彼女の挑戦を素直に受諾する。
場を用意し、フラガの掛け声で勝負が始った。
だが、カガリがいくら力を腕に込めても、その組み合わされた腕の均衡は一行に
崩れない。
アスランは余裕の微笑を漏らしてる。
おかしい。
こんなことがある訳がない!
腕に、自分が限界と感じるまで、カガリは力を込め続けた。
が、ある一瞬を境に、アスランの腕の力が緩んだ。
あっさりと、彼の腕を組み伏せたカガリではあったが、離した自分の手をカガリは
じっ、と見た。
あまりにもあっさりと緩んだ、力のバランス。
どう考えても、アスランが態と力を緩めたとしか考えられない現象に彼女は目の前の
彼を睨んだ。
「態と負けただろ?」
「男相手なら容赦しないけど、カガリは女の子だろ? 女の子負かして自慢しても
しょうがないじゃないか。」
「私は勝ちを譲ってもらった訳か?」
面白くなさそうな視線が彼を凝視した。
「どう取ってくれたって構わないさ。 でも、俺はそこそこ本気は出していたけど。」
「嘘つくなッ!」
カガリの怒鳴り声に、フラガが場を宥めるように仲裁に入った。
「まぁ、まぁ。・・・ちょっと、時間早いけど、ふたりとも、食堂寄って昼済ませていきなよ。
今日はこのくらいで終わりにしよう。」
ムウの笑顔の提案に、カガリは渋々、アスランは苦笑で応える。
その間を縫うようなタイミングで、キラが汗だくになりながらトレーニングルームに帰ってきた。
「今日はここまでだ、キラ!」
「はぁ〜〜・・・やっと終わったぁ〜〜」
情けない声をあげ、キラはマットにうつ伏せに寝転がってしまう。
「キラも早飯だけど、昼喰ってこい。」
フラガはさり気にキラを促す。
「・・・無茶言わないで下さいよぉ〜〜 ムウさん。・・・胃がひっ繰り返ってて、食事なんて
とってもはいりませぇ〜〜ん。」
「つったく、とことん情けないヤツだな、お前。」
ムウの呆れた声。
破顔した顔のアスランとカガリ。
「ああ、ふたりとも、キラは暫く動けないと思うから、先に食堂行ってイイぞ。」
頷き、ふたりはトレーニングルームを後にした。
道行、ふと見たアスランの額が赤く腫れているのに、彼女は歩みを止めた。
「カガリ?」
きょとん、とした表情でアスランも足を止める。
ごそごそと、彼女はズボンのポケットを弄ると一枚のバンソウコウを取り出した。
ぺたっ、とそのバンソウコウを彼女は彼の許しも得ず、その額に貼り付ける。
「やり過ぎた。済まなかったな。」
ぶっきらぼうな声音で、カガリはアスランに先程の行為を謝罪した。
僅かに赤面した表情の彼女の顔。
彼は緩く苦笑を浮かべる。
「早く、食堂行こう。昼の時間に重なったら、混んで喰いっぱぐれる。」
カガリは先を急ぐように歩を進め出した。
その後を追いながら、アスランは小さく笑った。
ほんのひと時の休息の時間。
得られた充実した時に、ふたりの歩みは軽やかだった。
■ END ■
★ あとがき・・・だす。
今回は「友君」からのIFストーリーを少し弄った話で
展開をしてみました。(^凹^)ガハハ
いや、アドヴァンスのIFは最高にツボでして、これを
弄くらんと、なにをするものぞ、みたいなで、自分。
まぁ、本当は腕立てするアスランの上に乗っかっちゃう
カガリと投げ飛ばされる彼を書きたかっただけ
なんですけど。・・・笑っていただければ幸い。
壁│・m・) プププ