何故、あんな事を言ったのか自分でも解らなかった。
だが、今の自分には迷いがあるから・・・
どうしてこんな事になったかなんて、考えても解らないことだらけ過ぎて。
・・・あのこの涙を見るまでは。
自分の全てが正しいと思っていた筈なのに・・・
ディアッカはひとり、戦闘の区切りがついた中で悩み、漂っていた。
不意にヘルメットの中で自分の名を呼ぶ無線の声に我に返った。
「ディアッカ!」
「そんな怒鳴らなくても聞こえてる。・・・これから帰投する・・・」
業務的な伝言を管制担当のミリアリアに伝えると、ディアッカは無線を切った。
ふうっ、と重いため息をついて瞼を緩く閉じた。
今は自分の艦、そして帰る場所となった新しい艦、アークエンジェルの
機体格納庫に収容された愛機、『バスター』のコクピットの中でディアッカは
息苦しさを少しでも解消するような仕草でヘルメットを脱ぎ捨てた。
無重力の空間の中に浮かぶヘルメットを鬱陶しそうに手で祓うと、
また自然にため息が漏れた。
加担しよう、なんて気持ちは微塵もない。
でも、涙だけは見たくなかった。
それが今、自分がここに居る唯一の理由なのかも知れなかった。
「ディアッカッ!!」
聞きなれた管制誘導の声がコクピットの外から聞こえてくる。
モニターにはミリアリアの姿が映っていた。
心配そうに覗き込む姿に、ディアッカは苦笑を漏らした。
愛機のハッチを開けると、そこには心配気なミリアリアの姿があった。
「イイのか?こんな所に来て・・・」
やや呆れた声でディアッカは苦笑を漏らした。
「今は待機中だから・・・それに何度も呼んだのに応答がないから・・・
怪我でもしたの?」
当然の質問。
その彼の答えを待つような仕草が堪らなく可愛らしく思える。
不思議な感覚だった。
「・・・イザークに会った」
「イザーク?」
「・・・ザフトに居た時の知己さ・・・」
苦しそうに、うめくような声を漏らしディアッカは眼を伏せた。
先の戦闘での廃コロニーでの出来事。
イザークを説得出来る、なんて微塵も思っていた訳ではない、唯、今の自分の
気持ちを伝えたかっただけの行動だったのかも知れなかった。
互いに愛機を降り、言葉を交わしたのは久し振りだった。
そして、互いの信じる道が分かれた瞬間でもあった。
己の信ずる道の相違。
ほんの少しのすれ違い。
湧き上がる疑問が互いの道を隔てた瞬間。
「・・・俺は・・・ここに居てもイイんだろ?・・・ミリアリア・・・」
「可笑しなこと言うのね。・・・だってアンタはもう仲間でしょう?」
微笑を漏らし、ミリアリアは、はにかんだ笑み浮べる。
「・・・守りたいんだ・・・君を・・・」
「ディアッカ?」
「もう・・・君の涙は見たくないから・・・」
それが今の自分の存在理由・・・。
不意にミリアリアの片腕をディアッカは自分の胸に引き寄せた。
「ちょ、・・・!? 何!?」
「俺はコーディネイターだ。でも、どんなことをしたって出生だけはどうしよもない」
「ディアッカ?」
「・・・好きになってもイイか?・・・お前のこと・・・」
突然の出来事にミリアリアは戸惑った。
最愛の恋人であるトールを失って間もない。
その傷が完全に癒えた訳ではなかった。
が、人を憎むのは酷く体力が居る、ということも覚えた。
「・・・私がアンタのこと、ホントに好きになるのは時間が掛かるかも知れないよ・・・
それでもイイなら・・・」
ディアッカはミリアリアの肩口で緩く頷いた。
「・・・それでもイイ・・・」
小さな彼の声を聞きながら、ミリアリアは瞼を閉じた。
・・・何故、人は殺し合うのだろう。
喩え、血筋が違おうとも、求め合うことは出来るのに・・・
今のこの、ふたりのように・・・
自然、ディアッカはミリアリアを抱き締める腕に力を込めた。
戸惑いながらも、今の気持ちを不器用に表現するように、ミリアリアも緩く彼の
背に腕を廻したのだった。
= END =