軽い歩調でカガリはエターナルの艦内を歩いていた。
停戦宣言がなされてから、かなりの日数が経過してはいたが、
まだプラントへの入港許可が下りない今、なんだかんだと忙しい中では
あったが、暇を作っては頻繁にエターナルを訪れていた。
ふと、通り掛かった艦内の食堂から異様な空気が流れてくる
気配を肌で感じると、彼女は何気に覗き込んだ。
眼に飛び込んできたのは食堂のテーブルを挟んで、トランプタワーを
作っているアスランとイザーク。
あまりにも珍しい光景にカガリは眼を見開くと、入り口の壁に凭れて
そのふたりの姿を鑑賞しているディアッカに声を掛けた。
「なにやってんだ?あのふたり。」
「見ての通り、勝負中。」
苦笑を浮べるディアッカに、カガリは首を傾げる。
勝負、と一言で括られても、感じるこの妙な空気はなんなのか理解不能なのだ。
幾ら真剣勝負でも、熱が入りすぎると、空気自体が鬼気すら感じるからだ。
何がきっかけで始ったかは、検討もつかなかったが、その理由はディアッカが
簡単に説明を施してくれた。
聞けば、アカデミー時代からの宿敵同士らしい、とのことで。
もっとも、突っかかってくるのはいつも一方的にイザークの方だった、というのも聞き、
カガリは破顔する。
ディアッカから、当時の様子を伺えば、勝率的にはいつもアスランが優勢で、
その後の後始末の方が大変だったと聞き、カガリは噴出す。
「ほ〜んと、見せられるもんだったら見せてやりたいくらいだったぜ。
まさに、猛獣放し飼い、だもんな。」
肩をあげながら、今更ではあったが、苦笑を浮べつつ、ディアッカはため息を漏らした。
なかなか入港許可の下りない、軍の同期の陣中見舞い、ということが
イザークの来訪理由らしかったが、暇つぶしに持ってきたトランプが
まさか、こんな状況を生み出すなんて・・・
爆弾はどこに落ちているのか、解からないものだ。
ふと、カガリは子悪魔のような笑みを浮かべると、そっと背後からアスランに
近づいていった。
彼の耳元で、態と甘い声音を漏らし、彼の名を呼ぶと、ふぅーと、アスランの耳に息を
吹きかけた。
突然の出来事に、真剣にタワー組みたてに取り組んでアスランの身体が
瞬時に硬直する。
すると、足のつま先から頭の天辺まで、一気に身体が蒸気した。
あと一枚でタワーが完成する寸前だった、その手元がぶれ、タワーがバラバラと
音を立てて崩れ去っていく。
「ああッッーーーーッッ!!!」
引きつり、大声で叫ぶアスランにカガリは爆笑した。
その彼のあげた声に驚き、イザークの手元も狂い、彼のタワーも崩壊を起こしてしまう。
「アスラァァーーーンッッ!!貴様ッ、わざとかッッ!!」
ガタッ、と勢いよく椅子から立ち上がると、イザークはアスランに怒鳴り突っかかった。
「今のは、偶発事故だ!」
漸く、カガリの存在に気がついたイザークは、ふんと鼻を鳴らすと、腕を組む。
「なんの用だ? 男女」
「んなッ!?男女、って、失礼だぞ!このおかっぱッ!」
「誰がおかっぱだッ!喧嘩売ってんのかッ!?」
「売ってきたのは、そっちだろうがッ!」
カガリは身を乗り出し、イザークを睨みつける。
援護射撃とばかりに、アスランも加勢に加わった。
「誰が男女だ!カガリは可愛いんだからなッ!俺が夜誘えば、そりゃあ、ものすごく
色っぽくって・・・」
アスランがそこまで言いかけたところで、彼の背にカガリの十六文キックが炸裂する。
ものの見事に、アスランの身体が吹っ飛び、素早く横に身をかわしたイザークの脇を
すり抜け、ビタンッ!という衝撃音とともに彼の身体が壁に激突した。
「いらん事、べらべらしゃべるなッ!!馬鹿ッ!!」
顔を真っ赤に染め、カガリはアスランに怒鳴る。
ずずず・・・と、張り付いた壁からアスランの身体が滑り落ち、恨みがましい声が響く。
「・・・ひどいよ・・・カガリ。」
興奮したあげくの戯言が、とんでもない展開になりつつあるのを遮るように、イザークは
冷たい視線でカガリを見る。
「つったく、なにが良いんだか、ホントにお前の趣味疑うぞ、アスラン。」
フォローしようにも、今のアスランにはその気力がない。
壁と仲良くランデブーしながら、アスランは目眩を堪え、よれよれと立ち上がる。
「ところで、お前、ここで何してるんだ?」
カガリはむっ、としたまま、イザークに問うた。
「お前には関係ない」
本当は、エターナルに缶詰状態で動きの取れない仲間を心配して尋ねて来た、
などとは口が裂けても言えなかった。
ふん、と再び鼻を鳴らし、イザークがそっぽを向くのに、カガリは今にも噛み付きそうな
表情でイザークを睨む。
「もう、その辺にしておけ、イザーク。」
状況を収集する為に、ディアッカが割って入ってくる。
「しかし、不本意だな、この状況は」
崩れ落ちたトランプの山を見ながら、イザークは眉を潜め、ひとりごちた。
「ドロー、ってことでイイんじゃない?」
苦笑を浮べつつ、ディアッカは提言した。
「そんなモン、納得できるかッ!」
また始った、とばかりにディアッカは深くため息をつく。
「アスランッ!今日はこれで勘弁してやるが、次来た時は再戦だ!」
やっと立ち直ったアスランは不敵な笑みを浮かべ、身構えた。
「望むところだ!!」
即決で返事を返すと、彼はきつくイザークを睨み付ける。
互いにがるる・・・、と唸り声を上げ、その睨み合った空間には激しい火花が散っていた。
普段は物静かな風体のアスランの、意外に単純かつ、熱くなるその姿を垣間見、
カガリは驚き、瞳を開いた。
彼女は自分に今まで見せなかった彼の一面を覗けたことは嬉しいことの何物でもない、
と苦笑を浮かべ思う。
不機嫌な態度を隠しもせず、イザークが食堂をでていってしまうのを見送ると、
その後をご機嫌取りをするようにディアッカもイザークについて出ていってしまった。
台風のもとが場を退場していくと、はぁ〜、とため息を零し、アスランは苦笑を浮べる。
席に座り直し、小さく彼は言葉を紡ぐ。
「あれはあれで、案外、イイ奴なんだよな・・・」
「え?」
アスランの隣に腰を降ろし、カガリは彼の顔を見た。
「色々、用事にはカッコつけているけど、俺たちの様子、見にきてくれたんだよ」
「ふ〜ん。 ま、アスランがそう言うなら、そうなんだろうな。」
言い方は多種多様ではあるのだろうが・・・。
イザークとアスランの関係は良くも悪くも好敵手なのだ。
納得した微笑を浮かべ、カガリは頬杖をつきながら、嬉しそうにアスランを見る。
「それより、さっきのはなんなんだよ!」
「あん?」
アスランは軽い憤りをカガリにぶちまけた。
カガリはすっとぼけた返事を返し、彼を見、首を傾げた。
「何も蹴らなくたってイイじゃんかッ!」
カガリの先ほどの行為を蒸し返すように、アスランはぷんぷんと癇癪を起し、
彼女にずいっと詰め寄った。
「あ、あれはッ!お前がしゃべり過ぎるからッ!人前であんな事、言うお前が悪いッ!」
赤面しつつ、カガリも反論する。
「痛かった」
「そりゃ、痛いだろうな。蹴ったんだから」
「骨折れそうだったぞ」
「何を大袈裟な」
「カガリが優しくない。」
「優しくなかったら、どうだって云うんだ?」
思いっきり、甘えたいモードの視線を向けるアスランにカガリは赤面してそっぽを向く。
場をはぐらかされたように、アスランはう〜〜っと、不満気な唸りをあげる。
くすっ、と笑うとカガリはアスランの頭を撫でた。
「よしよし」
「よしよし〜?・・・子供扱いすんな!」
「だって、甘えたいんだろ?お前。」
「甘えたいは甘えたいけど、種類が違う。」
「種類?」
カガリはアスランのその言葉に首を傾げた。
「唇にちゅーがイイ。」
「ば、馬鹿云うなッ!甘え過ぎだッ!!」
顔を真っ赤に沸騰させ、カガリは席を勢いよく立ち上がると、食堂から泡を喰ったように
逃げ出していってしまう。
「チッ、逃げられたか。」
軽い舌打ちをしながらも、アスランの表情は実に楽しそうである。
どうせまた、時間を置かずに、カガリも直ぐ用事にカッコつけて、エターナルに来るのは
解りきっていたので、アスランは気にした風も見せず、今は可愛い小鳥を無理には
拘束しなかった。
彼は嬉しそうな微笑を浮べると、テーブルの傍らに置いてあった自分の飲みかけの
コーヒーを口にする。
「・・・ん〜・・・やっぱり冷めたコーヒーは不味いな・・・」
ひとりごち、彼は散らかったままのテーブルの上のトランプに視線を移した。
「まったく、やりっぱなしのクセは直ってないんだな、イザーク。」
呆れた声を漏らすと、アスランは仕方なさそうにテーブルの上のトランプを
片付け始めたのだった。
■ end ■
☆ あとがき ☆
とにかく何、って。馬鹿馬鹿しいまでのコメディを
書きたいな、と漠然と考えていたら、こんな話に
なってしまいました。
H系な話もイイですが、種キャラのバタバタ話しも
大好きなんで、完全自己満足ストーリーですね。
あいたた・・・(^。^;)