アスランがオーブ領海での戦闘を経て、アークエンジェル、そして
カガリが乗艦するクサナギと正式に合流を果たし、宇宙をあてもなく
航行する日々を過ごすようになってから二ヶ月が経過していた。
今は、地球軍、そしてプラント側の動向を見守る、という形には
落ち着いてはいたが、決して無為な日々ではなく、やることも
それなりには積載していたので、淡々とした日々が過ぎてる・・・
そんな具合ではあった。
コーディネイター、という立場で疎外視や、嫌がらせでもされるかも、
と危惧して、ある程度の覚悟であったのに、自分が驚く程、あっさりと
受け入れられた事実にアスランには僅かな驚きがあった。
自分が築きたいと思った未来を手に入れる為に集った仲間。
その、事実は彼の心に感慨として胸に宿る。
不思議と心地よく感じるのは、環境だけではなく、カガリが居てくれた
せいも多分にあったからなのかも知れないが・・・
そんな時間の流れの中で、クサナギにパーツだけの形で積んできた
ストライクルージュが組みあがったと、技術主任としてクサナギに
乗艦していたエリカ・シモンズの言葉を聞き、カガリは眼を輝かした。
丁度、タイミング良く、クサナギの格納庫でジャスティスのメンテナンスに
勤しんでたアスランはハッチ上部から元気な声を掛けられたことに
視線を上げる。
「アスラン、少し私に付き合ってくれないか?」
「構わないけど、何に付き合うんだ?」
「ストライクルージュが組みあがった、ってエリカ・シモンズが言ってきたから、
慣らしをしたいんだ」
カガリの言葉に、アスランは柔らかい笑みを浮かべ、快諾すると、アストレイを
任されている三人娘、ジュリ、マユラ、アサギ、そしてカガリと一緒にそれぞれの
愛機に搭乗して宇宙へと飛び出していく。
アスランはジャスティスのコクピットから、まるで保護者の気分でも抱くような
感情で、カガリの操るストライクルージュの動きを見守る。
まだ、機体に慣れてない、と思われながらもシュミレーションしかした経験がなく、
まして宇宙空間でのモビルスーツ操舵がはじめてという割には、カガリの
ルージュを操る動きが滑らかなのに、アスランは感嘆の息を漏らす。
天性の勘がそうさせているのか、それとも物怖じしない性格の現れなのか、
とにもかくにも、時々見られる危なっかしい動きはあっても、概ね動きは悪くない、
とアスランはパイロットとしての視線で判断を下した。
カガリが操舵に慣れてきたことに、アストレイのパイロットのひとりと模擬戦を始めて
しまっても、別段危機感を感じることはない動きにアスランは苦笑を浮べた。
一通りのことを済ませてからクサナギに帰投して直ぐ、アスランは愛機を降りると、
ルージュのコクピットに接するハッチから中を覗いた。
丁度、ヘルメットを脱ぎ、微笑を浮べるカガリと視線が合うと、アスランも微笑み
返しながら、先ほどの自分なりの見解を意見として彼女に伝える。
「動きは悪くない。もし、カガリさえ良かったら、OS少し、弄りたいんだけど良いか?」
「構わないけど、どうした?」
「さっき、アストレイのコと模擬戦やってただろ?反射スピードをもう少し上げた
方がカガリには丁度良いかな?って思って。」
そう言いながら、カガリと交代しながらアスランはルージュのコクピットに座り、
装備されているキーボードを引っ張り出した。
鮮やかに滑らかな動きでキーを叩くアスランの姿にカガリは感嘆の息をつく。
「キラもそうだったけど、やっぱ早いよな、お前もキーボード叩くの。」
「そうか?スピードとかそういうの、気にしたことないからな」
言葉を交わしながらも、アスランの手の動きは休むことはない。
あっという間に、作業が終了してしまうと、アスランはキーボードを片付けながら
苦笑を浮べた。
作業の工程に間違いがないか、確認をする為、機体の再起動をし、ディスプレイに
映し出される画面を見ながら微調整に専念する彼にカガリは嬉しそうな笑みを漏らした。
作業が終わってから、ふたりは格納庫を後にし、艦の食堂へと向った。
僅かに覚えた喉の渇きを癒す為であったが、食堂で何気ない会話を楽しみながら、
談笑を楽しんでいた処にアストレイ三人娘が飛び込むように姿を現す。
「あっ!いたいた。」
と、マユラは少しからかった口調でふたりを見た。
「探したんだから!」
ジュリが追い討ちを掛けるように言葉を紡ぐ。
「なにか用か?」
テーブルに接する椅子にアスランと仲良く両隣同士で座って飲み物を口にしていた
カガリは何時もの何気ない表情で三人娘を見た。
「あ、・・・じゃあ、俺・・・。」
どうもこの三人は苦手なタイプなのに、アスランは用事にカッコつけて席を立とうとした。
「あ〜 ダメダメ!アスランさんにも用があるんですから」
そう言うなり、アスランの背後から彼の両肩を抑え付け、アサギは強引に再度、
彼を椅子に座らせ直させる。
「俺にも・・・用?」
軽い疑問を浮べる表情を作って、アスランはカガリの方に視線を向けた。
ごほん、とひとつ、わざとらしい咳払いをし、マユラはふたりの前に一冊の本を差し出した。
「私たちからのプレゼントです。カガリ様、アスランさん」
如何にも妖しいオーラーを発してる、どぎついカラーの表紙の本にアスランもカガリも
揃って眉根を寄せた。
「ふたりには必要でしょう?そういう手引書」
にやっ、といやらしい微笑を浮かべ、マユラが言ったことに、カガリとアスランは視線を
交し合った。
薦められるままにふたりは手渡された本を開くと、その中の図解内容にぎょっとし、
一気に茹でたてのタコのように真っ赤になると、わたわたと慌て本を勢いよく閉じた。
「な、なんだッ!この本ッ!!」
カガリは赤面のおさまらない顔のまま、マユラに詰め寄る。
「だ・か・らぁ〜 カガリ様とアスランさんに必要な本、って言ったじゃありませんか?」
「わ、私とアスランはまだそんなッ!・・・じゃなくてッ!!あぁーッ! もうッ!信じられん!
こんな本、寄越すなんてお前ら!何考えているんだッ!!」
渡された本の内容・・・
それは男女の営みを図解した本であることに、三人娘はケラケラとけたたましく笑った。
「その顔じゃ、やっぱりまだこれからなのね〜」
ジュリはからかった口調のまま、ふたりを見る。
アスランも紅葉した顔で俯き、言葉を失っている様子にカガリは動揺したように三人に
荒く言葉を吐いた。
「こういうお節介、やめろッ!」
カガリの激しい叱責の言葉を聞いても、三人は動じた様子も見せず、益々声を高くして
笑い続けるのに、カガリは居た堪れず、アスランの腕を引っ張り上げるとふたりで
食堂をでていってしまう。
「カガリ様ぁ〜 がんばってくださいね〜〜」
黄色い妙な三人の応援を聞きながらカガリは気まずい雰囲気で通路をアスランと
共に歩いていく。
心なしか、歩調が早足なのは、彼女の動揺が収まっていない証拠でもあった。
艦内をベルトに掴まりながら移動し、アスランは愛機が格納してある格納庫に繋がる
分かれ道で立ち止まった。
「じゃあ、俺・・・アークエンジェルに戻るから・・・」
「・・・あ ・・・うん・・・」
気まずい雰囲気が拭えない状態でカガリは返事を短く返す。
アスランがカガリに緩く背を向けた時、カガリは彼に再び声を掛けた。
「アスラン!」
その声に振り向き、アスランは不思議そうな視線をカガリに向ける。
「・・・あの・・・えっ・・・と・・・その・・・」
「カガリ?」
「・・・さっきの・・・アレ・・・」
「アレ?」
「だから・・・アスランはさっきの本にあったような事、興味あるのか?」
漸く、落ち着きを取り戻したのか、アスランは苦笑を浮べながら素直にカガリの質問に答える。
「そりゃ、俺だって男だからね。興味がまったくない、って言ったら嘘になるだろう?」
くすっ、とアスランが笑ったことにカガリは赤面して俯いてしまった。
「でも、あの本にあったような事、するには相手があって初めて成立する訳だから」
「・・・したい、て思っているのか?」
そっと彼女に近づくと、アスランは彼女を優しく抱き締めた。
「ア、アスラン・・・」
驚き、瞳を瞬かせるカガリにアスランは抱き締める腕に緩く力を入れた。
「俺はカガリが好きだ。・・・でも、無理強いなんてしたくない。・・・だから、カガリが
俺を受け入れてくれる気持ちになるまで待つよ。」
「・・・アスラン」
「ま、出来たら早めの方が嬉しいけど」
くすっ、とカガリの肩で彼は笑った。
無言のまま、彼女の身体が固まった事に、アスランはそっと彼女を解放した。
互いの身体が離れる寸前、アスランは軽くカガリの唇に触れるだけの口付けをする。
その行為に、カガリは赤面しながら口元を両手で被った。
無重力の空間でアスランは軽く踵を返すと、優しい微笑を浮かべながら軽く手をあげ、
カガリに別れを告げた。
「またな。」
格納庫へと向う彼を見送りながら、カガリは無言でその場に立ち尽くす。
何時もなら、自分だって別れの言葉が素直に、自然にでてくる筈なのに・・・
でてこなかった。
言葉が・・・
そっと、カガリはアスランの唇が触れた自分の唇に指先を這わす。
初めて彼にあった時は、唯の変なヤツ、だったのに・・・何時の間にか自分たちの
距離が近づいていた事をカガリは初めて自覚した。
そして、なんとも口では表現し難い感情が熱く込み上げてる。
異性を好きになる、という初めての感情に捉われながら、カガリは不思議と柔らかく、
優しい空気に包まれている、そんな気分に曝されている自分に小さく笑みを漏らす。
彼女の小さく紡いだ唇から零れた言葉。
「・・・私も・・・お前が好きだ。・・・アスラン。」
艦の格納庫方向からは機体が発進する時に鳴らされる警告音が騒がしく響いていた。
ふと、視線を艦の窓に向ければ、彼女の瞳の中にはアスランの操る、愛機ジャスティスの
姿を捉えていた。
知らず、カガリは窓の方向に身を寄せると、喰い入る様にその姿を眼で追った。
■ Fin ■
☆ あとがきっス。
さてさて、お題4つ目クリアーしました。(^-^ ) ニコッ
今回はちょっと違う環境でトライ。まだこの時点では
アスランとカガリは清い関係という内容で。(爆)
なんか、たくさん書きたい話があり過ぎて、全然纏まって
いないのが悲しい。(T_T) ウルウル
もう、自分の文章表現の未熟さが恨めしい。
ま、ここまできたら半分開き直りに近いかも
知れません。・・・すんません、ホント。はぁ〜(ため息)