『祈り』


唯、触れるだけのくちづけ。
優しい感情が溢れ出すように・・・
それは、願いにも似た祈り。
・・・無事に帰ってきて欲しい、という、儀式にも準ずる行為。
「・・・じゃあ、行ってくる。」
アスランは優しい微笑を浮かべながら、自分の腕の中に納まってる
金の髪の少女を見た。
互いの視線が絡み合い、名残惜しそうに彼はその腕からカガリを
そっと解き放った。
「早く戻らないと、またキサカ一佐に怒られるぞ」
誰が引き止めたんだ!と、思わず出そうになった批難の言葉を
カガリは呑み込んだ。
愛機、ジャスティスが格納してある、人目につき難い格納庫の影から
アスランは身を翻すと、床を強く蹴って無重力の空間を慣れた姿勢で
真っ直ぐに愛機へと身体を滑らした。
ジャスティスが発進していくのを見送ると、カガリは自分の艦である
クサナギに急いで戻る。
案の定、艦橋に滑り込むなり、キサカの激しい叱咤が飛んできた。
「遅いぞ!カガリ」
「すまない。」
カガリは自分に否があるのは重々承知していたので、素直に謝罪の
言葉を紡いだ。
キサカが座っている席の背もたれに手を掛けながら、カガリは喰い入るように
戦闘が開始されたモニター画面に見いった。
今は自分たちに敵対している連合軍の三機のモビルスーツ、レイダー、カラミティ、
フォビドゥンが、アスランの駆るジャスティス目掛け、集中的な砲火を浴びせてる
様子にカガリは叫ぶ。
「援護を!」
「ダメです!あの混戦で撃っては、ジャスティスに当たります!」
艦のCIC担当の男は悲鳴のような声で事実を告げた。
「くそッ!」
苛立たしげに、カガリは拳を振り下ろした。
何故、自分は見てることだけしかできない?
オーブで、初めてジャスティスが前線に加わった時も、自分は唯、モニターで戦況を
見詰めるしかなかった。
見ているだけ、ということが、こんなにも口惜しい感情が渦巻くなど、言葉より行動を
優先するカガリには針の莚でしかない、その事実。
ぎゅっ、と硬く眼を瞑ると、心の中で言葉を紡いだ。
ハウメアよ、彼に加護を与えたまえ・・・と。
ジャスティスを援護するようにフリーダムが、その戦闘の間に強引に割って入る。
相も変わらず、敵の三機は呼吸もバラバラで自分勝手な攻撃を仕掛ける中、
ジャスティスとフリーダムは息もぴったりに、互いをリカバーしながら攻撃を仕掛けるが、
いかんせん、止めを刺すまでには行き着かなかった。
激しい攻防が展開される中で、カガリは唯、じりじりとしながら息を詰めた。
時間にしてみれば、小一時間程経過した処で、三機の母艦であるドミニオンから
帰還命令の発光弾が打ち上げられたことに、戦闘は一時中断を余儀なくされる。
三機の敵機が引き上げていくのを見送る形になりながら、ジャスティスとフリーダムも
一時帰投をする為、エターナルに戻ってくるのを確認すると、カガリは慌ててクサナギの
ブリッジからでていくのをキサカに諌められた。
「何所にいく!カガリッ!」
「ちょっと!」
「ちょっと、じゃない!戻ってきなさい!カガリッ!!」
だが、キサカの怒鳴り声も、今のカガリには何の効力も齎さない。
早い鼓動を無理に納めようと、カガリは艦の移動ベルトで移動しながら、着ていた
オーブ軍のジャケットを強く握り締める。
一分でも早く、アスランの無事な姿を自分の眼で確かめたかった。
そして、今はそうせずにはいられない気持ちが強かったから・・・
エターナルの機体格納庫にジャスティスとフリーダムが収容されると、アスランは
愛機の中で激しく忙しい息をついた。
モビルスーツでの戦闘は、究極の精神的な緊張と圧迫を強いられる。
それは、強靭な肉体と精神的に恐怖に打ち勝つ極度の精神力を維持しなければならない
行為に他ならない。
それに区切りがついた時、激しいまでの疲労感を伴うのは否めないことであった。
ヘルメットを脱ぎ捨てると、コクピットの空間には、汗の雫が小さな玉状となり、浮かんだ。
息を整えようと、アスランはゆっくりと大きく深呼吸をひとつした。
不意に、モニターに映った、真っ直ぐとジャスティスに向って身体を泳がしてるカガリの
姿を視認すると、アスランはコクピットのハッチだけを開放した。
そこから腕を伸ばし、カガリの手を掴むとアスランはコクピットの中にカガリの身体を
引っ張り込んだ。
カガリをコクピットに引っ張り込んだと同時に、アスランは反射的にハッチを閉じる。
丁度、運悪くその現場をフリーダムから降りてきたキラに目撃され、アスランは苦笑を浮べる。
「アスランッ!!ちょっとッ!!何、やってんのさッ!!」
怒ったその声は、しっかりジャスティスの無線スピーカーに拾われ、コクピット中に丸聞こえ
なのに、カガリは真っ赤に頬を染め、アスランは苦笑いを漏らした。
ジャスティスに向おうと必死に空中を泳ぐキラのパイロットスーツが不意に後方に引っ張られた
ことに、キラは、その重力の掛かった方を睨みつけた。
「ムウさん!!放してくださいッ!!」
「お前、そいうことすんのやめなよ」
「だって!」
「だって、じゃないよ。そいうの何ていうか知ってる?」
膨れた顔のキラにムウは口端を上げ、緩く笑みを漏らした。
「野暮すんなよ。『馬に蹴られて死んじまえ』って言われんぞ。」
「そんなこと云われたって・・・カガリが・・・」
「ほら〜 そいうことが余計な御世話、て云ってんでしょう? それよりピンクの髪の
お嬢ちゃんがブリッジでミーティングだ、って言ってたから、トップメンバーは招集だ」
言うなり、ムウはじたばたと暴れるキラのパイロットスーツの首根っこを掴むと、共に
その場を後にしたのだった。
格納庫に静寂が戻ると、アスランとカガリは静かにため息を漏らす。
なんだか、ふたりの関係が公になっても、邪魔的なことは、どいうわけか多発しているのが
非常に頭が痛かった。
もっとも、いずれもキラが必ず首を突っ込んでくるあたりは、なんと言っていいか解らない。
キラとカガリが双子の姉弟という関係が発覚してからというもの、キラのシスコンぶりは激しく、
カガリに近づく者は全て排除、になりかけていることに、アスランは頭を抱えていた。
幾ら、今まではひとりっこの状態で、姉の存在が振って沸いたように解ったから、といって、
何故こうも邪魔をされなければならないのか、アスランには理解できないからだ。
なにが悪いのか、さっぱり解らない。
それでも、今はキラの気持ちよりも、それが我侭だと言われようが、カガリを独占したい、
という気持ちだけは譲れなかった。
互いの瞳、そして視線が絡み合うと、アスランとカガリは唇を交わしあった。
まるで、互いの存在理由を確かめ合うように・・・
緩く、アスランはカガリの腰に両腕を廻し、抱き締める。
カガリはアスランの首筋に両腕を廻し、しっかりと、彼の体温を確認するように力を込めた。
触れては離れ、離れては触れる。
お互いの唇の感触を感じながら、アスランは愛しむようにカガリの頬に唇をそっと触れさせる。
ふと、アスランが小さく言葉を漏らした。
「あんまり・・・動かないで欲しいな・・・」
「へっ!?」
喉が引きつる様な妙な声を漏らし、カガリはアスランを見詰める。
漸く、狭いコクピットの中で、カガリがアスランの膝を跨いだ格好、という痴態に、カガリは
慌てて身を捩る。
暴れた瞬間に、ゴンッ!と、いう鈍い音がカガリの頭部から響いた。
「おい、その辺のスイッチにぶつかるな。機体がおかしくなったら困るだろ?」
くすっ、と苦笑を漏らし、アスランはカガリの腰に廻した腕に力を込める。
「あ、あのさー 私たちも行かなくちゃ、まずくないか?ラクスが呼んでる、ってさっき
言ってたじゃないか?」
赤面した顔でカガリは言葉を吐いた。
「行くよ。 カガリがミーティングの後、俺の部屋にくる、って約束取り付けたらね」
にっこりと悪魔の微笑を浮かべ、アスランは自分の膝の上のカガリを見た。
「そんな約束できるかッ!」
「生殺し?随分つれないんだな、俺のお姫様は・・・」
「アスランッ!!!」
恥かしさの余り、カガリはつい声を荒げてしまうのにもめげず、アスランはカガリの胸に
ジャケット越しではあったが頬づりする。
ゴツッ、と鈍い音がアスランの頭部に響くとカガリはコクピットのハッチを開放し、先に身を
踊らせた。
「先にいくぞ!」
そう言い残して、カガリはアスランをコクピットに残したまま、身体を翻す。
「・・・ツッ・・・なんで・・・グーで殴るかな・・・カガリ・・・」
これじゃ、まだ平手打ちの方がマシな気がする、とアスランはぼやくと、自分もカガリを追って
コクピットを後にした。
何時になったら、もっとカガリと親密な関係になれるか思案しながらではあったが・・・。




                                            =END=






■ あとがき ■
はじめて書きあげたお題その1です。(o^<^)o クスッ
しかし、なんか、この話のアスランて黒っぽ〜い。(爆)
いや、黒ザラも嫌いじゃないけどさ。それにつけてもカガリが
愛い憂いし過ぎ?・・・なんか恋愛ベタなカガリ、って好きなんです
よね〜〜( ̄ー ̄)ニヤリ おまけになんでこんな話になったかと
いえば、SEEDのH相性占いなるものを覗きまして、ザラ氏の
性格判断なるものを読んだのですが、アスラン・ザラはテクニック
には過剰なくらい自信があるタイプ、らしい。と書いてあったんで・・・
(うっひゃ〜〜(〃∇〃) てれっ☆)ま、どう転んでも彼、蠍座だから
Hするなら、それなりに激しい系だとは思うけど、アスランの方が
激しすぎてカガリの方がヘタばる・・・ん〜これが良いのか
悪いのか・・・さっぱり解りません。ψ(`∇´)ψ うきょきょきょ