「カガリ、行儀悪いぞ。」
昼食時の時間も終わりに近づき、エターナル艦内にある食堂の
中は人波も薄れ、閑散とし始める時間帯、カガリとアスランは遅い
食事をしている最中である。
アスランはテーブルを挟んで、向かいに座り、両手で頬杖を着き、
フォークを口に咥えながら、それを上下に振ってるカガリに
注意を促した。
「う〜ん・・・ごめん。」
そう答えながら、口元からフォークをとり、今度はランチプレートの
ポテトサラダを突っつきだす彼女にアスランは眉根を寄せた。
「なにか、あったのか?」
暫く押し黙っていたカガリが、不満気な表情を漂わせながら、自分の
真向かいのアスランに視線を移すと、彼女は口を尖らせながら
言葉を発した。
「・・・キラとケンカした」
「またか?」
呆れた表情を浮かべ、アスランはため息をつき、直ぐに破顔した。
「で?今度はなにが原因なんだ?」
聞いてやるよ、と苦情処理係りの役割を買ってでるアスランに
カガリは唐突に言葉を捲くし立てた。
「アスランは、私が『姉』と『妹』、どっちが良い?」
「はぁ〜!??」
「だ・か・らッ!私が『姉』か『妹』か!」
「ちょっと待て!話が全然見えないぞ。」
身を彼に向って乗り出しながら、詰め寄る姿勢のカガリにアスランは
僅かに後退しながら冷汗を覚えた。
「キラとのケンカの原因、どっちが『姉』でそれとも、どっちが『兄』、かって
ことで口論になっちゃって・・・そしたら、キラのヤツ、自分が『兄』だって
言い張って譲らないからさぁ〜」
はぁ〜と盛大なため息をつくと、カガリは椅子に座り直し、腕組みを
すると、う〜、と唸るような声を漏らす。
こういう問題、譲るとか譲られるとかの次元なのだろうか?
と、頭の中で疑問符満載のアスランは、雰囲気を和ませるために苦笑を漏らす。
「私は、ぜ〜〜〜ったい、キラの方が『弟』だと思うけどな。」
なんでまた、そんな話が自分に振られなければならないのか、彼は少々
頭痛を覚えつつ、カガリを見る。
今は亡き、カガリの父、ウズミが娘であるカガリとの今生の別れの時、
地球をクサナギで離脱する際、告げられた衝撃の事実ではあったが、
今はキラとは『きょうだい』ということが判っただけで、それを本人たちが
納得し、確認する手段がない。
じっと、上目使いにアスランを見るカガリに気がつくと、アスランは緩く笑った。
「どっちでもイイんじゃない?」
ふと漏れた、彼の何気ない言葉にカガリは興奮して、テーブルを激しく
一度叩き、立ち上がる。
「良くないッッ!!」
その反動で、テーブルの上のランチプレートが僅かに跳ね上がった。
カガリの行動にびっくりして、アスランは僅かに身を引く。
「・・・よ、・・・良くないのか・・・」
乾いた笑いを漏らして、アスランは小さく言葉を漏らす。
「私ははっきりさせたいんだッ!」
白か黒か。
カガリ自身の性格の現れなのか、中間色を嫌うカガリならではの態度に
アスランは苦笑を漏らすしか、態度の表わしようがない。
ガタッ、と再び、乱暴な音をたて、椅子に腰掛ける彼女を伺いながら、
アスランは言葉を紡いだ。
「カガリは、自分自身はどっちが良い訳?」
「当然、私が『姉』に決まっているだろうが!大体、しょっちゅう泣いてばかり
いるキラが『兄』なんて、それ自体、納得がいかんだろうが。」
「納得ね〜」
くすっ、と笑うアスランにカガリは、ぷぅ、と頬を膨らませた。
唐突に、カガリはアスランに言葉を切り出す。
「決めてくれ」
「なにを?」
「私が『姉』か、『妹』か。」
「そういうこと、俺に聞くのか?」
「当事者同士で解決出来ないなら、第三者の意見を尊重するしかないだろう?」
いきなり突きつけられた妙な課題に、アスランは視線を泳がせた。
もし、将来、カガリと結婚するなら・・・
否、「なら」ではなく、彼はすっかり、結婚する気であったが・・・。
そうなった時、キラが喩え義理であっても、『兄』になるのは、色々な意味で
不都合かも知れないな、とふと思う。
確かに、年齢的には数ヶ月の差でアスランの方が年下ではあるが、立場的には
自分の方が兄的存在なのは、揺るがせない事実であるし、カガリと一緒になった、
と仮定した場合でも、呼び方の呼称は変わらなくても、気分的にはキラが
『兄』であったら・・・少しどころか、かなり納得がいかない。
複雑な気持ちを抱え、アスランは思考を廻らせる。
時間を掛け、彼が導きだした答え。
「俺は、カガリが『姉』の方が良い」
そのアスランの答えを聞き、カガリは瞳を輝かせた。
「やっぱりそうだろ!うん、私もその方が絶対良いと思うぞ!」
満足気な微笑みを浮べると、今度は現金なもので、俄然、食欲が湧いてきた。
アスランのランチプレートの中にあるウインナーをフォークで突き刺すと、
カガリはそれをパクリと口に運び放り込んだ。
日常的にそんなことをされているのか、アスランはさして驚いた様子も見せず、
苦笑を浮べた。
カガリは自分のプレートの中にある、まだ手をつけていないプレーンオムレツを
フォークで切り分けると、それをアスランの口元に運んだ。
慣れた仕草でアスランは口を開けると、カガリからもらったオムレツを美味そうに
頬張った。
まだ、数名の人間が食堂に居る中で、会話もそうだが、注目を浴びていても、
その視線にはふたりはまったく気がついていないのが可笑しい。
まさに「ふたりだけの世界」にどっぷり嵌っている。
話の終点が見えた段階で、カガリは急いで食事を終わらせると、プレートを片付け
席を立った。
「どこ、行くんだ?」
まだ完全に食事が済んでいないアスランは座ったまま、カガリに問う。
「ラクスのトコ。 アスランから私が『姉』に一票もらったから、これでラクスに
もう一票もらったら、3対1で私の勝ちだ!」
「はぁ・・・」
こういう話題が、勝ち負けの問題なのだろうか?と、アスランは僅かに首を傾げた。
彼自身の私心的な打算心情を見抜けぬまま、カガリは嬉しそうに食堂を飛び出して
いくのをアスランは呆然と見送る形になる。
彼女が行ってしまうと、アスランは僅かに苦笑を浮べる。
・・・そして、それから二時間余り、ジャスティスのコクピットでメンテナンスに勤しんでいた
彼のもとに血相を変えたキラが飛び込んできたのは云うまでもなかった。
■ END ■
☆ ちょこっとあとがき
お題ふたつめです。(o^<^)o クスッ
なんか、どこにでもありそうなネタですが、
カガリに詰め寄られ、妙な打算からカガリを
『姉』に認定してしまうアスラン・・・
馬鹿馬鹿しすぎな気もしますが、
その辺は笑って読み流してもらえれば
ありがたいっス。
しかし、これじゃ「戦争」じゃなくて
唯の「論争」ですね。げらげら o(^▽^)o げらげら